
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第157回は、ブリラムサーキットで開幕を迎えた2026年シーズンMotoGPの見どころについて。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
現行レギュレーションは最後になる2026年
2月27日に開幕を迎えたMotoGP2026シーズン。注目のトピックスはたくさんありますが、僕が注目しているのは1000ccエンジンとミシュランのワンメイクタイヤ供給が今年で最後になること。来年からエンジンは850ccになり、タイヤはピレリのワンメイクになります。
まずエンジン。正直、今の1000ccは速すぎます。360km/hものトップスピードは、もはや危険……。そんな中で勝ち続けているドゥカティのゼネラルマネージャー、ジジ・ダッリーニャでさえ「ヤバイよね……」と言っていましたから、850ccへの排気量ダウンは妥当だと思います。
僕はレースをしていましたが、スピードそのものに魅力を感じたことはありません。いつだって考えていたのは「いかに安全に走り切るか」。チャンピオンシップは年間を通してできるだけ多くのポイントを獲得するゲームですから、速さよりも安全です。もちろんレースですから勝つためにスピードは必要ですが、いわゆる「スピードジャンキー」ではありませんでした。
そういう観点からすると、開発によって必要以上にスピードが上がりすぎた時は、今回のように排気量ダウンというのは大事じゃないかと思います。ただ、800cc時代はコーナリングスピードが高まってしまいましたからね……。技術開発は常に進んでいきますから、結局はイタチごっこです。
エンジンの話で言えば、ヤマハの新しいV型4気筒エンジンが注目を集めています……が、トラブルが出ていることやパフォーマンスが不十分なことから、投入はちょっと早すぎたように思います。
来年の850cc化に備えて少しでも早く実戦で使いたいということなのか、ホンダ行きが噂されているファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)を繋ぎ止めておきたいからなのか、狙いは分かりませんが……。
移籍の噂がチラつくファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)。
そして、タイヤです。ミシュランのMotoGPへのタイヤ供給は今年が最後。来年からはピレリになります。タイヤの変更は本当に大きい! スリックタイヤなんてただの黒くて丸い物体にしか見えないかもしれませんが、乗っている側からしたら大違いです。勢力分布図がガラリと変わる可能性がありますね。
ミシュランは2027年から少なくとも2031年まで、スーパーバイク世界選手権(SBK)と、併催される全カテゴリーのワンメイクタイヤサプライヤーになります。これはミシュランの市販車用タイヤ開発にとって大きなアドバンテージになるでしょう。
尖った性能のプロトタイプマシンで競う今のMotoGPですが、タイヤもかなり先鋭化されており、そこで使われている技術も「特化型」。スピード領域があまりにも高いこともあって、市販車用タイヤにそのままフィードバックされる技術は少ないようです。
ライダーやチームスタッフのパッションは変わらない
一方のSBKももちろん速いのですが、そもそもが市販車ベースのマシンで行われていますから、タイヤ技術のフィードバックもやりやすいのではないでしょうか。
ミシュランの前にタイヤサプライヤーだったブリヂストンも、MotoGPから撤退した後はロードレース世界耐久選手権(EWC)にスイッチ。時には気温が0度にまで下がる24時間レースを始め、さまざまな状況に対応しなければならないEWCで得た技術を、市販車用タイヤにフィードバックしています。
こうなると、タイヤメーカーにとってMotoGPの参戦意義はなんなんだ、という話になりますが、やはりトップ・オブ・トップのMotoGPは基礎技術を鍛え上げたり、優れた人材を育成できるというメリットがあります。ピレリはSBKからMotoGPへのスイッチで、底力を付けるでしょう。
そしてミシュランは’16年からのMotoGP参戦で、多くのものを得て、それまで以上に高い実力を手にしたはず。SBKにスイッチすることで、どんな新しい市販車用タイヤが登場するかが楽しみです。
SBKと言えば、トプラック・ラズガットリオグル(Prima Pramac Yamaha MotoGP)のMotoGPへのスイッチも注目を集めていますね。SBKでは3回タイトルを獲っていますが、今年の彼が活躍できるかどうか、テストの結果だけではまだ何とも言えません。ただ、市販車ベースのSBKマシンからプロトタイプのMotoGPマシンへのスイッチにはなかなか苦労しているようです。
トプラック・ラズガットリオグル(Prima Pramac Yamaha MotoGP)は浮上するきっかけを掴めば上がってくる?
今のMotoGPは、あまりにもハイエンド。いろいろな意味で分かりにくくなっていますよね。タイヤは内圧をコントロールしなければならないので、いったんポジションを下げて様子を見る、なんてことも起きていますし、空力パーツの影響もあって、かつてのようにスパッとパッシングすることも難しくなっています。
間違いなく効果があるからこそ空力パーツを装着しているのだと思いますが、レースがスタートした直後の1コーナーで他車と接触して片方のウイングを飛ばしても、案外そのまま走ってる、なんてシーンも見かけますよね。レースになるとライダーはめちゃくちゃ集中しているから、うまいことバランスを取っているのだと思いますが、「本当に効果あるのかな」という気も、ちょっとだけ……。僕は今のMotoGPマシンに乗ったことがないので、何とも言えませんが……。
いろいろと様変わりしつつあるMotoGPですが、変わらないのはライダーやチームスタッフのパッションでしょうか。いやぁ、みんな熱い熱い! 各レースでの優勝でも、チャンピオンを獲ったのかというぐらいの喜びようです。僕は現役時代、各レースでの優勝ではあまり喜ばず、すぐに次のことを考えるタイプで、とにかくスタッフの方が血の気が多かった……(笑)。さすがにチャンピオンを決めた時はうれしかったですけどね。
「喜び爆発」のMotoGPは、2月27日〜3月1日にタイ・ブリラムサーキットでもうすぐ開幕です。11月末の第22戦バレンシアGPまで、熱くて長いシーズンを楽しみましょう!
公式テストでは好調だった小椋藍(Trackhouse MotoGP Team Aprilia)。タイGPの初日もトップ10入りしている。
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