
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年から全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文/写真:真弓悟史
“自分らしさ”を出さず守りの走りで負けた
「クソほど情けないレースをしてしまい、チームにもダンロップにも申し訳ない気持ちでいっぱいです」
全日本ロードレース選手権、第2戦SUGOが4月25日と26日に行われた。上の言葉は、25日のレース1を終えた長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)がその日の夜、自身のSNSに書き込んだものである。
「クソほど」──この荒れた表現が、この日の長島の気持ちをすべて表していた。自分自身へのイラ立ちと、失望だ。
バイクやタイヤへの不満は一切書かれていない。「そんな事は関係ない」と言わんばかりに、ただひたすらライダーである自身への反省が記されていた。
長島はこのレース、序盤はいつものようにトップを快走。
しかしドゥカティの水野涼(SDG DUCATI Team KAGAYAMA)とヤマハの中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)に引き離されると、中盤からは同じホンダに乗る野佐根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)との3位争いに終始する。
だが、長島が3位キープで迎えた最終ラップの勝負所、シケイン進入で野佐根にかわされ、4位で終えることになった。
最後の最後に表彰台を逃した悔しさは、容易に想像がつく。だがそれは、“レースではよくある事”とも言える。上で記した言葉は、単に3位を逃した悔しさではないことは明白だ。怒りの矛先はすべて自分自身にある。それほどまでに自身を責め続けた理由とは何だったのであろうか。
「当初、自分たちの想定では26秒台前半(1分26秒)がレースペースかなと考えていたので、もしかしたらチャンスがあるかもと思っていました。しかし(水野)涼が速かった……。25秒台での周回はキビしかったですね。自分たちは予選で25秒台には入れられたけど、『なんとか入ったな』という感覚だったので、このタイムでのアベレージは想定に入っていなかったです」
ここまでは仕方がない。相手が速すぎた。だが、ここから自身が「クソほど」と表現することになったレースをしてしまうことになる。
「トップ2台との差を見て『まぁ3位だな』と思ったので、序盤は無理せずタイヤマネージメントをして、3位を取りに行ったレースでした。もてぎの開幕戦もそうでしたけど、トップと離されてからは自分のペースで淡々と置きにいった走りをしていたんです。
今までだったら、転ぶギリギリの走りや、序盤からタイヤのことを気にせずガンガン攻めていたのに、置きにいってしまった。攻めた結果の負けならまだしも、置きにいって負けるなんて1番ダサいじゃないですか。ホント、『ダっサいなぁ俺』って」
長島は、野佐根との3位争いに最後で負けてしまった事に腹を立てているのではない。“自分らしさ”を全く出さずに守りの走りをしたうえに、その順位も守れなかった自分が許せなかったのだ。
「レース2に向けてこの日の夜は映像を見返して、自分はどこが強いのか、弱いのかを確認しましたし、どこでタイヤが滑っているのかを自分の感覚とすり合わせました。そしてチームにも要望を出させてもらいタイヤを変更して、バイクも藤沢さん(チーフエンジニア)が細かい所まで詰めてアジャストしてくれました」
昂り揺れる感情とは裏腹に、いま自分に出来る事は何かを冷静に分析するとともに、ハード面を強化する。もうこんな悔しいレースはしたくない。
「気持ちの面では、『やるしかねぇ!』ってだけです。何も考えない。もう久しぶりに何も考えずに行きました。がむしゃらに前だけを見て、隙間が1個でもあれば入る。後ろのことなんて全く気にしていないです。もう前だけを見て行きました」
ライダーは、誰よりも前に出ることで自分の人生が変わって来る
そして迎えたレース2。
長島はトップを走行しながら、抜かれたら何度でも抜き返す。絶対に怯まない、譲らない。しつこいほどに何度でも。前日の反省をもとに、レース2の長島は「らしさ全開」である。これこそが彼の真骨頂であり魅力だ。
中盤からはまたしても野佐根との3位争いの展開。トップ2台が逃げ、3位をキープする長島と追いかける野佐根の構図は、前日と全く同じシチュエーションである。だが終盤に差し掛かると、野佐根が早めに仕掛けて前に出た。
長島ダムと言われていた1年前の“長島+ダンロップ”ならば、ここで勝負は終わっていたに違いない。必死にせき止め、塞いでいた壁が決壊したら最後、ずるずる後退するしかなかった。
だがそれは過去の話である。常に練習走行/予選から上位に顔を出し、レースでも当たり前にトップグループで争うように進化した今年の長島とダンロップは、一味も二味も違う。
「このレースで使用したタイヤはセパンで使っていた物で、国内では初めて使うタイヤでした。なので、タイヤがきつくなってきた段階で、どうマネージメントしたら良いのかを掴めなかったので、野佐根が抜きに来たあと、5~6周くらい後ろに付きました。
自分の場合はフリー走行を含め、他の人とじっくり走ることがあんまりないので、野佐根のここが速い/遅いというのを後ろから見極めつつ、プラス自分のタイヤは『こうやってアクセルを開けたら滑る』『こう乗ったらこう加速して行くんだ』と把握しながら、いろいろ試していました」
そして長島はレース後半、周回数を残した早めのタイミングで、野佐根のインを突き3位に上がる。
「昨日彼にやられたことを、ただただやり返すだけだったら普通だし、何も面白くない。だからラスト3周くらいで前に出て、引き離して強さを見せないといけなかった」
長島が、このレースでやりたかったのは3位を獲得する事ではない。ライバルに対して格の違いを見せつけること。さらには全日本ロードレースという興行の中で、ライダーとしての存在感と価値を見せることだった。
「単調なレースじゃつまらないですよね、ストレートでだけ並んで抜くような。『こんなコース、いくらでも抜くところあるでしょ?』って。全日本という舞台で無理くり抜いて行くなんて事はほとんどない。
MotoGPやWSBKを見ていると、『えっ、ここで抜くの?』って場面がたくさんありますよね。だから面白い。ライダーは、誰よりも前に出ることで自分の人生が変わって来る。『そこを目指さなくて、どうするんだ』って思うんです。
例えば、『来年新たなチームが立ち上がります』って話があった時に、声が掛かるか掛からないか、そういう所だと思うんですよね。『あの時、引かなければよかった』『あの時、抜いておけば』って思いたくないじゃないですか。GPを走っていた時は、毎回が就職活動みたいなもので1戦1戦が勝負、魅せてかないと生き残れない世界でした」と語る。
前日はこのような攻めの姿勢を見せることができなかった。だからこそ自分自身にムカついた。しかしレース2は見事に修正し、本来の長島哲太に甦った。
「厳しいレースでしたけど、存在感は見せられたと思います。そして、『自分の仕事がちゃんとできたか?』というのが『喜べるか、喜べないか』の指標としてあります。そういう意味では今日は自分の仕事ができたと思います。攻めるべき所で攻める事ができました」
3位を獲得し、チームスタッフの待つパルクフェルメに長島が戻って来る。ヘルメットのシールドを開け笑顔で帰って来た長島の目は、ほんの少しだけ潤んでいた。全身から喜びが溢れ出ている。
開幕戦の2位より今回は1つ下の順位となる3位だ。だが“自分の仕事”ができた喜びは、前回にはなかったものだろう。「クソみたいな」前日から一転したこの日。レースを終えた長島からは満足感が漂う。
次回、第3戦オートポリスは5月30&31日に行われる。長島が2025年も言っていた、最も鬼門となるサーキットである。
「ホンダ車と相性は良くないですし、ダンロップタイヤとも相性が良くない……でもそこはSUGOも似たようなモノではあったので、ここをポジティブに終えられたのは、次に向けて一つ楽しみではありますね」
SUGOで良い終わり方ができた勢いがあれば、コースの得意/不得意など関係なく、乗り越えてしまいそうな気もしてしまう。
「もてぎでも言った『もう1歩』っていうピースがいつ手に入るのか次第だと思います。今回も、もてぎと同じ課題が出ていて、いつもそこでロスしてしまう。アクセルをバンッと開けていきたい所で、開けてしまうと滑って前に進まなくなってロスをしてしまうので、我慢するしかない。
今は滑るギリギリをコントロールしながら開けているんです。この我慢している箇所でバンッ バンッ バンッ!と開けられたら、SUGOで24秒台に入るのにというレベルなんです。これが克服されたらダンロップの方が強くなりますよ。『ここを良くすればここがなくなるかぁ』っていう部分もあって、簡単ではないですけどね。それでもダンロップが試行錯誤してやってくれると思います」
まだ、水野と中須賀の速さが1歩抜きん出ている事はレースのギャップを見れば明らかと言わざるを得ない。だが、6戦10レースあるチャンピオンシップ。まだ何が起こるかわからない。第2戦を終えて長島は、ランキング2位に付ける。
もう日の落ちかけたSUGOの日曜日、インタビューを終えた長島が言った。「今日は疲れたけど充実していました。楽しかったですね。昨日は『もうライダーやめようかな』って思いましたよ。だってショボすぎますよ。『このままライダー引退でいいや』って思いましたから」
これほどまでに己を厳しく追い込み、ストイックにレースと向き合う姿勢。未来の事は、誰もわからない。長島本人も知る由もないが、この男なら、もしかして……。そう感じさせるSUGOの2日間だった。
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
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