
コロナバブルもすっかり落ち着いて、コロナ禍前の状況に戻った感のあった2024年のバイク界。我々ライダーを取り巻く環境にも大きな変化はなく、高速道路のETC割引も適用される必要走行距離が100㎞から80㎞へと匍匐前進した程度で、バイクライフに大きく影響するものではありませんでした。そして開けて2025年。今年はバイク界に、ライダーにどんな変化が待ち受けているのでしょうか。現時点で予想できるあんなことやこんなことを、つらつらと書き綴っていこうと思います。
●文: Nom(埜邑博道)
新基準原付
2025年、バイク界に起こる最大の変化は従来の50cc原付(=原付一種)に代わって登場することになった「新基準原付」でしょう。
従来の50cc原付が、今年の11月から施行される排ガス規制に対応することが(技術的およびコスト的に)困難という声が車両メーカーからあがり、普通自動車免許でも運転可能で、価格も手ごろな足替わりである50cc原付をなんとか存続してほしいというユーザー/販売店側の声に対応して、生まれたのが「新基準原付」というものでした。
従来の50cc原付では、触媒が浄化効果を発揮する温度になる以前に排ガス規制値を超えてしまうのに対し、現在、世界のスタンダード入門車となっていて各メーカーとも豊富な車種をラインナップしている110cc~125ccは新たな排ガス規制にも十分に対応できるため、これまでの原付=50cc以下という枠組みを取り払い、排気量は125cc以下で、最高出力を4kW(5.4ps)以下に制御したモデルを新基準原付としてこれまで通りの原付免許及び普通自動車免許で運転可能な原付一種に区分することとしました。
これにともなって、警察庁が昨年11月13日に道交法の改正案を交付。さらに、国交省も道路運送車両法の区分見直しを行うことで、4月1日から正式に新基準原付がスタートすることになったのです。
現在でも毎年10万台の販売台数がある50cc原付は、ライダーにとって便利で手軽な足であるのに加え、とくに地方のバイク販売店にとっては大事な「飯の種」。125cc・4kW以下という制限を加えられることで長年親しまれてきた原付一種が無事に存続することになったのは朗報ではありますが、新基準原付が登場することにともなっていくつかの懸念も持ち上がっています。
もっとも大きな懸念は、これまでの原付に比べて新基準原付は大きくて、車重も重くなります。ホンダが新基準原付になってもスーパーカブはなくさないと公言していますが、スーパーカブ50と110を比較すると全長は1860mmでどちらも同じですが、車重は50の96kgに対し110は101kg。わずか5kgの重量増ですが、女性や非力な方、高齢者にこの5kgの重量増が取り回しのしにくさ、扱いにくさにつながるのではと不安に感じている方がいるようです。
また、都内の駅前などにある公共の原付用駐車場に新基準原付は駐車可能かという問題も生じそうです。「バイクは原付一種(50cc)まで」という表記がある駐車場に新基準原付が駐車できるように、業界側は各自治体に新基準原付の駐車場の整備を要望していて、11月13日には国交省都市局街路交通施設課長から各都道府県の担当部局長/各政令指定都市担当部局長あてに「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う駐車環境の整備に向けた取組の推進について」という通達で、新基準原付も従来の原付一種用駐車場に駐車できるよう対応することを求めています。
東京都オートバイ協同組合(AJ東京)によると、警視庁からも同様の通達が出ているようで、新基準原付が世の中に登場するころ(来年の夏以降か?)には、駐車場の受け入れ態勢も整いそうです。
もっとも気になる新基準原付はどんなモデルが用意されるのかですが、先日インタビューしたホンダの加藤二輪事業本部長によると「スーパーカブとスクーター」の2モデルを用意しているとのこと。現在は、EVを含めて16機種の原付モデルをラインナップするホンダとしてはずいぶん少ないのではと感じますが、メーカーとしては原付免許/普通自動車免許で乗れる新基準原付は必要最低限揃えておいて、排ガス規制とは無縁な原付相当のEVスクーターに移行してほしいという思いもあるようです。
さらに、販売店からは最近は原付に代わって電動アシスト自転車や電動モペッドといったように、多種多様な足替わりになる乗り物が増えてきていて、どうしてもスクータータイプの原付じゃなければいやだという人も減ってきているとの声もあります。
昨年7月にプロトモデルの試乗会が行われたスズキのe-POも、実際に発売されれば原付の代替モデルとして受け入れられるのではないでしょうか。 現在の原付一種は、今年の10月末までは継続生産されるそうですから(スズキは5月で終了か?)、2025年の原付市場はさほど大きな混乱もなく推移する見込みです。
2025年11月の規制を睨み、2021年頃に開発の話が持ち上がった ご存知のように、バイクの世界にもカーボンニュートラル(CN)の波は激しく押し寄せていて、国内外の二輪メーカーはその対応に追われている[…]
いまのところ、原付モデルに新車を超える価格が付くなどの事態は一切起きていないようだが、中古車は下取り/売値ともに上昇傾向になるそうだ。
ホンダのビッグCBはどうなる?
登場から30年以上経過したホンダのCB1300シリーズの後継モデルも注目を集めています。先ごろ、EICMAで発表されたCB1000 HONETが日本でも正式発売されましたが、日本ではヘリテイジスタイルのネイキッドモデルを求める声が多いのも事実。実際、カワサキのZ900RSは2017年の発売以来、現在に至るまでベストセラーを続けています。
ホンダファンとしてもZ900RSのようなモデルの登場を長い間待ち続けていて、一度はお蔵入りとなった往年のCB-Fを彷彿させるビッグCBが登場するのではという噂で持ち切りです。
本誌2025年1月号では、「俺達のエフが還ってくる?!」とCB1000 HORNETをベースとしたビッグCBの登場予想するという記事を掲載しましたが、最新の情報ではこのモデルが春のモーターサイクルショーに登場することが濃厚とのこと。となると、ニュー・エフに対面できるまであとわずか3か月。期待して待っていましょう!
いったんはお蔵入りとなったCB750Fをオマージュしたモデルでしたが、次期ビッグCBはFスタイルを踏襲すると噂されています↓
BIG-1後継機は“エフ”スタイルで来る?! まさかまさかの新情報だ。ホンダが開発中のヘリテイジネイキッド・仮称「CB1000」が、ホンダ往年の名車“エフ(CB750F/CB900F/CB1100F)[…]
ホンダと日産が経営統合へ
昨年末の12月18日、ホンダと日産が経営統合するという衝撃的なニュースが飛び込んできました。
このコラムでも、両社の経営統合はホンダの二輪事業には影響があるのかという観点で記事を書きましたが、12月23日には2社に加えて三菱自動車も含めた3社が「知能化・電動化に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書」に基づいて基本合意書を締結し、将来の経営統合に向けての検討を進めていくことを記者会見で発表しました。
持ち株会社を設立し、ホンダと日産、さらに三菱自動車も加わる? ホンダと日産が経営統合するという話が、12月18日からTVのニュースやワイドショーで大きく取り上げられています。 両社は、今年の3月に自動[…]
電動化、知能化というかつてない転換期を迎えている自動車業界。個社でその難局を切り抜けるのは困難だというのが経営統合の理由ですが、ホンダ、日産が持ち株会社を設立してそこに三菱も合流する、持ち株会社の役員の過半数はホンダが指名し、持ち株会社の代表はホンダの役員から選出する、2026年6月に経営統合の最終合意を目指すという方針が明らかになっただけで、詳細が決まるのはこれから。
当然、二輪事業はどうするんだというような個々の事業についての話はいまのところはまったく出ていません。12月19日のコラムに書いたように、現在のホンダにとって二輪事業は経営の屋台骨を支える存在ですから、何か大きな変化が起きるとは考えられません。
統合することで年間売上30兆円、営業利益3兆円以上の世界大3位のモビリティーカンパニーが誕生すると言われていますが、その中核のひとつはホンダの二輪事業であることは間違いないでしょう。
KTMはどうなる?
11月26日に、KTMが本社のあるオーストリアの裁判所で破産手続きを開始するとの発表を行ったことで、倒産=会社が消滅するのではという情報が乱れ飛びました(KTMからの英語のリリースを機械翻訳したことがその原因とも言われています)。
そんな状況を受けて、KTMの日本法人であるKTMジャパンは、現在および将来のKTMユーザーにはいかなる悪影響もないという本社のコメントを発表。KTMは自主再建に向けて、7億ユーロの投資を行う3つの関係者を見つけたと法廷で述べているようですが、その関係者とは誰なのかなどの詳細は明らかになってはいないようです。
F1王者のルイス・ハミルトンの名前が挙がっているとの報道もありますが、いずれにせよバイクを、モータースポーツを愛する投資家であってほしいと思います。
自主再建に向けて人員削減や、生産調整などKTMにとって苦しい局面が続くのは明らかで、12月13日にはMVアグスタがKTMグループから離合・独立することも発表されました。
MVアグスタの新たなパートナーになるのはどこか(中国メーカーとの噂もあるようです)、そしてモータースポーツを含めたKTMの活動が2025年も支障なく行えるのかどうか。心配は尽きませんが、そんなユーザーの不安を払しょくするためにKTMは12月24日に「逆境を乗り越え立ち上がる:KTMは未来、そして更なる勝利の道筋を描く」という言葉とともにビデオレターを公開しました。
不屈の意思でさまざまなレースシーンを勝ち抜いてきたKTMの再建・復活を期待しましょう!
暫定税率がついに廃止に!
本来の税率28.7円/Lに上乗せされているのが暫定税率(特例税率ともいう)25.1円/L。ただし、ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で160円を超えた場合は、暫定税率を停止する仕組み=トリガー条項も設けられていましたが、2011年に発生した東日本大震災の復旧・復興を勘案してこの条項は長い間停止したまま。 政府は昨今のガソリン価格高騰を受け、トリガー条項を発動する代わりに補助金を支給することでガソリン代の上昇分を補填していたのですが、先の衆議院選挙で国民民主党がトリガー条項の解除を公約に掲げたことを受けて、政府が取りまとめた来年度の税制改正大綱に「いわゆるガソリンの暫定税率は、これを廃止する」という文言が明記されました。
一度掴んだ税金は離さない! というお役所論理は、もういいでしょう 12月20日に与党(自民党と公明党)が取りまとめた「令和7年度税制改正大綱」の「令和7年度税制改正大綱の基本的な考え」の3ページ目に「[…]
ただ、これで1Lあたり25.1円ガソリン代が下がると喜ぶのは早計で、いつから・いくら下がるかの議論はまったくなされないまま国会は終幕。1月24日に召集されることが決まっている2025年の通常国会での予算案審議でどんな議論が行われるかに注目が集まっています。
それよりも問題は、政府が支給してきた補助金が昨年12月19日以降に1Lあたり5円、さらに1月16日以降はもう5円縮小されるので、当面のガソリン代は値下げどころか値上がりする一方になりそうです。
まさしく、このガソリン税の取り扱いを見ていると、現在の政治が国民ではなく省庁の利益のために行われていることを実感させられます。
国民の利益の実現が省益を上回る、そんな政治を国民は待ち望んでいます!
アクアライン値上げ
昨年12月3日に開催された第4回東京湾アクアライン交通円滑化対策検討会で、今年の4月から新たなETC時間帯別料金を実施する案が示されました。
これにより、土日祝日は上り線(川崎方向)の13時~19時は現在の1200円を1600円に、逆に19時~20時は800円、20時~4時までは400円に引き下がられ、新たに交通量が非常に増えている下り線(木更津方面)の5時~7時を1000円に引き上げ、0時~4時を400円に引き下がるとしています(バイクの料金は記載した料金の80%)。
アクアラインに関しては、休日の渋滞が慢性化しているのはご存じの通りで、交通分散の施策も必要だと思いますが、根本的な解決には至らないのは明白。
千葉県が国に求めている「アクアラインの3車線化とトンネルの追加」の実現こそが、有効な解決策だと思うのですが、特段、この要望に関する動きが見られないのが現状。
それよりも、今回、また一歩進んだ高速道路の時間帯別料金が実現することで、アクアライン以外にもその方法が適用されることが心配でなりません。
二輪車定率割引はどうなる?
土日祝日に適用される「二輪車定率割引」ですが、2024年は必要とされる走行距離がそれまでの100㎞から80㎞に短縮されました。2025年は、さらに進んで必要走行距離のさらなる短縮、もしくは撤廃が望まれますが、いまのところ表立った動きは出ていないようです。
3月までには、NEXCO各社から昨年のツーリング割引(ツーリングプランも)の実施内容を取りまとめたレポートが出てきて、それをベースに実施要綱も決定されると思います。
現状動きがないとはいえ、現在の公明党の代表は前回100㎞から80㎞に距離を短縮した際に国交大臣を務めていた斉藤てつおさん。公明党オートバイ議員懇話会の顧問も務めているだけに、さらなる前進に向けて頑張っていただきたいところです。
とまあ、思いつくままに2025年のバイク界に起こること、起こりそうなことを書いてみましたが、いかがだったでしょうか。
いずれにしても、例年通り、というか例年以上に、関係各位にはさまざまな明るい話題でバイクライフを盛り上げていってもらいたいと思います。2025年もよろしくお願い申し上げます。
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