クリーンな追い抜きにも惚れ惚れする

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.161「タイヤを消耗しない小椋藍の走りに脱帽!」

世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.161「タイヤを消耗しない小椋藍の走りに脱帽!」

1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第161回は、スペインGPで表彰台近し! を思わせた小椋藍の走りについて。


Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin

ミシュラン パワーGP2

「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー

フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について語りたいと思います。スペインGPでも5位入賞を果たし、表彰台が本当に近いことを予感させてくれました。藍くんはとにかくレース終盤に強い。しかもパッシングがクリーンで、見ていて惚れ惚れしますね。

残り3周、ヨハン・ザルコ(CASTROL Honda LCR)のインを突いて抜いた時も、マシンをなるべく寝かせて、ザルコのスペースをしっかりと残していました。

本人はマシンを起こしたい場面だったと思いますが、そうするとアウトにいるザルコに接触してしまう可能性があったんです。ギリギリのパッシングシーンでも相手へのリスペクトが感じられて、とても気持ちがいいバトルでした。

ここからが大きなポイントです。藍くんがザルコを抜いた後、その前にいたラウル・フェルナンデス(Trackhouse MotoGP Team)が、チームメイトの藍くんを明らかに意識していました。終盤に追い上げてくるのが分かっていたからです。そして、最終ラップにクリーンにフェルナンデスをパスして5位に。お見事でした。

ライバルに対して、「あいつは終盤に追い上げてくる」というプレッシャーを与えられることは、とても大きな武器になります。タイヤがタレて思うように走らせられなくなるレース終盤にヒタヒタと追い上げてくるライダーは、脅威でしかありません。

藍くんは、レースウィークの全セッションを決勝レース終盤のために使っているようですし、練習の仕方やセットアップ、そしてタイヤに優しいライディングに至るまで、レース終盤を想定したものばかり。素晴らしい戦略だと思います。

タイヤに優しいライディング」は、実はとても難しいものです。彼の走りは基本的にブレーキングでしっかり減速して、きちんと向きが変わってからスロットルを大きく開けるという、コーナリングをコンパクトに済ませるタイプです。

ブレーキングはなるべく短時間で終わらせたいので、ハードブレーキングになり、フロントタイヤに負担がかかりそうですよね。でも藍くんはリヤタイヤも効果的に使いながら減速することで、フロントタイヤをうまく残しています。

スペインGPでの小椋藍。

しかし、加速の時にも少なからずフロントをプッシュしてしまいますから、話は複雑です。バンキングスピードや体の使い方、スロットルの開け方などなど、たくさんの要素をすべて意識しながら、絶妙にバランスを取らなければ、タイヤを残すことはできません。そして藍くんは、それができるライダーなんです。

今のレース運びや、ライバルのプレッシャーの感じ方を見ていると、悲願の日本人最高峰クラスチャンピオンもあり得るのではないか、と期待させてくれます。スペインGPが行われたヘレスサーキットは、昔から日本人ライダーが得意としていたコースですし、この後のヨーロッパラウンドでどうなるか、読めない部分はあります。

また、正直に言って、まだ足りないところもあるでしょう。ライディングの引き出しはもっと増やさなければならないでしょうし、メンタルも今以上の強さが求められます。最後は、「勝ちたい」と思う気持ちの量が、王座に就けるかどうかの差になるんです。

でも、藍くんの今のスタイルはシーズンを通しても強さを発揮するはず。本当に楽しみです。来シーズンはヤマハ・ファクトリー入りがウワサされていて、ほぼ既成事実のような扱いになっています。本当のところは分かりませんし、はっきり言えば今のヤマハに移籍することがどう転ぶのかも不透明です。

ですが、もしウワサ通りファクトリーチーム入りが実現すればば、中野真矢くん以来となる日本人MotoGPファクトリーライダー。これは期待するしかありません(笑)。決して簡単な道ではありませんが、藍くんならやってくれそうな気がします。

最近は、「原田哲也と小椋藍はライディングスタイルが似ている」なんて言う方もいるようですが、とんでもない! 今のMotoGPマシンの速さや重さを考えれば、比べるのも失礼なぐらい、藍くんの方がはるかにレベルの高いライディングしています。

ちなみに僕も’99年にはアプリリアのファクトリーライダーとして最高峰クラス(当時は2スト500cc時代でした)に参戦し、ポールポジションを1回、3位表彰台を2回経験しています。ですが藍くんならもっと素晴らしい成績を残せるはず。今シーズンも、そして来シーズン以降も、ぜひ注目し続けたいと思っています。

2026年、そして来シーズン2027年も話題を振りまいてくれそうです。

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