
「国内二輪市場は減速している」——。新車販売台数が全盛期の11%まで落ち込んだ数字を見れば、それは事実かもしれません。しかし、現在のバイクシーンはかつてないほどの活況に沸いています。1350億円規模に成長したギア市場、JTBも注目するモトツーリズムの台頭……。バイクが「所有する目的」から「楽しむ手段」へと進化した今、販売台数という物差しでは測れない、真の二輪市場の姿を解き明かします。
●文:Nom(埜邑博道)
「バイク業界は減速傾向」まだそんなこと言ってるの?
いつからか、国内二輪市場の概況を説明する際に枕詞に使われるのが「減速している」です。
たしかに、1982年の販売台数327万台に比べると、直近の2025年は40万台弱。全盛期のわずか11%になっているのですから、誰が見ても国内の新車販売台数はシュリンクし続けています。こと新車販売台数に限って言えば。
先日、日本自動車工業会(自工会)が発表した「2025年度二輪市場動向調査」においても、販売台数はコロナ禍の2021年・2022年度に微増したのち、再び減少傾向にあるとして、新車販売の減少傾向には歯止めがかかっておらず、それゆえ国内の二輪市場は減速しているという印象を与える記述となっていました。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
たしかに、新車販売台数は2021年・2022年を除けば右肩下がりです。その点については数字が示しているので、反論の余地はありません。
ただ、1980年代当時の販売台数のほとんどは原付一種で、現在は軽二輪、自動二輪が着実に伸長しています。つまり、通勤・通学の足だったバイクが、今は欧米と同様に趣味商品へと移行したのです。同時に、購買層もこどもから大人へと変化してきました(ライダーの高齢化はちょっと心配ですが……)。
また、二輪市場、二輪のマーケットの状況というのは新車の販売台数のみではなく、中古車の販売、さらには、ライディングギアやウエア、各種サービスのトータルの売り上げで判断すべきことだと考えます。そういう観点から考えると、需要構造自体が大きく変化し、いまの時代を迎えているのだと言えます。
2026年3月に開催された大阪、東京、名古屋モーターサイクルショーの入場者数も前年からしっかり伸び、活況を呈していました。
その観点、状況から考えてみると、いま本当に二輪マーケットは年々シュリンクしていて、ダウントレンドにあるのでしょうか。
1982年の327万台をピークに、右肩下がりの新車販売台数(2021年に対前年で増加しているが、これはコロナバブルで一過性のものだった)。ただ、327万台のうち278万台は原付一種で、軽二輪、小型二輪は右肩下がりの中でも堅調な数字を保っている。
今年も前年を上回る来場者を記録した東京モーターサイクルショー。展示内容も、バイクライフを意識したものに変わってきていた。
ライディングギアへの関心がとても薄かった時代
たしかに、1980年代の二輪マーケットの売上の大半は車両の販売台数だったと思います。1980年代前半からこの業界に関わっている筆者も、そのころの大きな関心事は新車が売れているか否かだったように記憶しています。
なにより、ライディングウエアもギアも、自分も含め多くのライダーにとってはさほど大きな関心事ではなかったように思います。エアバッグ付きのウエアはもとより、各部にプロテクターを備えたライディングウエアなどほとんどありませんでしたし、防水透湿の快適なレインウエアなども一般的ではありませんでした。専用ウエアがないので、汎用ウエア、とくにアウトドアウエアを流用するライダーが多数いたと記憶しています。
「冗談でしょ」とお思いになるかもしれませんが、現在のように防寒性能に優れたウエアがなかった当時、防風効果をアップするためにウエアの下に「新聞紙を巻く」なんていうことが、雑誌の防寒特集記事に大真面目に書いてありました(というか、書いていました)。
そんな時代でしたから、ライダーもウエアやギアには関心がないのに加え、そこまで投資もしていませんでした。投資するのは車両がほとんど、ある意味、ほとんどのライダーは(もちろん、例外もあるでしょうが)バイク自体にのみお金を使っていたのです。
1980年代から1990年代はレプリカの全盛時代でしたから、毎年、性能をアップした新型が登場していました。そういうレプリカに乗っていたライダーは、新型が登場すれば躊躇なく買い替えていたのですから、おのずと新車販売台数も一定数をキープできていました。
しかし、そんなフェイズが変わったのは1980年代の終わり、レプリカブームが陰りを見せると同時に、カワサキ・ゼファーが台頭してきた頃だと思います。
バイクの価値基準が性能一辺倒だったレプリカ時代に対し、剥き出しのボディに空冷エンジンを搭載したゼファーは性能第一主義に対するアンチテーゼでした。このゼファーの登場によって高性能を楽しむのではなく、バイクそのものを楽しむ風潮が生まれました。「バイクライフ」という今では当たり前の概念の萌芽と言ってもいいかもしれません。
しかし、1996年にライダーの悲願だった免許制度の改正で大型免許が教習所で取得できるようになったことで、今度は排気量の大きさや最高出力の高さという価値観が台頭しました。いわゆる「最速マシン」時代の到来です。
250、400のレーサーレプリカに乗っていたライダーたちは、先を争うように大型免許を取得し、こぞってそんな最速マシンに乗り始めました。
当時、BiG MACHINE(内外出版社刊・現在休刊中)の編集長だった筆者も、それまで多くのライダーにとって高根の花だったリッターバイクを中心にした誌面作りに励んでいました。ただ、100万円を超すリッターバイクですから、250、400のレプリカバイクのように新型が出るたびに乗り換えるのは難しく、手に入れた大事なバイクを乗り続け、ライダーはそのバイクでバイクライフを楽しむようになっていきました。
そのひとつの現れが、ライテク講座人気の高まりでした。
大きく重いビッグバイクを乗りこなすことが大きな目的になり、同時に安全なライディングをするための装備にも関心が集まり始めました。
ゼファーの登場で萌芽したバイクライフという考え方が、徐々に徐々に多くのライダーに共有されるようになっていったのです。
1989年に登場したカワサキ・ゼファーは、カウルなしのボディに53馬力という控えめな最高出力の空冷エンジンと、最高出力59馬力の水冷エンジンを採用した400ccレプリカマシンへのアンチテーゼだった。
バイクは所有する「目的」ではなく楽しむための「手段」へと変貌した
そして、2003年、筆者は培倶人(現BikeJIN・実業之日本社刊)の編集長を務めることになりました。
自分の中でも、新車が売れることがバイク業界を盛り上げることだと思っていましたが、培倶人は新車の紹介もなく、試乗インプレッションも掲載しない本でした。そして、メイン企画は「ツーリング」でした。
それまで、BiG MACHINEというゴリゴリの新車雑誌を作っていただけに、新車がほとんど載っていない培倶人には正直なかなか馴染めませんでした。しかし、読者から「こんな本が欲しかった」、「新車の情報はとくにいらない」という声が届き始め、ライダーはバイクライフを楽しむための情報を欲していることに気づかされました。
そこで筆者は、培倶人のキャッチフレーズを「バイクライフ応援マガジン」として、バイクライフをより充実するものにする情報満載の本を目指しました。
「新車情報」から「バイクライフ」へと主眼を切り替えたことで、いろいろなもの・ことが見えてきました。
そうそう買い替えることができない高額なバイクの情報よりも、いま乗っているバイクでバイクライフを満喫するための情報、それはライディングギアだったり、ツーリングの目的地だったり、バイクを楽しんでいる人の紹介だったりと、どんなバイクに乗っているライダーでも楽しめ、ためになる情報が求められていたのです。
そう、バイクはそれまでの「目的」(手に入れて所有することで満足を得る)から楽しむための「手段」へと立ち位置が変化していたのです。
ライダー憧れのバイクの代表格で、所有することが大きな目標だったドゥカティでさえ、人それぞれの楽しみのための「手段」になっているとディーラーの方に聞いたときはとても驚くとともに、時代は変わったんだと痛感したものです。
新車の販売台数は相変わらず右肩下がりではあるものの、高速道路のパーキングはたくさんのバイクで賑わい、地方の道の駅もさまざまなバイクで集まったライダーで賑わっていますし、ライディングギアもどんどんアップデートされ、安全性や快適性も飛躍的に向上。バイクはなかなか買い替えられないけど、ギアなら可能なのでおのずと興味・関心も高まります。
一説によると、ライディングギアやカスタムパーツの市場規模は1350億円と言います。いまや、地方ならトップクラスの企業の売り上げをバイク関連産業が誇るまでになったのです。
大きく重いビッグマシンを手に入れたライダーたちは、速くではなく上手に乗ることを意識してライテクに強い関心を抱いた。
現在の高速道路のパーキングや、地方の道の駅の駐車場はどこもバイクでいっぱい。持っているだけではなく、稼働率も高いのが現在の特徴だ。
大手旅行会社もモトツーリズモの力に着目
先日、現在のバイク界に向けられている目の象徴的な出来事がありました。インバウンド(それも、先進国の富裕層)を主要ターゲットに日本各地を旅する「モトツーリズム」を提供するMOTO TOURS JAPANと旅行最大手のJTBが訪日インバウンド市場のさらなる拡大および発展に寄与することを目的とした基本合意を締結したのです。
落ち目で、経済効果も見込めないと思われがちな業界が、一躍、大手旅行会社に頼られる存在となっていることが証明されたと言っていいでしょう。
ですから、もう二輪業界は下落傾向が止まらず、少子高齢化も相まってシュリンクしていくだけだと下を向くのは止めましょう。
販売台数の数字だけ見れば、愁いを抱かざるを得ない状況かもしれませんが、そこは車両メーカーの方々になんとか解決していただくとして、我々ライダーはかつてないほどの充実したバイクライフ環境と業界各社が提供するホスピタリティを満喫しながらバイクを思う存分楽しもうではありませんか。
保有台数1000万台以上、そこにみなぎる購買力、行動力こそが現在の二輪市場をけん引していくに違いありません。
2026年3月、旅行大手JTBとMOTO TOURS JAPANが訪日市場拡大に向け基本合意を締結した。大手旅行代理店もバイクの持つソフトパワーに注目しているのだ。(写真左はMOTO TOURS JAPAN 取締役 松崎 城さん、右はJTB訪日インバウンド共創部長 寺本 巧さん)
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