
1980年代、日本中がモーターサイクルの熱狂に包まれていた時代。世界選手権へ昇格した「鈴鹿8耐」とともに誕生したのが、”アマチュアライダーの甲子園”こと「鈴鹿4時間耐久オートバイレース」だ。2024年に一度幕を下ろしたこの伝説のレースが、2026年9月に新たなコンセプトのもと復活を果たす。それを記念し、当時の黎明期を鮮烈に駆け抜けた女性コンビの実動マシン「スズキGSX400E」の特別展示が開催される。45年の時を超え、あの熱い夏が今、鈴鹿に蘇る。
●文:ヤングマシン編集部 ●写真/外部リンク:鈴鹿モータースポーツ友の会
600台が夢を追った”アマチュアの甲子園”と彼女たちの夏
1980(昭和55)年にスタートした「鈴鹿4耐ロードレース」は、またたく間にバイクブームに沸く若者たちの情熱の受け皿となった。1980年代後半から90年代前半にかけては、わずか60台の決勝出走枠に対して実に600台前後ものエントリーが殺到。ここから後に世界GPや全日本で活躍するトップライダーが数多く羽ばたいていった。
その熱気渦巻く黎明期において、ひときわ多くの話題と共感を集めたのが、女性レーシングライダーの草分けである故・堀ひろ子さんと今里峰子(現姓:腰山)さんのコンビである。
記念すべき第1回大会、彼女たちは見事予選トップ(ポールポジション)を獲得するも、決勝レース序盤で他車が撒いたオイルに乗って転倒リタイアというドラマチックな結末を迎えた。果敢にサーキットに挑む彼女たちの姿は、当時の多くのバイクファンの心に強く焼き付いている。
あえて「2気筒」を選んだスズキの意地。GSX400Eの凄み
堀ひろ子とGSX400E
彼女たちが相棒として選んだマシンが、1980年1月にスズキから発売された「GSX400E」である。
当時、市場では1979年にデビューしたカワサキ・Z400FXを筆頭に、4気筒モデルが圧倒的な人気を誇っていた。しかし、スズキは「車格やウェイトを含めたトータルバランスでは、400ccは2気筒がベスト」と判断。燃焼室内で混合気が2つの渦を巻くTSCC(ツイン・スワール・コンバスション・チャンバー)ヘッドを持つ、空冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンを開発し、市場へと投入した。
事実、その性能はすさまじかった。最高出力44PS/9500rpm、最大トルク3.7kg-m/8000rpmというパワーは当時の4気筒モデルを凌駕し、車両重量(乾燥)はZ400FXより18kgも軽い171.3kgを達成。
足回りにはANDF(アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク)機構を備え、サーキットでも互角以上の戦闘力を発揮したのだ。後に続く多気筒化の波に飲まれ、短命に終わってしまった隠れた名車であるが、その本質的なトータルバランスの高さは、耐久レースという過酷な舞台でこそ真価を発揮するものだった。
45年の時を超え、実動状態で保存された貴重な個体
今回、鈴鹿市役所1階市民ロビー「モータースポーツ振興コーナー」にて特別展示されるのは、まさに第2回大会(1981年)に堀ひろ子・今里峰子コンビで参戦し、決勝を見事34位で完走した「GSX400E」そのものである。
驚くべきは、このマシンが今なお「実動状態」で保存されているという事実だ。カウルに刻まれた傷や、当時のままのステッカーの数々。目の前に佇むその車体を眺めれば、夏の鈴鹿サーキットの焦げるようなアスファルトの熱気や、エキゾーストノートの轟音、そしてオイルの匂いが鮮やかに脳裏にフラッシュバックするはずだ。当時の若者たちがすべてを懸けた「彼女たちの夏」が、確かな質量を伴ってそこにある。
7月24日開幕。あの頃の自分に会いに行こう
特別展示「彼女たちの夏-鈴鹿4耐」は、くしくも1981年の鈴鹿4耐が開幕した日と同じ、2026年7月24日(金)の13時30分からスタートする(10月30日14時まで予定)。なお、9月14日(月)14時から24日(木)14時まではイベントデモランのために車両がいったん引き揚げられるため、まさに「生きたマシン」であることを実感できる粋なスケジュールとなっている。
青春時代、バイクにすべてを注ぎ込んだ大人たちへ。今年の夏はぜひ鈴鹿市役所へ足を運び、45年の時を超えて蘇る伝説のマシンと対話しながら、あの頃の熱かった自分自身と再会してみてはいかがだろうか。
今里峰子(左)と堀ひろ子(右)
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