
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第158回は、アプリリアが先行しはじめたエアロダイナミクスの話を中心に。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Aprilia, Michelin
相反する空力の要素を両立しているアプリリア
MotoGPは早くも第3戦アメリカズGPを終え、決勝レースはマルコ・ベゼッキ(Aprilia Racing)が優勝しました。これでベゼッキは、昨年の第21戦ポルトガルGP、第22戦バレンシアGP、今年の第1戦タイGP、第2戦ブラジルGP、そして今回のアメリカズGPと5連勝。バレンティーノ・ロッシ、マルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)に続きMotoGP史上3人目の「5連勝ライダー」となりました。
特に今年は、開幕戦から今回のアメリカズGPに至るまで、決勝レースではすべての周回をトップでクリア。121周連続リードという凄まじい記録を達成しています。ベゼッキ自身は「信じられないよ」と言っていますが、彼自身の速さや強さはもちろん、アプリリアRS-GP26がかなりのパフォーマンスを発揮しているからこその記録でしょう。
マルコ・ベゼッキ(右)とホルヘ・マルティンによるワンツーフィニッシュを達成。マルティンはアメリカズGPのスプリントレースで勝利を挙げている。
アプリリアRS-GP26の強みは、何と言っても空力でしょう。聞いたところによると、アプリリアのライダーはストレートで肘をギュッと絞ってフロントタイヤまわりからのエア流入を抑え、コーナーでは逆に肘を開いてエアを導入しているそう。おそらくストレートでは空気抵抗を軽減し、コーナーではダウンフォースを利かせているのだと思いますが、こういった小技が功を奏しているのでしょう。
アプリリア・レーシングCEOのマッシモ・リボラは、F1フェラーリでディレクターを務めていたことがあり、当然、空力には非常に明るい人です。さらに空力に詳しいエンジニアを積極的に登用するなどして、マシンの空力性能を高めてきました。イタリア人の彼のことですから、レギュレーションのグレーゾーンや抜け穴をうまく突いているのでしょう。
前後のウイングレットのほか、タンク下端あたりに肘で塞ぐことができるダクトが設置されている。
アプリリアの「アクティブエアロ」を解説している海外の動画
ショートカットして見たい方は5分20秒あたりへ
逆に、最強と言われ続けてきたドゥカティは、昨年の第20戦マレーシアGPでアレックス・マルケス(BK8 Gresini Racing MotoGP)以来、決勝では勝てていません。しかもサーキット・オブ・アメリカズを大得意としているマルケスが5位に終わっており、精彩を欠いています。
マルケス自身は、「昨年のインドネシアGPでの負傷(右肩甲骨骨折と靱帯損傷)が思っていた以上に深刻。マシンのパフォーマンスは問題ない」と語っていましたが、25年型デスモセディチに引き続き、26年型ももうひとつなのかもしれません。ただ、まだまだ序盤戦なので何とも……。これからセットアップが進めば、またドゥカティが猛威を振るう可能性もあります。
小椋藍のクリーンなバトルを称賛したい
日本のMotoGPファンが盛り上がったのは、何と言っても小椋藍くんの表彰台争いでしょう。予選10番手だった藍くんですが、土曜日のスプリントレースは6位。そして日曜日の決勝レースは、終盤にかけて3位ペドロ・アコスタ(Red Bull KTM Factory Racing)に迫る勢いを見せました。残念ながら残り5周というところでマシントラブルによりスローダウン。無念のリタイアとなってしまいました。
もし藍くんにトラブルが起きなければ、’12年バレンシアGPでの中須賀克行くん以来14年ぶりとなるMotoGPでの日本人ライダーの表彰台獲得となったところ。非常に残念ではありますが、僕はそれ以上に、彼のクリーンなバトルを称賛したいと思います。
フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)を抜く時も、ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)を抜く時も、とてもクリーンなムーブメントだったんです。ちゃんとラインも残していて、相手に対するリスペクトも感じられました。
#79 小椋藍
昨今のMotoGPは──などと言うと老害みたいでイヤなのですが──、「多少当たってもいいから行っちゃえ!」みたいなところが少なからずあります。空力マシン化によって操作が重くなったこともあるかと思いますが、「接触するのが当たり前」という風潮が、僕はあまり好きではありません。
もちろんレースですから、「何としてでも相手を抜く」という気構えは重要です。外国人ライダーと日本人ライダーの差は、そこにあるのかもしれません。ですが、ライバルへのリスペクトまで失うことは、僕はいいことだと思えません。レースは基本的にリスクが高いスポーツであり、中でも抜き差しのバトルはさらにリスクが高まります。
そんな状況だからこそ、「相手のラインを残す」というリスペクトが必要だと僕は思います。もしかしたら「甘い」と言われるのかもしれません。ですが僕は藍くんのクリーンなパッシングに、改めて「世界最高峰のMotoGPこそお手本としてああいうシーンをたくさん見せてほしい」と思いました。
アコスタは3位表彰台を獲得。’24年のMotoGPデビュー以来、マルケス以来の逸材として注目を集めていますが、決勝レースではまだ2位止まりで優勝がありません。彼ほどの天才級でもそうおいそれとは勝たせてもらえない、天才同士の競い合いがMotoGP。だからこそ、最上級のバトルを見せてほしいものです。
開幕戦タイGPではスプリントレース初勝利を挙げた#37 ペドロ・アコスタ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 元世界GP王者・原田哲也のバイクトーク)
苦境が続く日本メーカー カタールGPが11月に延期となったことで、次戦は4月末(つまり今週末)のスペインGPになりました。ヨーロッパラウンドに入ってからもアプリリアが今の勢いを保ち続けるか、注視したい[…]
現行レギュレーションは最後になる2026年 2月27日に開幕を迎えたMotoGP2026シーズン。注目のトピックスはたくさんありますが、僕が注目しているのは1000ccエンジンとミシュランのワンメイク[…]
開幕戦タイGPを前に WRCで大活躍している勝田貴元選手と食事をしました。彼は’24年からモナコに住んでいるんですが、なかなか会う機会がなかったんです。実はMotoGPもかなり好きでチェックしていると[…]
マルケスですらマシン差をひっくり返せない時代 ヤマハが2026年型YZR-M1を発表しました。直線的なフロントウイングの形状など、ドゥカティ・デスモセディチにやや寄せてきた感がありますね(笑)。一方、[…]
第5位 フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team) こんなところにバニャイア……。ちょっと信じられない結果ですね。とにかく激しい浮き沈みの波に翻弄された、’25年のバニャイア。[…]
最新の関連記事(モトGP)
850cc化、エアロパーツ小型化、車高デバイス禁止、そしてタイヤメーカー変更! 先日、イタリアはミザノサーキットで、来季に向けたドゥカティ・モトGPマシンのテストが行われたようだ。 来シーズンは排気量[…]
苦境が続く日本メーカー カタールGPが11月に延期となったことで、次戦は4月末(つまり今週末)のスペインGPになりました。ヨーロッパラウンドに入ってからもアプリリアが今の勢いを保ち続けるか、注視したい[…]
H-Dレーシングの新たな時代が幕を開ける! 昨秋、イタリア・ミラノで開催された世界最大規模の二輪車展示会「EICMA2025」にて、ハーレーダビッドソンは『HARLEY-DAVIDSON BAGGER[…]
速いヤツの方を向くしかない タイGPで気になったのはドゥカティだ。いよいよマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の影響が及んできたのか、内部的に若干意見が分かれ始めているような感じが[…]
アコスタの初勝利、ベゼッキの独走 行ってきました、2026MotoGP開幕戦タイGP! タイは昨年半ばからカンボジアとの間で国境紛争があり、ブリラムサーキットは市民の主要避難所として使用されていた。だ[…]
人気記事ランキング(全体)
スペンサーの世界GPでの大活躍がAMAレースの注目度を高めた 旧くからのバイクファンなら、だれもが“ファスト・フレディ”の愛称を知っているだろう。1983年に世界GP500でチャンピオンに輝き「彗星の[…]
軽くて足つき抜群の相棒バイク 「バイクに乗りたいけれど、重くて取り回しが不安」「ちょっとコンビニに行くのに大型バイクを出すのは面倒」。そんな不満を感じたことはないだろうか。重いバイクは所有感を満たして[…]
クルーザースタイルが特徴的なBMW Motorrad R 12 BMW MotorradのR 12で特徴的なのは、誰がみても高級車と直感的にわかるスタイリングと細部の作り込みだ。今回の試乗車がスタンダ[…]
見せかけの安さを追求しない、最初から「全部乗せ」の潔さ 昨今のミドルクラススポーツを見渡すと、カタログの車両価格こそ安く見えるものの、いざ買おうとすると違和感に気づく。「クイックシフターは別売り」「高[…]
音質がさらに向上し高速走行にも強くなった『B+COM 7X EVO』 “史上最高のサウンドを手に入れた”と話題のサイン・ハウス『B+COM 7X EVO』。使い始めてまず感じた進化のポイントはやはり音[…]
最新の投稿記事(全体)
©しげの秀一/講談社 峠ライダーだった主人公の巨摩 郡(こま ぐん)が、仲間との出会いやライバルたちとのバトルを経て、やがてWGP500のチャンピオンに輝くまでを描いた漫画「バリバリ伝説」(原作:しげ[…]
【特徴】2チップ搭載で「ナビ+通話」を完全両立 最大のトピックは、この価格帯にしてBluetoothチップを2基搭載したこと。 従来の格安インカムにありがちだった「ナビ音声が入ると通話が切れる」という[…]
現在のMotoGPでただひとりの日本人、小椋藍選手のレプリカ登場 トラックハウス・レーシング(アプリリア)からMotoGPに参戦している小椋藍選手は、現在2種類のヘルメットを使用している。このたび発売[…]
「バイク業界は減速傾向」まだそんなこと言ってるの? いつからか、国内二輪市場の概況を説明する際に枕詞に使われるのが「減速している」です。 たしかに、1982年の販売台数327万台に比べると、直近の20[…]
憧れのボンネビル、乗り心地に妥協していないか トライアンフを象徴するバーチカルツインエンジンの鼓動感と、色褪せないクラシカルなスタイリングを持つボンネビル。週末のツーリングから街乗りまでこなす懐の深さ[…]
- 1
- 2









































