ハーレー公式イベント『ブルースカイミーティング愛知蒲郡』に、歴代ハーレーがずらり勢揃い。サイドバルブ、ナックル、パン、ショベルなど貴重な名車たちを次々にキックで目覚めさせ、往年のサウンドを響かせた。さらに1912年製の英国車は、ペダルを漕いでエンジンを始動! その光景に大きな歓声が沸き起こったぞ!!
●文:青木タカオ(ウィズハーレー編集部) ●外部リンク:Vintage Bike Run in Tsushima
ペダルを漕いでエンジン始動!
1912年製のRUDGEが始動。
ペダルを漕いでクランクを回し、フライホイールに運動エネルギーを蓄える。十分に勢いがついたところで、その回転(力)を利用してエンジンを始動する。
現代のオートバイしか知らない人にとっては、驚きの光景に違いない。しかし、かつてはこれが、オートバイのエンジンを始動するためのごく一般的な方法だった。
そんな歴史的な始動シーンを目の当たりにしたのは、2026年7月4日、ラグーナビーチ(大塚海浜緑地)で開催されたハーレーダビッドソンの公式イベント『ブルースカイミーティング愛知蒲郡』でのことだ。
アメリカの独立記念日にあたるこの日が、土曜日と重なった。広々とした砂浜や芝生広場、ヤシの木が並ぶ開放的なロケーションにはアメリカンムードが漂い、数多くのハーレーファンやバイク乗りたちが集まっていた。
会場の一角で、ひときわ大きな注目を集めていたのが、遠い過去から時を超えてやって来たようなオートバイたちだった。
津島に残るレースの記憶
天王川公園(愛知県津島市)でのオートバイレース全国大会。資料提供:津島市立図書館
貴重な車両を展示し、さらにエンジン始動のデモンストレーションを披露したのが、『Vintage Bike Run in Tsushima(ビンテージバイクラン in 津島)』のメンバーたちだ。
彼らは旧いオートバイを並べるだけではない。実際にエンジンを始動し、走らせることで、その存在と魅力を後世に伝えようとしている。
その活動の背景には、津島市の天王川公園に刻まれた、長いオートバイ文化の歴史がある。
津島神社に隣接する天王川公園では、1926年(大正15年)にオートバイレースの全国大会が初めて開催された。津島神社の国幣社指定を記念した大会で、その後は海外からレーサーを招くなど、大きな盛り上がりを見せた。
第二次世界大戦による中断を挟みながらもレースは続き、1967年(昭和42年)まで開催されている。
大正から昭和にかけて、繊維産業とモータリゼーションは地域の暮らしと深く結びついていた。オートバイレースもまた、市民にとって身近な娯楽のひとつとして、津島の地に根付いていたのだ。
そんな天王川オートレースの歴史を現代に受け継ぎ、大正・昭和の往時を偲びながら、二輪文化を後世へ伝える新たなイベントとして育てていこうとしているのが、ビンテージバイクラン in 津島だ。
かつてのレース場跡地に、歴史的なオートバイや貴重な資料、そして往時を思わせる装いの人々が集う。過去を懐かしむだけではなく、二輪文化を次の世代へ手渡していくこと。それが、この活動の大きな目的となっている。
天王川オートレースは、1986年(昭和61年)にも一度だけ回顧開催された。長い歴史の詳細は、公式ホームページで紹介されている。
なお、次回のビンテージバイクラン in 津島は、2026年11月29日(日)に開催予定だ。
次回のVintage Bike Run in Tsushima(ビンテージバイクラン in 津島)は、2026年11月29日(日)に開催予定。
英国製500ccの始動シーンに息を呑む
RUDGE MULTI(1912年)の500cc単気筒エンジン
会場で行われたデモンストレーションは、午前と午後の2回。そのトップバッターとして登場した車両を見て、まず驚かされた。
イギリスのラッジ・ウィットワース社が1912年(明治45年/大正元年)に製造した「RUDGE MULTI」だ。いまから114年前に生まれたオートバイである。
500ccの単気筒エンジンを搭載し、動力は革製ベルトを介して後輪へ伝えられる。燃料タンクはメインフレームの下に配置されており、現代のオートバイとは大きく異なる、自転車に近い構造を持っている。
ペダルを漕ぎ、クランクを回す。見事にエンジンが始動し、100年以上前のオートバイが、目の前で排気音を響かせ始めた。
114年前に製造された車両が、いまもこうして動く。その事実に、ただただ息を呑む。
解説もわかりやすく、車両の構造や当時の技術的背景を知りながら、その姿と音を楽しむことができた。
単なる展示ではなく、実際に動くからこそ伝わるものがある。それこそが、実働車の持つ大きな魅力なのだ。
日本に唯一現存するRUDGE MULTI(1912年製)。
ヴィンテージハーレーが目覚める
ハーレーダビッドソンJD/1929年
ハーレーダビッドソンの歴史を彩ってきた名車たちが続々と登場する。まずは1929年(昭和4年)の「JD」。74キュービックインチ、排気量1200ccのVツインエンジンを搭載する。
IOE(インテーク・オーバー・エキゾースト)あるいは「オホッツバルブ」と呼ばれる方式で、吸気側にOHV、排気側にSVを採用した構造だ。
その後もサイドバルブ、ナックルヘッド、パンヘッド、ショベルヘッドと、ハーレーの歴史を語るうえで欠かせないモデルが次々に姿を現す。
そして各車両は、1台ずつキックでエンジンを始動。キックアームが踏み下ろされ、エンジンが目を覚ます。車体が息を吹き返すたびに、会場にはそれぞれ異なるサウンドが響き渡った。
IOE(インテーク オーバー エグゾースト)方式を採用したハーレーダビッドソンJD(1929年)のVツインエンジン。
歴代ハーレーのエンジン音を聴き比べ
ハーレーダビッドソンULH(1938年)
世代ごとに異なるサウンドを聴き比べられるのも、今回のデモンストレーションの大きな魅力だった。
100年以上前のオートバイから、戦前・戦後を代表するハーレー、そして’70年代から’80年代のショベルヘッドたちまで。
長い年月をかけて進化してきたオートバイの歴史を、実際に動く車両とともに見て、さらにその音の違いまで体感できる。これは、なかなかできることではない。
軍用車として知られるハーレーダビッドソンWLA(1942年)
なかでも興味深かったのが、1942年(昭和17年)に生産された軍用ハーレー「WLA」だ。
軍用車両として生まれたWLAには、戦場で使われることを前提とした、さまざまな工夫が施されている。
ヘッドライトを点灯すれば、敵に発見される危険がある。そこで、誤操作がないようなスイッチや、車体に身を隠しながら反撃するための装備、浅瀬を走行することを想定した工夫など、一般車両とは異なる軍用車両ならではのディテールが紹介された。
こうした装備たちを、実車を前にして確認できる。写真や資料で見るのとは違い、実物を目の前にすると、その装備がなぜ必要だったのか、当時の状況まで想像できるような気がしてくるからワクワクしてならない。
ハイドラグライド パンヘッド(1949年)
ショベル時代の盗難対策
盗難防止装置を装備するFXB スタージス(1982年)
ショベルヘッド時代の車両では、当時の盗難防止装置も紹介された。
ガソリンスタンドでコーラを飲んでいる隙に、愛車を盗もうとする不良が現れる。そんな時代背景を思わせるエピソードとともに紹介されたのが、ナンバープレートの裏側に備えられた盗難対策用の装置だ。
日本ではほとんど見ることのできない、知られざるオールドハーレーの装備。こうした小さなディテールにこそ、時代の空気が刻まれている。
超レア、非売品のハーレー
販売成績が優秀なディーラーに贈呈されたFXSB ローライダー ディーラーアワード(1983年)
そして、最後に紹介されたのが、1983年(昭和58年)の「FXSB ローライダー ディーラーアワード」だ。
前年に優秀な販売実績を達成した米国のディーラーに贈られた特別な記念車両で、生産台数はわずか55台と言われている。非売品として製作された、極めて希少なモデルだ。
ショベルヘッドエンジンを搭載するFXSB ローライダー/1983年型をベースに、キャンディアップル・ルートビアと呼ばれるブラウンとゴールド系の上品なカラーリングを採用。特別な存在感がある。
今回、イベントに登場したのは以下の11台。じつに豪華な顔ぶれだ!
■RUDGE MULTI/1912年(明治45年/大正元年)
■ハーレーダビッドソン JD/1929年(昭和4年)
■KNUCKLE HEAD/1936年(昭和11年)
■ULH/1938年(昭和13年)
■WLA/1942年(昭和17年)
■PANHEAD/1948年(昭和23年)
■HYDRA-GLIDE/1949年(昭和24年)
■PANHEAD/1951年(昭和26年)
■FX1200 SUPER GLIDE/1970年(昭和45年)
■FXB STURGIS/1981年(昭和56年)
■FXSB LOWRIDER DEALER AWARD/1983年(昭和58年)
たいへん貴重なモデルたちが目の前で息を吹き返し、エンジンサウンドまで聴かせてくれるとは……。思わず、そんな感想が漏れてしまう。
その興奮の一部始終を、YouTube ウィズハーレーチャンネルでは、前編と後編に分けて公開している。ぜひ動画で、ご覧いただきたい!!
ペダルを漕いでエンジンを始動する1912年の英国車や1936年のナックルヘッド、1942年の軍用ハーレーなどを収録。
マニア垂涎のパンヘッドからショベルヘッドまで、貴重なオールドハーレーたちのキック始動シーンとサウンドを収めた!!
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