
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。この記事ではZ1000Rを取り巻く1980年代レーサーレプリカの歴史を掘り下げる。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:YM archives
ドゥカティの手法とよく似た展開で登場
レーサーレプリカ=クローズドコースでの運動性能を徹底追及したモデル。世の中にはそう考える人がいるけれど、レーサーレプリカを直訳すれば、競技車両の複製だから、必ずしも運動性能を徹底追及している必要はない。
もちろん、これまでに登場したレーサーレプリカの多くは、速さを第一義として開発されているのだが、’80年代以前の2輪の世界では、レーサー的な雰囲気が味わえるモデルや、一部にレーサーの技術を使ったモデルが、レプリカと呼ばれることが少なくなかった。
空冷2バルブ並列4気筒のカワサキZが現役だった’70~’80年代を振り返って、もっともレーサーレプリカに積極的だったのは’73年に750SS(愛称はイモラレプリカ)、’79年に900MHR=マイク・ヘイルウッド・レプリカを発売したドゥカティである。 ただしこの2台のキャラクターは、まったくの別物だった。
具体的には、’72年のイモラ200マイルを制した、ワークスマシンの技術を転用して生まれた750SSが市販レーサー的な特性だったのに対して、900MHRの開発目的は’78年のマン島TTで劇的な優勝を飾ったヘイルウッドの愛機の雰囲気を再現することで、運動性能にはほとんど磨きをかけていなかったのだ(性能的には、同時代のベーシックモデルだった900SSとほとんど同等)。
なお’70年代後半~’80年代初頭のドゥカティは900SSにチューニングを施した「900TT1」という市販レーサーも生産していたが、このモデルを入手できたのは一部のレーシングチームだけだった。さて、長々とドゥカティの話を記してしまったけれど、カワサキが初めて手がけたレーサーレプリカの展開は、900MHRを発売する前後のドゥカティとよく似ていたのである。
なんと言っても’82年のカワサキは、ベーシックモデルのZ1000Jを基盤にして、エディ・ローソンが駆ったレーサーのイメージを投入したZ1000Rを生み出し、同時に30台限定の市販レーサーとして、保安部品を装備しないZ1000Sも生産していたのだから。
ちなみに当時のカワサキ開発陣の中には、Z1000Rではなく、Z1000Sこそ本物のローソンレプリカ、という認識を持っていた技術者が少なからず存在したらしい。たしかにZ1000Sは’81年のAMAスーパーバイクレーサーを参考にした、数多くの専用レーシングパーツが採用されていたから、そういう認識を持つのは不思議なことではなかったのだ。
【カタログにも踊る「REPLICA」の文字】’82年型Z1000Rの北米仕様のカタログにはエディ・ローソン本人が登場。表紙の車名の下にはLAWSON REPLICAと記されている。
【原点は’81年AMAで王座を獲得したZ1000Jレーサー】’81年のAMAスーパーバイクに参戦したエディ・ローソン+Z1000Jは、8戦中4勝を挙げてシリーズチャンピオンを獲得。ガソリンタンクはラウンド型だが、このモデルがZ1000Rの原点だ。
【 マン島TTを制したレーサーを再現】’79年からドゥカティが発売を開始した900MHRは、’78年のマン島TTで劇的な優勝を果たした、マイク・ヘイルウッドの900TT1(写真右)を再現。世界中で大人気を獲得したものの、最高出力は既存の900SSと同等の72psで、車重は当時のドゥカティでもっとも重い202kgだった。
似て非なる資質の日本製並列4気筒車
ここまでドゥカティとカワサキを中心に話を進めて来たが、レース参戦で培った技術やイメージを市販車に投入するという手法は、2輪メーカーにとっては大昔からの定番で、オートバイ先進国だったイギリスでは第二次大戦前から、マン島TT制覇を記念するモデルとして、スコットやラッジが“TTレプリカ”というモデルを発売している。
では日本製レーサーレプリカの元祖は何かと言うと、ヤマハが浅間火山レーサーの技術を投入して開発した’59年型YDS1、ホンダが’60年代に販売したCRシリーズ(全モデルが当時の同社製GPレーサーから転用した、DOHCヘッド+カムギヤトレインを採用していた)などという説があるものの、大排気量車に限って言うなら、’80年秋に初代が登場したホンダCB1100Rだろう。
登場時期が近かったためか、場合によってはZ1000Rのライバルとして扱われることがあるCB1100Rだが、この2台は同列で語れるモデルではない。耐久レーサーRCBのレプリカであり、プロダクションレースでの勝利を前提にして生まれたCB1100Rは、位置づけとしてはZ1000Sに近く、エンジンとシャーシの両方に数多くの専用設計部品を採用していたのである(開発ベースはCB900F)。
もっとも、保安部品を装備する公道用モデルだったため、Z1000Sほど割り切った作り込みは行えなかったものの、当時としては珍しかった、フェアリングやシングルシートカウルを標準装備するCB1100Rは、以後に登場するレーサーレプリカに多大な影響を及ぼしたモデルなのだ。
余談だが、’79年に発売されたスズキGS1000Sがクーリーレプリカと呼ばれることがあるけれど、この表現は後付けで(おそらく、ローソンレプリカの影響だろう)、メーカー自身が公言したわけではない。
と言っても’80~’81年のAMAスーパーバイクでは、ヨシムラスズキのエースだったウエス・クーリーが、ビキニカウルを装備する白/青のGS1000Sで活躍しているのだが、そもそもGS1000Sは、GS1000のスポーツ&カフェレーサー仕様として登場したモデルで、クーリーのレーサーを再現したわけではなかったのだ。
ただし、GS1000Sが採用した白/青はスズキのワークスカラーであり、そういう意味ではレーサーレプリカの資質が皆無というわけではない。
【 1981 HONDA CB1100R】右はRCB(’76年式)。’80~83年に販売されたCB1100Rは、当時の耐久レースで圧倒的な強さを誇ったファクトリーマシン・RCBの技術を転用して生まれロードゴーイングレーサー。前期型は115ps、後期型は120psを発揮。
【1979 SUZUKI GS1000S】’79年から発売が始まったGS1000Sにはさまざまな仕様が存在。フラットなシートとVM28キャブを装備する写真は初期モデルで、’80年の北米仕様は段付きシートとBS34SSキャブを採用。
【1982 KAWASAKI KZ1000S】Z1000Jベースの市販レーサー。Z1000Rと同時開発された市販レーサーのZ1000Sは、ダイマグホイール、削り出しのステム、アルミ楕円パイプ製スイングアーム、KR500をベースとするブレーキなどを導入。シリンダーヘッドを中心とする大改革が行われたエンジンは、130psを発揮(ローソンのレーサーは140ps以上)。キャブはCRφ33mmで、点火はCDI。
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