
発売から40年を迎えたGPZ900R。今なお人気が高く、中古車市場はもちろんカスタムシーンも盛り上げている。ここで紹介する個体は、オーナーがカスタムを加え進化をし続けている個人カスタム車両だ。転倒して修理したが、どうしても走行中のシミー現象が気になるという。もしかしたらフロントフォークの歪みがあるかもしれないということで、確認も含めモトメカニック編集部でオーバーホールを行った。
●文/写真:モトメカニック編集部 ●外部リンク:丸中洋行
ホイールでもステムベアリングでもない、シミーの原因はタイヤ!? そんなことある!?
“タイヤの偏摩耗やホイールのアンバランス”は、シミーの原因として挙がる2大要因。だがタイヤは新品交換後数百kmで、明確な摩耗や傷はなく、ホイールもバランスウェイトなしでブレずに走っていたことから犯人ではないと判断していた。
そこで、ホイール/ステムに続きフロントフォークをオーバーホール。今回はその工程を紹介する。
最初に暴露してしまうのだが、フロントフォークの曲がりを心配し、チェックを含めての作業だったが、じつは作業後もシミーが続いた。そこで「もしや?」と考え、ダメ元でフロントタイヤを交換したところ、ものの見事に完治してしまったのだ!!
横方向に滑ったことで内部構造に何か異常が発生したのかもしれないが、まさに拍子抜け。タイヤ交換以外に行った作業も、転倒によるダメージの修復はもちろん、メンテナンスとしても有効だから無駄ではない。しかし、まさか原因がタイヤとは…。
インナーチューブのクランプ位置を変えてもアクスルシャフトは通るので曲がっていないと思うが、念のため単品でも確認した。ZRX1100のフロントフォークを流用しているので、丸中洋行が製作販売する純正同等の規格部品であるNTBのオーバーホールキットを調達。さまざまな機種用のキットが出ているのでありがたい。適応車種はこちらで検索を。→丸中洋行 オートパーツサーチ
NTBフロントフォークオーバーホールキットの入組は機種によって異なるが、ZRX1100用のFKK-11はオイルシール/ダストシール/スナップリング/ドレンボルトワッシャーが左右分各2個ずつ含まれている。
インナーチューブのスライドメタル/アウターチューブブッシュ/トップキャップのOリングはカワサキ純正部品を入手。オイルシール類に比べると交換頻度は少ない部品だが、これらも念のため新品に交換した。
ZRX1100は純正フロントフォークがカートリッジ式で、伸び側と圧側双方の減衰力調整が可能。またこのフォークはニンジャに流用するため延長キットが組み込まれ、ハイパープロのスプリングに交換されている。
ハンドル振れの原因として、フロントフォークでもっとも確認しておきたいのはインナーチューブの曲がり。転倒時に曲がるポイントとして一番多いのはアンダーブラケット直下。だが左右のチューブはぴったり密着する。
スライドメタルを取り外したインナーチューブを合わせながら回転させても、2本の間に隙間ができることはなく、曲がりはないことが確認できた。異常がないのは嬉しいことだが、同時に原因追求も頓挫することになる。
可能性としては低いが、ボトムケースの異常を確認するため、インナーチューブのみをストロークさせてみたところ、途中で引っかかることなくスムーズに作動した。組立時はインナーチューブ手前(上の写真内)のパーツを新調する。
ダンパーカートリッジをインナーチューブに通して、先端にオイルロックピースを取り付ける。その先のボルトで固定するイメージだ。ちなみにカートリッジとオイルロックピースはセット部品ですでに販売終了だ。
【市販の角パイプが特殊工具に変身!!】 カートリッジ上部に四角穴があり、ここにはまる角パイプを用意するとホールディングツール代わりに使えるというネット情報を頼りに、一辺19mmの角パイプを購入。ぴったりフィットして分解/組み立て双方で重宝した。
カートリッジ内部を通過するフォークオイル通路の一部となるため、ボトムケース下部から取り付けるボルトはブレーキバンジョーボルトのような穴あきタイプ。ボトムケース下部の圧側調整ダイヤルでオイル流量を調整する。
角パイプでダンパーカートリッジが回らないように押さえながら、ボトムケース下部のボルトを本締めする。カートリッジから減衰力調整用ロッドが突き出しているため、回り止めは四角棒でなく“パイプ状”でなければならない。
インナーチューブにビニール袋を被せて、オイルシールをセットする。このインナーチューブはアンダーブラケット下にも点サビがあるため、ボトムケース近くまでビニールでカバーしている。
NTBオイルシールをセットする前に、ボトムケースのブッシュとワッシャーをインナーチューブに通してある。それらはインストーラーでオイルシールを圧入する際に同時に打ち込まれていく。
オイルシールを打ち込むと、スナップリングが収まる溝が見えるはず。裏を返せば、ボトムケースにリング溝が見えないうちは圧入不足である。またオイルシールが傾かず、内面一周しっかり溝が見えているかも確認する。
作業中の見栄えは悪いが、ビニール袋は点サビ部分を越える位置まで被せておくことが重要。せっかくオイルシールやダストシールを交換しても、サビでリップを傷つけてしまえば本末転倒だ。
減衰力調整用ロッドがインナーチューブ内に落ち込まないよう、針金などを巻き付けた状態でフォークオイルを注入する。今回はZRX1100用ハイパープロスプリングキット指定のオイルを使用した。
インナーチューブフルストローク状態で、油面高さ200mmが指定の標準セッティング。ここではシミー症状の解決が本題なので、フォークオイルレベルゲージも200mmにセット。
フォークオイルを多めに入れて、ダンパーロッドをストロークさせると、カートリッジ内にオイルが行き渡って明確な減衰を感じるようになる。その後、余分なオイルをシリンジで吸い上げる。
ダンパーロッドを引き上げて、密巻き側を上にしてスプリングを組み込む。中空ダンパーロッドの内部に減衰力調整用ロッドを挿入して、カラーやトップキャップを正しい順序で復元する。
インナーチューブとボトムケースにダメージがない時点で、フロントフォークはシミーの原因でないことに気づいていたが、これも無実だった。ほぼ無傷のタイヤが元凶だとは最後まで信じられなかったが、事実は小説よりも奇なり、である。
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