
1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入り、さらにプロトンKRやスズキで、モトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきた「ノブ青木」こと青木宣篤さん。そんな彼がお届けするマニアックなレース記事が、この「上毛グランプリ新聞」だ。第43回になる今回は、ついに最高峰クラスのレース「MotoGP」で初表彰台を獲得した「小椋藍」選手についてレポートしましょう。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台
ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。
波乱の第6戦カタルニアGPが終わったところだが、第5戦フランスGPで小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)が、3位表彰台を獲得!
最高峰クラスでの日本人ライダーの表彰台は、2012年の中須賀克行くん以来14年ぶりという快挙は、本当に素晴らしい! 感動させていただきました。
正直、「来るべきものが来た」という印象だった。今シーズンは上位にいるのが当たり前で、いつ表彰台に立ってもおかしくないというパフォーマンスを見せていたからだ。特に第3戦アメリカズGPでは「あとちょっと!」というところでまさかのトラブル。確実に表彰台を獲れるレースだっただけに、本当に惜しかった。
ヨーロッパラウンドに入ってからも勢いは変わらず、ついに表彰台。しかも、あと数周あればもっと上まで狙える走りは、優勝したホルヘ・マルティンや2位マルコ・ベゼッキのApriria Racing勢も驚くほどのハイペースだった。
昨年を経て、藍くんは確実に成長している。だが、今年になって大きく変化したというより、もともとの実力がいよいよ発揮されるようになった、という印象だ。ひとつ言えるとしたら、昨年はスタートから1コーナーまでの間にフタケタまで順位を失いがちだったが、今年はヒトケタを維持できている。
これは上位進出に向けて非常に効果的だ。予選で少しでも前のポジションをゲットしておくことはもちろん大事だが、各ライダーが密集しているスタート直後はレース中の最大のチャンス。ここで順位を上げられるかどうかが、レース結果を大きく分ける。
フランスGPでのマルティンがそうだ。スプリントレースでは8番手グリッドから飛び出し、1周目からトップを奪うと、そのまま逃げ切って優勝した。まさにスタート直後の位置取りが功を奏しての勝利である。
スタート直前まで、頭の中ではどのラインを取るかシミュレートしていただろう。しかし相手のいること、必ずしも思い通りに行くとは限らない。運の要素も大きいが、リスクを取って勝負を懸けるド根性も必要になる。なかなか難しい「スタート直後のポジション取り」というスキルが、今年の藍くんの大きな武器になっている。
終盤の猛烈な追い上げで、最終ラップにはトップ2にも迫った小椋藍選手。
タイヤを残している余裕など、あろうはずがないっ
武器と言えば、「小椋選手はタイヤマネージメントがうまい」と、高く評価されているところ。レース終盤、タイヤがタレてきたところからのペースは凄まじい。まさにタイヤをうまくマネジーメントしているからこその追い上げ、というように見えるだろう。
確かに「タイヤをうまく残している」という面はあるだろう。しかし逆に、序盤からもっとハイペースで走れればトップにもなれるのだから、結果的には「タイヤを使い切れていない」という見方もできる。ある意味では、優勝したマルティンは「タイヤを使い切り、最高のタイヤマネージメントをしたから勝った」とも言えるのだ。
こうなると、「タイヤマネージメントとは?」という話になってくる。ここはヒジョーに説明が難しいのだが、MotoGPライダーは誰もが100%の走りをしている。もし、みんながタイヤマネージメントを意識し、「そこそこの走り」で抑えていたら、もっと混戦になるはず。極端な例だが、自転車レースのようにゴール直前の差し合いになってもおかしくない。
だが、実際はそうはならない。MotoGPは最初から最後まで、ほぼ、”信じられないようなハイペース”だ。下手に抑えていれば、それっきり逃げ切られてしまう可能性の方が高い。もちろん、微妙なペースコントロールはある。しかしそれは「ペースを落とす」というような簡単な話ではない。どちらかと言えばライダーのキャラクター、個性に近いものだとワタシは思う。
ライダーは、すべてをコントロールしているようで、していない。あるいはすべてをコントロールできるようで、できていない。あんなハイレベルな走りやバトルをしているのだから、とにかく必死で全力だ。その中で「序盤に強い」「終盤に強い」というのは、もはやキャラクターだったり、クセのようなものなのだ。
藍くんの「終盤の強さ」は、スロットルコントロールの丁寧さによるものだ。タレてきたタイヤのスピンレートと右手の動きが、終盤になってバチッとリンクするから、他のライダーよりいいペースで走れる。だが、タイヤのグリップ力が高いレース序盤は、その丁寧さが災いしてしまう。マルティンのようなスタート直後の起爆力を発揮しづらいのは、致し方ないのだ。
それでも先述したように、ジワジワとその辺りを改善していることが、表彰台につながった。つまりレースで勝つには、結局のところ序盤から終盤まで速いペースを安定して刻めなければならない、ということだ。
これが難しいからこそ、勝てるライダーがだいたい決まってくる。勝てるライダーは、自分のキャラクターやクセを補うような形で、オールマイティさを手に入れている、ということだ。
よく「1回でも勝てば、勝ち方が分かる。勝ち方が分かれば、また勝てる」などと言う。勝てば、勝つために必要な「塩梅」のようなものが体得できるからだ。
藍くんは、表彰台に立つための「塩梅」は理解したはず。逆に、「さらに上」の難しさも分かったのだと思う。ここからは、「微妙な高さで、でも、確実にそびえ立っている壁」に挑むことになる。
トップカテゴリーでは、全員が常に全力プッシュ。タイヤマネージメントというより、各人のキャラやクセで、そのレースの勝者が決まる。
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