
その昔は「お医者様が選ぶ良心的なメーカー」などと称されていたボルボ。奇をてらったところもなく、どちらかといえば質素な仕上がりで、必要にして十分なパフォーマンスというのが特長だったかと。そんな、実直ともいえる彼らのフィロソフィーは、乗用車はもとより、軍用車とか特殊車両といったジャンルでも大いに歓迎されたもの。例えば、こちらの子供がチラシの裏に書いたような真四角なC303などは最たるもの。山岳レンジャーから、マニアまで喉から手が出るほど欲しがっているモデルなのです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys
平和を守るためにクルマを作ったボルボ
ボルボは1930年代からスウェーデン軍の要請でトラックを納入していたのですが、第二次大戦がはじまると本格的な4輪駆動車のリクエストが寄せられたとのこと。TPV (Terrängpersonvagn m/43)と呼ばれ、当時の高級タクシーモデル「PV800シリーズ(通称スッガ:雌豚)」のボディとトラック用のシャシーを組み合わせた無骨な外観が特徴で、主に将校用車両として活用されていました。
ちなみに、当時のスウェーデンは中立を守るがために国内の軍需産業を奨励。ナチに協力したドイツの企業と違って、ボルボはまさに平和を守るためにクルマを作ったのだといえるでしょう。
1974年、民生用としてうまれたCシリーズ
さて、初の4輪駆動車TPVは戦後もL3314(通称ラップランダー)として開発・生産が継続されています。この際、堅牢、かつ長寿命で定評あるボルボの直列4気筒エンジン「B16」が初めて搭載されたことも大きなトピック。1970年代初頭まで20年間も生産され、約8000台が出荷されています。もっとも、この頃はほとんどが軍用、または地方自治体などに納められ、民間にはわずかな払下げ車両があっただけ。これをボルボの首脳陣が「売れるなら民生用も作ろうぜ」となったのが、1974年に生まれたCシリーズです。
民間ユースといっても、実直なボルボのことですから作りこみは軍用モデルとさして変わりはありません。むしろ、軍需レベルのクオリティに、いくらか民間ユースの要素を取り入れたというのが正確なところでしょう。最大の特徴はポータルアクスル(ハブリダクション)の採用で、車軸の位置をホイールの中心より高く設定することで、圧倒的な最低地上高を確保したこと。同システムは戦時中にフォルクスワーゲン(クーベルヴァーゲン)やメルセデスベンツのウニモグが採用しており、スウェーデン軍からも「あれくらいの最低地上高が欲しい」といった要請も寄せられていたのだとか。
ボルボのC303。
そして、3リッター直6エンジン(B30)をフロント床下に縦置き。いわゆるキャブオーバーとしているのですが、興味深いことにエンジンは車体の真ん中ではなく、重量バランスや運転席側のスペース確保のために、中心から少しだけ右側(助手席側)に寄せて配置されています。このあたり、ボルボがウニモグなどのライバルをよく研究していたことが伺えます。また、ご紹介しているC303は4輪駆動ですが、派生モデルとしてC304と306という6輪モデルもあり、車体が大型化されて乗員数や荷台スペースが増加するなど商品バラエティに富んだところもライバルを意識したものでしょう。
すっとぼけたスタイルだが、性能は本格派のC303
さて、お待ちかねのC303のパフォーマンスですが、50年前のクルマとは思えない優秀ぶりです。最低地上高:380mmを稼ぎ、アプローチ/でパーチャーアングルともに45度、最大登坂角度: 31度(約60%勾配)としつつ「空荷で重量が軽ければさらなる急斜面もグイグイ登る」のだそうです。
さらに、ランプブレークオーバーアングル: 35度(ホイールベース間の障害物を乗り越える能力)、最大傾斜角(横転限界): 40度までカタログに記載されています。スウェーデン、とりわけラップランド地方は地球上でも最も険しい地域とされますから、これくらいの性能でないと走破は無理。すっとぼけたスタイルのわりに、C303はじつに優秀なクルマなのです。
また、驚くべきことにC303は1983年のパリ・ダカールラリーで、市販車改造クラスで見事優勝を飾っています。民生用とはいえ、限られた生産台数ゆえにボルボは高らかに宣伝こそしていませんが、誰もがボルボを見直すエピソードに違いありません。これで一気に欲しくなったとしても、総生産台数は約10年間で8718台、うち75%は軍に納められていますので、市場に流通している中古車はまさにレア。
こちらのサンプルにしても、10年ほど前のオークションに出品されたもので、約700万円で落札されています。現代のオフロードビークルのような快適装備はないものの、本物のオフロード性能を考えれば「見つけたら即買い」でも後悔することはないはずです。
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