
ライドフィールだけでなく、視覚的にも艷やかであることはファインダー越しに見る磯部孝夫カメラマンも感じている。「弧を描くラインがセクシー!」1970年代から国内外のレースやカスタムシーンをフィルムに収め続けてきたベテランが、そう言ってシャッターを切るのをやめない。「これはアートだ」と、眼光鋭く吐息を漏らす。サンダンス代表のZAK柴崎氏が、アメリカ大陸で4万6000kmを一気に走破した経験に基づき生まれたホットロッド・ツアラーが、この「トランザム(トランスアメリカ=米国大陸横断)」だ。
●文:青木タカオ(ウィズハーレー編集部) ●写真:磯部孝夫 ●外部リンク:サンダンスエンタープライズ
ベテランカメラマンに「これはアートだ」と言わしめる流麗なフォルム
リヤタイヤが路面を蹴り飛ばすかのような、豪快で胸の空く加速フィールはスタートダッシュだけではなく、速度レンジが上がってからもまだまだ続く。車速が上がってからが、本領発揮と言わんばかりの安定感とコンフォート性だ。
燃料タンクが空っぽになるまで、このままハイスピードを維持して走り続けても疲れなど微塵も感じないだろう。走りを飽きさせないのは、とてつもないビッグトルクをダイレクトかつテイスティに乗り手へ提供するVツインを心臓部にするからで、大きな太鼓を連続して打ち鳴らすかのような腹の底に響く重低音と鼓動は心地良く、官能的ともいえる。
サンダンス代表のZAK柴崎氏が手がけたトランザム“禅”ZENにも乗ることができた。排気量を2030ccに上げたツインカムエンジンは、Vバンク間に向かい合わせの対面吸気のままツインキャブ化している。サンダンスの創造するロボヘッドに乗るという、願ってもない貴重な機会を得たのだ。
筆者がこれまでに乗ったことのあるトランザムは、いずれもスーパーXR-TCが搭載されていた。スーパーXRヘッドではリヤ側シリンダーヘッドのインポートを後方へ逆転させ、キャブを車体の右側へ2連装するが、ロボヘッドタイプAではシリンダー吸気口の向きを変えないままに、ツインインテーク化。
純正ノーマルエンジンと同じカムレイアウトとしながら、独立インテーク&ハイエアフローポートヘッドを実現している。
大排気量がもたらす余裕は大きく、どの速度域からでも右手のグリップをひねれば車体を力強く前へ押し出す。
忙しないシフトチェンジは不要で、たとえば高速道路での追い抜きでも、トランスミッションの操作はいらない。高いギヤのまま、回転が低かろうともドコドコドコドコと心地良い鼓動を伴いつつ、湧き出るかのようトルクの塊を発揮する。
トランザムの高速クルージング性能には目を見張るものがある。エンジンおよび車体に不快な微振動がなく、風切り音もどこからも生じていない。そして、ライダーが受けるはずの身体への走行風をまったく感じさせないから驚嘆するばかりだ。
アメリカ大陸横断の経験に基づく、快適性能&スポーティーな走り
見た目こそ大型ツアラーなのだが、上質なロードスポーツに乗っているかのように軽快でコントローラブルなのは、車体装重量が300kgでしかないことも大きく関わっている。
2024年型で大幅に軽量化されたストリートグライドでさえ368kgであることを考えると、かなり軽い。ロングライドでの疲労軽減と大気を切り裂く空力を考慮したドライカーボン製のフェアリングをはじめ、エンジン前方で空気の乱流を解消する大きなフロントフェンダー、そこから流れる走行風をサイドバッグに向かって足もとの内側と外側を通過するように設計されたレッグカウル。
さらに、リヤまわりに発生するスリップストリームを利用して、エンジンの熱を後方のダクトより排出するサイドバック、いずれもFLHの伝統的なスタイルを継承しつつ、秀逸した空力特性をよりスポーティーで洗練されたフォルムとともに実現している。
ゆったりとしたライディングポジションで、荷重シート高はわずかに620mmと極めて低い。それでいながらコーナリング性能に優れ、車体を大きく傾けてもステップボードやマフラーを路面に擦らない。
3スポークのアルミビレットホイールや、路面追従性に優れる前後サスペンションもまたサンダンス トラックテック製で、足まわりにもフリクションは感じられない。
抵抗なくスーッと進む感覚は、まるで新幹線などで味わうロングレールのようなシームレスな乗り心地。線路の継ぎ目を通るたびにガタンゴトンと車両を大きく揺らし、音を鳴らす旧規格の在来線とはまったく違うように、トランザムのコンフォート性は次元が異なる。
距離への感覚がおかしくなるほど高速巡航性に優れ、ロングライドでの疲労は極めて少ない。真のグランドツアラーでありつつ、熱きHOTRODのスピリットも持ち合わせる。
ハーレーダビッドソンが生まれ育まれたアメリカを4万6000km以上、縦横無尽に駆け抜けたサンダンスZAK柴崎氏が自らの経験から設計/開発/生産へ至ったトランザム。走行風からライダーを守るフェアリングや長旅のためのラゲッジケースなど、FLHの持つ機能をより充実させ進化させ、エンジンのパワーやスポーティーさを含め、全方位に進化させた。シャーシは、OHVロングストローク45度Vツインの心地良い鼓動をソリッドマウントでダイレクトに伝えるソフテイルフレームをベースに低重心化。ネック角を6度寝かすなどし、ディメンションが見直され、ホイールベースを1700mmに延長している。
今回の“禅”ZENでは、搭載するパワーユニットとしてROBOHEAD-TYPE Aがチョイスされた。ツインカムをベースに排気量を2030ccにし、純正ノーマルエンジンと同様のカムレイアウトにしつつ、より効率に優れる独立インテーク&ハイエアフローポートヘッドを実現。オーナーの要望次第で、リヤ側シリンダーヘッドのインポートを後方へ逆転させ、キャブを車体の右側へ2連装するスーパーXR-TCも選べ、発展性があることも2輪メーカーさながらで、その開発設計力と信頼性に通じるプロダクツのラインナップ展開には感服せずに1はいられない。
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