
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第42回は、ヤマハファクトリー入りも噂される小椋藍選手について掘り下げる。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin
リスクを取りつつサーキットでトレーニングする小椋藍
アメリカズGPからスペインGPまでのインターバルで、日本では「オグラアイ前線」がズンズン北上し、レースファンの注目を集めた。筑波サーキット、モビリティリゾートもてぎ、そしてスポーツランドSUGOで小椋藍くんの目撃情報があり、とんでもない走りを披露して見る人のドギモを抜いたのだ。
日本のサーキットを北上していく藍くんの走りを、ワタシもSNSでチェックしていたのだが、いやぁ、ホレボレである。とにかくライディングがキレイなのだ。どんなシチュエーションでもバイクに余分な挙動を与えず、無駄に滑らせることもなく、すべてがアンダーコントロール。「なるほど、コレか!」と思った。
タイGP決勝レースを最終コーナーで視察していた時、周回を重ねてもまったく同じラインを通り、同じタイミングでスロットルを開け、同じように加速していく姿が強烈に印象的だった。いくらMotoGPライダーと言えども、ちょいちょいラインを外したり、スロットルオンのタイミングが変わったりするものだ。そんな中、ド安定の藍くんの走りは際立っていた。
その印象をレース後に本人にぶつけてみると、「そこを1番意識してるんです」という返事だった。レース終盤、タイヤがタレてきてからも同じリズムで走るには、どうすればいいかを常にトライし続けているそうだ。
スペインGP後に行われたヘレステストではトップタイムを記録した小椋藍。
日本のサーキットでの練習走行でも、安定性をかなり意識していた。そして、「バイクの練習は、バイクに乗るのが1番」と、ひたむきにバイクを走らせる姿は感動的ですらあったし、同時に、「すごく合理的だな」とも思った。
ライディングには、効果的なトレーニングがいろいろある。ジムに通うこともトレーニングになるし、オフロードライディングだってかなり有効だ。しかし、もっとも効果的なのは、アスファルトの上をハイスピードで走ること。これに尽きる。そうしなければ絶対に得られない感覚、届かない領域があるからだ。特にMotoGPのように超ハイスピードで走るマシンを操るには、なるべくそこに近い環境でバイクを走らせるのが最適解だ。
そのことがよく分かっているから、多少のリスクを覚悟したうえで、練習でもサーキットをガンガン走っている藍くん。これは強い。アメリカズGPでは惜しくもトラブルにより表彰台を逃したが、彼のシャンパンファイトが見られるのは意外とすぐ……だといいなぁ、と心から期待している。
ファクトリー入りの噂が流れる小椋藍
ここへきて、来シーズンのヤマハファクトリー入りがかなり現実味を帯びたウワサになっている藍くん。実力が認められていることは非常にうれしい反面、「大丈夫……?」という気持ちも若干ある。だが、いいタイミングのようにも思う。
藍くんは、昨シーズン、そして今シーズンと、アプリリアのサテライトチームでは確実に速さを示している。MotoGPの中でも、ある程度の地位は確立したと言えるだろう。そういうタイミングでヤマハファクトリーに移籍できれば、仮に成績が残せなかったとしても、彼の実力は問題視されない。「ヤマハ頑張れよ」となるだけだ。そういう意味で、来季の移籍は絶好の判断かもしれない。
レーシングライダーたるもの、「ファクトリー」の響きは絶対だ。最高のステータスであり、これ以上のものはない。もちろん成績も欲しいが、ファクトリーライダーになることには強烈な魅力があり、それに抗うことは難しい。現状でのヤマハ入りは決して容易な道ではないが、目の前にファクトリーマシンのシートがあれば、そこに座りたくなるのがライダーというものである。
藍くんがどういう結論を出すのかは分からないし、外野がとやかく言うことでもない。だが、MotoGPのファクトリーチーム入りがウワサされるだけでも本当にスゴイこと。どんな道を選んだとしても、楽しみで仕方がない。
来季はどんな色のマシンに跨るのか……?!
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
第5戦フランスGPで勢力図激変。最強ドゥカティを襲う異変とは? 小椋藍くんの3位表彰台によって、アプリリアは第5戦フランスGPで同社最高峰クラス史上初の1-2-3を達成した。第5戦フランスGP終了時点[…]
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台 ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。 波乱の第6戦カタルニ[…]
850cc化、エアロパーツ小型化、車高デバイス禁止、そしてタイヤメーカー変更! 先日、イタリアはミザノサーキットで、来季に向けたドゥカティ・モトGPマシンのテストが行われたようだ。 来シーズンは排気量[…]
速いヤツの方を向くしかない タイGPで気になったのはドゥカティだ。いよいよマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の影響が及んできたのか、内部的に若干意見が分かれ始めているような感じが[…]
アコスタの初勝利、ベゼッキの独走 行ってきました、2026MotoGP開幕戦タイGP! タイは昨年半ばからカンボジアとの間で国境紛争があり、ブリラムサーキットは市民の主要避難所として使用されていた。だ[…]
最新の関連記事(モトGP)
VIPパスがもたらす上質なひととき グランドスタンド頂上にあるホスピタリティエリアへ足を踏み入れると、外の喧騒とは一線を画す、洗練された大人のための空間。眼下にサーキットのストレートやピットレーンを一[…]
新たなトレンド“ 足出し”とマシンに合わせた固執しないフォーム ロードレースが大転換を迎えた2000年代。頂点クラスは長く続いた2スト500㏄から4スト990 ㏄ のMotoGPに変わった。初年の20[…]
ハーレーが仕掛ける異色の世界選手権 ハーレーダビッドソンは2024年から3年連続で、MotoGP日本グランプリに出展している。世界最高峰のロードレースに、なぜハーレーが? そもそもMotoGPのレース[…]
開けやすさや姿勢コントロールで安定したコーナリングを追及 80年代のGPシーンはラジアルタイヤの登場やアルミフレームなど様々な方向性でマシンが変革。またライディングフォームもハングオフが一般化したとは[…]
リーンウィズからハングオフへコーナリングフォームの大変革期 ロードレース世界選手権、いわゆるWGPが初開催されたのは1949年。現在も有名な欧州メーカーに加え、今は無きメーカーも多数参戦してしのぎを削[…]
人気記事ランキング(全体)
キミ・ライコネンが大絶賛した、アルファロメオのモンスターマシン ジュリア GTAmが最も濃密な時間を過ごし、その牙を研いだ場所こそトピックです。イタリア北部にある「バロッコ・プルービング・グラウンド」[…]
T40より手頃な価格設定を実現したボンネビルファミリーの新たな入門機 トライアンフがインド市場向けに投入した「ボンネビル T4」は、世界的な成功を収める400ccプラットフォームの技術基盤を活用しつつ[…]
配線工事不要で取り付けも簡単! クラファンで大きな注目を集めるドラレコ バイクに乗るうえで、万が一の事故やトラブルに備えて映像を記録しておくことは重要だ。しかし、一般的な車載型のドライブレコーダーでは[…]
250/300に続き「Honda E-Clutch」が欧州500ccへ! 欧州ホンダが発表した2027年モデルの「CMX500 Rebel」。最大の注目は「Honda E-Clutch(ホンダ Eクラ[…]
勝利のために常識を超えた装備を投入した特別なCB 1980年代初頭、世界のスポーツバイク市場で存在感を高めていたホンダが、持てる技術を惜しみなく注ぎ込んで生み出したのが「CB1100R」だ。その開発思[…]
最新の投稿記事(全体)
モンスターの“爪痕”を大胆にアレンジした傑作 『TOUR-CROSS V VAN BEVEREN』は、世界の頂点といわれるラリーレイド『ダカールラリー』で、2024年と2025年に3位を獲得したライダ[…]
カタカナのカッコよさを生かしたジャパニーズカルチャーグラフィック 『X-SNC KATAKANA』は、その名のとおりにカタカナをモチーフとしたグラフィックが特徴だ。左右それぞれのフェイスガードから後頭[…]
インディアンのクラシック・バガー 「Springfield Dark Horse(スプリングフィールド・ダークホース)」は、インディアン・モーターサイクル(以降インディアンMC)のラインナップの中で、[…]
AZの旧車とビンテージハーレーダビッドソン専用オイル 常に決まったブランドを使い続けるユーザーもいれば、さまざまなメーカーを渡り歩くユーザーもいるなど、エンジンオイル選びの流儀は人それぞれ。組成や粘度[…]
70〜80年代「F」の美学を現代へ:単なる復刻を超えた開発コンセプト 「CB750ホーネット」や「XL750トランザルプ」のLPL(開発責任者)を歴任してきた、本田技研工業の原本氏。彼が挑んだのは、ホ[…]
- 1
- 2





































