
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第41回は、2027年からレギュレーション変更により850cc化されるMotoGPマシンについて考察する。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:DUCATI, Honda Moblityland
850cc化、エアロパーツ小型化、車高デバイス禁止、そしてタイヤメーカー変更!
先日、イタリアはミザノサーキットで、来季に向けたドゥカティ・モトGPマシンのテストが行われたようだ。
来シーズンは排気量が現状の1000ccから850ccになり、エアロパーツの小型化、そして車高可変機構であるライドバイトデバイスが禁止され、ワンメイクタイヤがミシュランからピレリになるなど、MotoGPはかなり大がかりな変更が施される。ドゥカティの850ccモトGPマシンもコンパクトなエアロパーツを装着しており、見た目はだいぶシンプルになった。
もろもろの変更を受けて、確実にタイムは落ちる。もっとも「タイムダウン」する要素になるのは、エンジン排気量の150cc減少よりも、エアロパーツのコンパクト化よりも、タイヤの変更よりも、ライドハイトデバイスの禁止ではないかとワタシはにらんでいる。落ち幅は2秒程度と予想する。
「いやいや、エンジンが150ccも小さくなるんだから、ソレが1番利くでしょう」とお思いのアナタ。そりゃあもちろん確実にパワーダウンするし、ロングストレートを有するパワーサーキットでの影響は免れない。しかし小排気量化はコーナリングスピードを上げるので、ナンともビミョーだ。
なぜ小排気量化によってコーナリングスピードが上がるのかは、ナゾだ。ワタシはスズキのモトGPマシンの開発ライダーとして990ccから800ccへの排気量ダウンを経験しているのだが、確実にコーナリングスピードは上がった。
800cc化の初年度(2007年)、日本GPでのスズキGSV-R。写真はワイルドカード参戦した秋吉耕佑だ。
「パワーがないからスロットルを開けやすいんでしょ?」と思いますか? いやいや、データロガーを入念にチェックしたところ、スロットルを開けていないコーナーでも速かった。「エンジンが軽くなるからでしょ?」と思いますか? いやいや、ボアダウンしただけでブロックを変更したわけではなかったので、重量はほとんど変わっていないはずだ。
となると、サイズダウンしたピストンを含めたムービングパーツのわずかな重量減が慣性モーメントを減らし、それがコーナリングスピード向上につながったとしか思えない。ただ、当時は本当にナゾで、みんなで首をひねったものだ。
それなら来シーズンの850cc化も、コーナリングスピードを上げるのか。いや、そうはならない。問題になってくるのが、ライドハイトデバイスの禁止だ。今のMotoGPマシンの速さは、ライドハイトデバイスによるところがかなり大きい。だからその禁止は確実に影響する。恐らく850cc化によるコーナリングスピード向上をも打ち消し、さらにマイナス方向に振れるはずだ。
気持ち悪くなるほどの、スロットル全開時間の長さ
スペイン・カタルニアサーキットのフランチェスコ・バニャイアのログデータを見たが、1周のうちのスロットル全開時間はなんと全周の約30%だった。ワタシがレースしていたGP500では10数%だったから、倍以上の時間、スロットルが全開になっていることになる。気持ち悪くなるほどのデータだった。過去の常識からはあまりにもあり得ない数値なのだ。
パワーたっぷりの4スト1000ccエンジンで、さらにスロットル全開時間が長いとくれば、「そりゃあ今のMotoGPは速いわけだ」と納得した。それだけスロットル全開にできるのは、ライドハイトデバイスによってコーナー立ち上がりで車高が下がり、ウイリーを気にせずに済むからだ。これが禁止されるのだから、スロットル全開時間が減る→タイムが落ちる、は必至と言えよう。
コーナーの立ち上がりで大きくリヤが沈む姿も、今シーズンで見納めに。
ウイリー抑制といえばエアロパーツ。特に今の大型フロントウイングはウイリー抑制を狙ったもので、これも小型化されるわけだが、その影響はライドハイトデバイスほど大きくない。やはりライドハイトデバイスのように直接的に車体姿勢をコントロールできるのは別格なのだ。
注目を集めているのは、ワンメイクタイヤのメーカー変更だろう。ミシュランからピレリへのスイッチについて予想すると、実はワタシはさほどの影響は出ないのではないか、と見ている。
MotoGPのワンメイクタイヤは、ブリヂストン、ミシュランに続きピレリが3メーカーめだ。フロントが強かったブリヂストン、リヤが強いミシュランに対して、ピレリはちょうどその中間といったキャラクターだ。また、かつてのピレリは荷重をさほどかけなくても勝手にグリップするタイプで、剛性としてはやや柔らかすぎる傾向にあった。しかし最近のピレリはほどよく硬め。荷重をかければかけるほどグリップするブリヂストンに、だいぶ似てきている。
課題があるとすれば耐久性だが、ピレリは「その方がレースに展開があって飽きないでしょ」と、大胆に割り切っている節がある。四輪F1もピレリのワンメイクだが、タイヤの消耗度合いによって確かにレース展開がダイナミックに変わることがあり、興味をそそる……と、言えないこともない。はたしてMotoGPタイヤがどうなるか、レース運びにどんな変化が起こるか、楽しみではある。
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