
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年から全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文/写真:真弓悟史
3年計画の3年目、好調ぶりに誰もが長島哲太に期待を抱く
長島哲太が今シーズンの開幕戦(4/5モビリティリゾートもてぎ)を2位でフィニッシュした。このプロジェクト(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)が始まって以来、最高の順位である。
表彰台で長島は、両腕を大きく突き上げ笑顔で観客に応える。
基本笑顔ではある。だが、そこにあるのは昨年、初表彰台を獲得した時の様な晴れ晴れとした面持ちではなかった。
他のライダーに目が向いている時に見せる、ふとした表情に笑顔はない。
長島がこの日の成績に満足していない事は明らかだった。
「2位と言う順位は、初戦としては決して悪くないですけど悔しいですね、やっぱり。今回はチャンスだと思っていましたし……」
このレースウィーク、長島は金曜日のフリープラクティスから安定していた。午前のセッションでただ一人タイムを1分47秒台に入れ、幸先よく1位を獲得。
午後の走行では4番手に終わる。だがこのセッションは決勝を見据えてロングランを行っていた。長島曰く「タイムアタックは行っていないです」とのこと。それでもこの順位だ。
翌日の予選は、今にも雨が降り出しそうな空模様を見て、タイムを出す作戦に出た。長島は5周目に1’47.520を叩き出しトップに躍り出る。
9周目にはドゥカティのワークスマシンを駆る水野涼選手が長島のタイムを0.4秒も上回るが、予選結果は上々の2位だ。
レースウィークに入っても頻繁にタイヤを履き替え、テストを繰り返していた1年目。まだまだ上位に顔を出すことが少なかった2年目に比べ、この3年目の進歩は目を見張る物がある。“この順位は当たり前”と思える集団に進化している印象だ。
「明日の決勝レースは、昨年の第4戦もてぎで見せたような水野選手とのバチバチのバトルになるのだろうか? 優勝が、もうそこまで来ているのではないか?」と肌で感じる。
スタートダッシュを決めるも、不運なトラブルが……
いよいよ、勝負の決勝日。前日午後から降り続いた大雨も朝方には上がり、コースコンディションはほぼドライ。日の当たらないトンネルの部分だけはまだ水が残っている状況だ。
迎えた決勝レース。長島は“いつも通り”のスタートダッシュを決め、トップに躍り出る。
だが2周目のV字コーナーで水野選手にかわされると、その差はぐんぐん開き、あっという間に離されてしまう。
ロングランもこなし勝負の準備は出来ていたはずだった。それでも水野選手が速すぎるのか……早くも優勝が遠のいていく。
「2周目にリヤブレーキのペダルが外れて落ちてしまったんです。左コーナーは足でリヤブレーキを操作したいのに、仕方なくサムブレーキを使ったんですけど、序盤は慣れず、ペースを上げられなかった。それでタイムにバラつきが出てしまいました」
そんな中での後輩・羽田(太河/Astemo Pro Honda SI Racing)選手とのバトルは見ものだったが、その後また別のトラブルも起きてしまう。
「7〜8周目にタイヤトラブルも起きてしまって、ストレートやコーナー立ち上がりでバイブレーションが出て、一回ペースを落としました。そうしたら後ろから(國井)勇輝(SDG Team HARC-PRO.Honda)が来たので、もう一度ペースを上げたんですけど、『壊れたらどうしよう』と怖かったですね。でも、トラブルがなくても今日の(水野)涼には勝てなかったと思います」
話を聞いていると今回のレースは、ライバルとの戦い以前に自身のバイクとの戦いに終始していた様子が伺える。勝負出来ず掴んだ2位。その辺りが悔しさの原因だろう。
それでも、収穫を噛み締める一幕もあった。「中盤からは少しタイムを上げられたし、『確実に前に進んでいる』と確認できたレースではありました。しかし目標がチャンピオンなので、まだまだ足りてないです。でも『妄言ではない』と思わせるレースが今日は出来たのかと思います」
“3年計画で、ダンロップタイヤでチャンピオンを獲る”──2024年にこのプロジェクトが発足した時、多くの人が「無理でしょ」と言った。そして今年はその最終3年目を迎える。
「ここまでの2年はあっという間で、全日本はレース数も少ないですし、限られた時間の中で時は過ぎていくんですけど、『よくここまで来たな』と言うのと、『ダンロップ頑張ってるな』というのが印象ですね」
ただ、長島は“もう1歩足りない”と言葉を絞り出す様に付け加える。
「まだライダーが何とか出来るレベルには届いていない。何とかライダーが戦えるレベルにまで持っていきたいんですけど……。もう少しタイヤが応えてくれたら、あの(水野)涼を何とか出来るかなと思うんですけど、そのもう1歩がまだ足りない。特にドライブ側(コーナー立ち上がり)と、進入でもブリヂストンと違ってリヤタイヤが流れてしまう。そこがもう1歩良くなるだけで、普通にトップ争いが出来ると思います」
話の中に何度も出てくる“もう1歩”という言葉。
「去年は、順位は悪くないけどまだまだでした。でも今年はもう1歩と言えるところまで来たのかなと思います。バイクはファクトリーのエンジンや制御なんかと比べると難しい部分はあります。そこはライダーが頑張ります。でも、『頑張るだけのタイヤがあってくれないと』というところです。ホント、あともう1歩。あと1歩だけくれっていう」
懸けるモノが違いますからね。やっぱり後悔したくない
このレースウィーク、長島がよくレーシングスーツの上を脱いでいたので、鍛え上げられた両腕が目についた。体のケアをするトレーナーも「いろいろなスポーツ選手を見てきたが、ここまで作り込まれた選手はそういない」と言う。思い返せば昨年8月のもてぎラウンドでも相当絞り込んでいた。
「5㎏くらいは落としてきました。ライダーとして当たり前です」と長島はきっぱり話す。今まで以上に、より一層言葉に力がこもる。
「懸けるモノが違いますからね。やっぱり後悔したくないじゃないですか。今年最後だし」
「1年目はまだファクトリーマシンのフィーリングや、8耐で速かった自分に合わせてトレーニングして、それを使いながらやってたんですが、2年目からはダンロップに合わせた走らせ方とともに、身体づくりも少しずつ変えていきました。そして『今年はチャンピオンを獲る』と掲げている以上、やれることは全部やらないといけない。全部懸けたとしてもチャンピオンになれるかなれないか。何も懸けてなかったら絶対にチャンピオンなんかなれないです」
レース後、上位3人の記者会見を終えた長島が、撤収作業の進むピットに戻ると、藤沢監督と力強くハグをかわした。そこで口にした長島の一言が印象的だった。
「あと1つですね」
去年3位で、今回は2位。もはや勝利は全く手の届かない場所ではない。頑張って手を伸ばせば届く位置まで来ている。
「そのあと1つに必要なものって何?」と尋ねると、長島は前述のとおり「ダンロップ!」と答えた。
この言葉はダンロップへの大きなプレッシャーである。と同時に、その何倍もの強烈なプレッシャーを自身に掛ける言葉でもある。
ダンロップ、チーム、そしてライダー。皆が全てを懸けた勝負の3年目が始まった。
あと1歩。これがクリアされた時に、“あと1つ”が現実になる。
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(レース)
2kgの軽量化と6%のパワー向上がもたらす、息をのむような「超・接近戦」のシナリオ モータースポーツを愛する者にとって、最も心が躍る瞬間は、最終ラップの最終コーナーまで誰が勝つか分からない、一瞬の隙も[…]
【1950〜60年代】初任給の15倍!? 有力チームだけに許された伝説の「CRシリーズ」 市販レーサーではあるものの(CR110/93は保安部品付きも存在)、この4台を入手できたのは有力チームのライダ[…]
予測不能な雨の鈴鹿、極限状態に挑む熱気 2026年7月5日、「2026 FIM世界耐久選手権 “コカ・コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第47回大会」が開催された。昨年に続き2度目の観戦となる若月[…]
悪天候を吹き飛ばすステージの盛り上がり メインステージではIKURAさんを筆頭に数々のライブや、会場に並べられたカスタムマシンの紹介やアワードなどで盛り上がり、グランドスタンド裏はガレージセールや有名[…]
GPZ250Rなど80年代のマシンも参戦 2026 もてぎ7時間耐久ロードレース“もて耐”が7月18日(土)、19日(日)に開催されました。1998年からスタートし、コロナ禍でも中止を免れ、今年で29[…]
最新の関連記事(ダンロップ)
今年に入ってからの成長速度は拍車がかかっている 2026年シーズン、開幕から長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)が好調を維持している。もてぎで2位。SUGOで4位と[…]
「スポーツマックスQ5」シリーズ&「トレイルマックス」シリーズのタイヤ開発者トークも! TESTER 元レーシングライダー 高橋裕紀さん 各種カテゴリーでのチャンピオン獲得やMotoGPへの参[…]
ライフの末期を迎えても段減りや偏摩耗はナシ‼ どうしてこんなに耐久性と持続力が高くて、守備範囲が広いんだろう?2万1000㎞を走ったロードスマートⅣを体験した僕の中には、素朴な疑問が芽生えてきた。 そ[…]
1万2000㎞で約80%の性能維持を認識 内外出版社は初代ヤマハMT‐09を社用バイクにしている。そして2024年8月にその車両を試乗した僕は、数年前に装着したと言うダンロップ・スポーツマックス・ロー[…]
“自分らしさ”を出さず守りの走りで負けた 「クソほど情けないレースをしてしまい、チームにもダンロップにも申し訳ない気持ちでいっぱいです」 全日本ロードレース選手権、第2戦SUGOが4月25日と26日に[…]
人気記事ランキング(全体)
APトライクのカーター最新作「GOAT180」 「APtrikesシリーズ」で国内トライク市場の普及を牽引する神奈川県相模原市のカーターが、満を持して発表したのがこの「GOAT180」だ。車名にある「[…]
80年代バイクブームの熱狂が蘇る!「ハルネ小田原」で繰り広げられるレジェンド作品の競演 かつて「週刊少年マガジン」のページをめくり、エキゾーストノートの幻聴に胸を焦がしたあの夏の日々が、小田原の地下街[…]
20周年の系譜と「アウト・トリン」の意志 ベトナムにおいて2006年に誕生して以来、見た目はスクーターながら中身は歴としたMTミッションという、アンダーボーン型スポーツバイクのジャンルを確立したのが「[…]
メッシュジャケットの性能を最大化する「インナー選び」が残暑を制する 8月も後半に入り、暦の上では晩夏を迎えたものの、日中の道路上は相変わらず逃げ場のない猛暑が続いている。走行風を効率よく取り込むメッシ[…]
フェラーリF1直系の超軽量カーボン構造。先入観は今すぐ捨てるべし このマシンを開発したのは、元フェラーリF1のエンジニア、ヴィンセンツォ・マッティア。2017年にVINS社を立ち上げつつ、すでに201[…]
最新の投稿記事(全体)
評価のために検挙へ走る同僚と新人の複雑な胸中 交通取り締まりに対して「点数稼ぎだ」「反則金目当てのノルマだろ」と悪態をつきたくなる瞬間はある。その疑問に対し、元沖縄県警の女性白バイ隊員・宅島奈津子さん[…]
高級パーツの“ポンづけ”じゃない。メーカが本気を出したSEの完成度 ーー試乗では、複数のモデルに試乗しましたが、それぞれ個性があった? 青木「じつは今回のサーキット試乗、最初にZ900RSブラックボー[…]
クルマのサンシェード感覚で使える! 新発想の「ちょい掛け」カバー 「MotoBrella(モトブレラ)」は、クルマにサンシェードを設置するように、バイクにも短時間駐車時の手軽な日よけを定着させたいとい[…]
ヤマハのレトロハイブリッドスクーター「ファツィオ」 ヤマハが国内でも正式にラインナップして展開している「ファツィオ(Fazzio)」は、レトロモダンとストリートカルチャーを高度に融合させた原付二種クラ[…]
ヤングマシン電子版2026年10月号[Vol.647] 【特集】40周年だぜ!NSR250R完全読本1980年代初頭に巻き起こった空前のバイクブームから続く“レプリカブーム”。それまでハイメカの4スト[…]
- 1
- 2





























































