
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年からは全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文と写真:真弓悟史
今季初の雨、「行くしかねぇ!」の代償
レースも残り3周となったS字コーナー2つ目、転倒を喫した長島哲太の姿がサーキットの大型ビジョンに映し出された。コースサイドで撮影していた私は、思わず「あぁぁ」と空を見上げ声が出てしまった。自分の後方、フェンス越しに陣取るまばらな観客からも声がもれたのが聞こえる。
急激に本降りになった雨の中、バイクの顔面からクラッシュパッドに突っ込んだのであろうか、スクリーンが割れてなくなりハンドルは折れ曲がっている。泥だらけになったバイクを長島は急いで起こし再スタートを切ろうとしていた。しばらくして逆バンクで撮影する私の目の前を後続の邪魔にならないようにコースの外側をゆっくりとした速度で長島は通り過ぎて行った。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
今シーズン初めて雨の決勝レースとなった全日本ロードレース最終戦・鈴鹿のレース1。長島哲太は傷ついたバイクを、なんとかピットレーンまで運び14位、貴重な5ポイントを獲得した。
この日6番グリッドの長島は、いつものようにスタートダッシュを決めると1コーナーを3位で通過する。しかし、ドゥカティ水野選手とBMW浦本選手トップ2台のペースは明らかに速く、もうこの2人は射程圏外と言っていい。長島はこの日、終始3番手を争うレースになる。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
だが展開は楽ではない。前回の岡山ラウンドでこのプロジェクト初の表彰台に登ったレースでは長島がバトルをコントロールして主導権を握っている印象をその走りから受けていた。だが、このレースではライバルに分があるように感じる。いつもは抜かれても食らいつき、次のコーナーではすぐに抜き返すのが長島スタイル。だが、雨のせいなのか、その荒々しさが今日は見られない。攻めつつも、なかなか抜き返すことができず、少しずつだがライバルから離されて行っている印象だ。終盤に差し掛かると3位/4位とはずいぶんと差が付き5位に落ち着きつつあった。このレース展開に私は、撮影をしながら「今日のレースは5位かな」そう思いながら、急に強くなった雨をカメラと頭に感じながら残りの周回を淡々とこなそうとしていた。
だが、コース上でレースを戦う長島はこの状況の中でも全く表彰台をあきらめてはいなかった。
「要所要所でいいところがあってラップタイムで言えばそんなに変わらないタイムを出せていました。雨が強く降って来たタイミングで(日浦)大治朗が(前を行く津田選手に)追い付いていったタイミングで、バトルをしてくれたら距離が一気に縮まってチャンスはある。『今のうちに差を詰めておかないと間に合わない』そう思って少しペースを上げた瞬間でした……」(長島哲太・以下同)
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
このレース明らかにバイクは寝ていなかったし、攻め込めている雰囲気もなかった。だが、リスクを負ってまで最後一発勝負を仕掛けようとしていた長島。そして攻めの走りに行った背景をこう語る。
「タイム的には19秒に入ってますし、トップ3とはベストタイムで言えばそんなに変わらないタイムでした。なので(タイムを落としている)S字区間を克服できれば勝負できる。タイヤの使い方の部分をいろいろ試行錯誤して走って『行くしかねぇ!』と思って行ってみたんですけど……ダメでした……」
長島にとって今シーズン初めて決勝での転倒を喫してしまう。東コースも本降りの雨になって来た中、リアからの転倒であった。
「雨の日って自分のフィーリングが実際の限界なのかがすごく分かりづらいんです。実は自分が思っているだけで、もう1歩いけるかもしれないし、逆にないかもしれない。自分的にドライの時は限界を越した150%くらいの所で、本来なら転んでいてもおかしくはない所を人間が何とかして転ばないようにコントロールしながら走るんですけど、雨の日は限界が“100は100”なんです。本来90で走っていて91..92..93..94って上げて行きたいんですけど、本当は今走っている所が90だと思っていたつもりが実は99かもしれないし、逆に80かもしれない。感覚を掴みづらいんです。今回、自分のフィーリングを頼りに『もう限界かなぁ99%近いかな?』と思って走っていても、このレースの表彰台に乗る為には、もう1段ギヤを上げて行かないといけなかった。もう賭けるしかなかったです。でも結果、やっぱり自分のフィーリングは正しかったですね」
表彰台のチャンスが、そこにあるからには勝負に出た長島。レーシングライダーの本能としては、そこにチャンスがある以上は、リスクを取らざる負えなかったし、攻めるという選択肢しかなかったのだろう。だが、そのチャレンジは残念ながら失敗に終わってしまった。
長島は、喜びに沸き立つパルクフェルメを背にして、ピットロードを歩いて帰って来た。ピット内の自分の席に座ると、いつものようにダンロップやチームスタッフにコメントを伝えて行く。一通り話し終えてごった返していたピット内も人が引き上げ、落ち着いたその席で長島は、じっと座りどこかに焦点を合わす感じでもなく何かを見つめていた。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
そしてそんな時間が流れた後、軽く息を吐いたあと長島は「俺のミスです。すみませんでした」と、そこにいたチームスタッフ全員に聞こえるように言葉を発した。隣に座っていた藤沢監督が、笑顔で「おつかれ!」と声をかけ、長島の足にぽんぽんと2度軽くタッチを返す。まわりも笑顔になる。
チームはライダーに全幅の信頼をおきマシンをライダーに託す。ライダーは、それを背負って全力で結果を出しに行く。だが、成功する時もあれば今回のように裏目に出ることもある。結果は残念だった。しかし、このレースを通してあらためてチームとライダーの信頼の強さを見た。私にとって興味深いレースであった。
目標の1歩先へ行かなければ達成とは言えない
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
翌、日曜日のレース2も雨のレースになった。だが、この日はサイティングラップからリヤタイヤのグリップ不足に苦しみ見せ場を作れず9位に終わる。
これで、“3年計画でダンロップタイヤを使いチャンピオンを獲る”プロジェクトの2年目が終了した。今年の成績は3位表彰台を1回獲得し、優勝はまだない。初年度だった昨年と比べると大きく前進した1年でもあった。今年1年を振り返り長島は、
「まぁ……悔しいですね。もちろん前進しているって言う意味ではポジティブではありますが、自分としては、もう1歩……。目標にしていた表彰台は獲れたとは言え1回しか獲れてないですし……目標の1歩先へ行けて初めて目標達成かなと思っているので。みんなからしたら『十分だよ』って出来かもしれないですけど、個人的には、まぁ70点くらいかな」
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
目標は来年のチャンピオン獲得である。まだまだ先は険しく遠い。
「進化をしている実感はすごく大事ですし、チームもダンロップもみんな頑張ってくれている中で1回とは言え表彰台を獲れたのは、この開発をして行く上で1つ大きなきっかけになったと思います。自分としては来年100%全力で集中してチャンピオンを獲りに行くために、このプロジェクトにもっと集中できるよう環境を見直して、フィジカル的には、他競技の人たちとトレーニングしたりして、もう1歩進化していこうかなと思います」
私の好きなヤクルトスワローズの元監督・野村克也氏が万年Bクラスだった弱小チームの監督に就任した時の言葉を思い出す。「1年目には種をまき、2年目には水をやり、3年目には花を咲かせましょう」そして、この言葉通りヤクルトは3年目に優勝した。
ダンロップチームと長島哲太も1年目はタイヤのベースを作り、2年目には結果につなげて来た。そして、来年いよいよ勝負の3年目を迎える。
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
DUNLOP Racing Team with YAHAGI|長島哲太
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
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