
●記事提供:モーサイ編集部 ●レポート&フォト:吉田宣光
排出するのはH₂Oだから、酸素に対し2倍の水素が必要
FCV(燃料電池車)とは異なり、水素を燃やす内燃機関で動力を得て走るため、エンジンの鼓動や排気音を堪能しながらカーボンニュートラルな走行を実現できる水素エンジン搭載車。その二輪車版は、カワサキモータースがすでに量産メーカーとして世界初のデモランを実施している。2024年7月の鈴鹿8耐を皮切りに、2025年6月のル・マン24時間、同年7月に開催された世界最高峰の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスでも公開走行をするなど着々と存在感を示しつつあるが、大盛況のうちに閉幕した先日のジャパンモビリティショー2025の会期中にもその勇姿がお披露目された。
東京ビッグサイトで行なわれたジャパンモビリティショー2025のプログラムのひとつ、「Next generation Fuel Car ショーラン」(開催日:10月31日〜11月2日)に登場したカワサキの水素エンジンモーターサイクル。
エンジンに燃料の水素を供給する方式には、2タイプがある。ポート噴射と筒内直接噴射(直噴)だ。
今回の研究用車両に載る、並列4気筒998ccパワーユニットに採用されているのは直噴。そして、水素エンジンが排出するのは主にH₂Oで、酸素に対し水素は2倍。空気の中に酸素は大体20%あるから、それを全部燃やそうとしたら2倍の水素が必要になるため、250ccのシリンダー(4気筒エンジンの1気筒分)内にある50ccの酸素に対して100ccの水素を入れなければいけない。1万2000回転/分で運転する場合、吸気バルブが閉じて圧縮する間の2/1000秒の時間に燃焼室内に噴射しなければならないのだ。
Ninja H2 SXの並列4気筒スーパーチャージドパワーユニットをベースとする水素エンジン。ちなみに、質量比でいえばガソリンよりも水素のほうがパワーは出るが、体積比でみれば逆になる。水素は重くはないがかさばる燃料で、1kg当たりのエネルギー密度が高く、1L当たりのエネルギー密度は低い。
これをポート噴射でやろうとすると、ポート内に水素が噴射される分、空気が少なくなる。体積の大きい水素に空気が押しのけられてしまい、結果として出力もダウンする。スクーターのようなコミューターであれば、そのほうが低コストでやりやすいかもしれないが、スポーティな走りが求められるモデルでは適当ではない。Ninja H2 SXをベースに製作されたこの車両が直噴仕様であるのもうなずける。
「水素エンジンのために、直噴化しました。水素燃料とガソリンのダイレクトインジェクションの構造は、基本は同じです。Ninja H2を発売した2015年頃から、モーターサイクルにおけるガソリンエンジンの直噴の研究は始めていました。どうすれば燃費や出力がよくなるかという技術は、5年ほど前にほぼ完成していたのです」
このプロジェクトに携わるカワサキモータースの市 聡顕さんはそう語る。2023年3月から研究が始まった水素エンジンモーターサイクルが、それから1年足らずで試験走行開始、2024年の夏に鈴鹿サーキットで公開走行という流れは異例の早さだったが、それは直噴の研究が先行していてあらかじめ準備ができていたからといえる。
「水素はガソリンよりも燃焼速度が速くて、可燃範囲が広い。空気と燃料を混ぜる割合の幅が広い。ガソリンだと決まった割合で混ぜなければいけません。それを外すともう燃焼しなくなります。水素だとすごく薄くても燃えるし、空気を先にたくさん入れておき、そこに燃料を入れながら出力を調整することが可能です。その点では、ガソリンより自由度が高い。燃料の量で出力を調整できるのは、水素のいいところなのです。これにより、レスポンスがよくなります。ガソリンエンジンの場合、スロットルをひねると空気が入りその空気に燃料を混ぜて燃焼させますが、水素エンジンの場合は、先に空気を入れておいてスロットルを開けたときに燃料だけ入れて燃焼。レスポンスが全然違います」
ジャパンモビリティショー2025では、6気筒水素エンジンのモックアップ(写真手前)も参考出品。振動が驚くほど小さいのが6気筒バージョンの特徴だという。夢が広がる!
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