
販売店によっては一夜にして30円もの値上げを敢行したところもあり、令和のオイルショックではとの声もあがり始めている。そんなことにならないように各方面が奮闘中だが、街のガソリンスタンドでは販売店も客も困惑するばかりだ。
●文:Nom(埜邑博道)
不当な税金の上乗せが廃止されたと思ったら……
バイク/クルマユーザーの悲願だった暫定税率(25.1円の税金上乗せ)が昨年末に廃止され、155円/L程度で推移していたガソリン代ですが、2月末にアメリカとイスラエルが最大のテロリスト支援国家と断定するイランに対し大規模な軍事行動を起こし、最高指導者のハメネイ師を暗殺。現体制の転覆を画策しましたが、イランも徹底抗戦を公言。反撃のために、無人機でのイスラエルや中東の周辺国への攻撃に加え、石油輸送の要衝であるホルムズ海峡を事実上、封鎖。
ヤングマシン編集部のある台東区ではレギュラー208円のガソリンスタンドも。 ※3/17現在
これにより、日本でもガソリン価格が上昇中で、石油情報センターによるとENEOSやイデミツ、コスモ石油といった大手石油元売り各社は11日に卸売価格を揃って26円/L値上げし、12日からガソリンスタンドでのガソリン価格が180円/Lを超える価格になるなど急騰しています。
この事態に対応して、政府は国内の石油備蓄のうち民間備蓄を15日分、国家備蓄を30日分の計45日分を16日に放出開始することを決めて供給量をアップさせるとともに、レギュラーガソリン価格が170円/Lを超えないように調整するために暫定税率が廃止される前に行っていた石油元売り会社へのガソリン補助金を復活させる方針です。
具体的には、19日の石油元売り会社の出荷分から補助金を適用して、燃料補助向けの基金の残高2800億円を充てる方針とのこと。また、ホルムズ海峡の封鎖による影響が長引いた場合は、今年度の予備費を充てる考えも示しています。
今回の急騰は、ホルムズ海峡の封鎖によって世界の原油価格の指標となる原油先物WTI価格がアメリカとイスラエルのイランへの攻撃前は60ドル台(1バレル、以下同)で推移していたのに対し、3月以降は一時100ドルを超す水準まで上昇。現在は100ドル前後で推移している状況です。
ただ、日本が輸入する原油の約9割が中東地域から運ばれていますが、中東でタンカーに積み込んで日本に到着するまで約3週間かかるといいます。ということは、現在、日本に運ばれている原油はいまから3週間前に買い付けられたものですから、その時の販売価格は65ドル前後。つまり、まだイランへの攻撃以前の価格のはずなのに、石油元売り各社は11日の段階で卸価格を値上げしたということ。つまり、値上げされる前に安く仕入れた原油を現在の原油価格をベースにして高値で販売していることになります。
イランへの爆撃前の27日は1バレル60ドル強だった原油価格は、その後じりじりと値上げを続けて3月8日に100ドルを突破し、9日には120ドルまで急騰。トランプ大統領の発言で上がったり下がったりを繰り返しながら、17日現在は96.28ドルと再び上昇気流にある。
SNSなどでは、今回の石油元売り各社の値上げは原油先物WTI価格の急騰を利用した「便乗値上げ」ではないかという声が多数上がっていて、これに対して赤沢経済産業大臣が3月13日に国会で石油元売り会社が卸価格を決めるプロセスと、今回の値上げの根拠を説明。また、この値上げに対応して政府が激変緩和措置を実施することにして、3月19日からガソリンの平均小売価格を170円/L程度にすると述べています。
では実際に、補助金が支給されてガソリン価格が下がっていくのはいつからなのか。石油元売り会社のひとつであるENEOS広報部に聞いてみました。
まず、現在、日本で販売されている石油は、中東での戦闘の影響で原油価格が急上昇する前に仕入れたものなのに、なぜいまガソリン価格が上昇するのかといった疑問に対しては「卸価格は現時点の原油価格の変動幅と市場・供給維持コスト等を総合勘案して設定しています」という回答。つまり、原油を買い付けたときの価格がそのまま現在の卸価格に反映されるわけではなく、市場に卸し売りをする際の原油価格(つまり、今回の場合は急騰後の価格)なども反映したものになるのだそうです。
仕入れ値が60ドル前後だったとしても、現在の100ドル前後という価格も加味されているのだと言います。
また、卸価格の値上がりが26円だったのに、ガソリンスタンドによって市販価格はまちまち。これは「市販価格は、それぞれのサービスステーションが独自に設定しているもの」だからとのことでした。
気になる補助金がらみの質問に関しては、以下の回答でした。
「補助金は19日の出荷分から反映され、今般のイラン情勢を受けて原油価格が高騰する中、石油製品価格の高騰を抑制し国民生活と経済活動を守るための緊急的な措置と認識している。当社はこの趣旨を踏まえ、補助金相当を全額卸売価格に還元させる。また、今回の激変緩和措置は価格を下げるスキームではなく、急激な値上がりを抑えるスキームであると認識している。なお、サービスステーション店頭のガソリン価格について当社は言及する立場にはないが、当社は補助金相当を全額卸売価格に還元させていく」
補助金が実施された後の卸売価格がいくらになるかは、「卸売価格は公表していない」とのことなので実際にいくら下がるのかは不透明ですが、現状より幾分でも下がることは確実です。
また、市販価格の決定は各サービスステーションの裁量に任せているとのことで、値下げ時期に関しての明言はなく、報道などでも1~2週間以内と幅のあるものになっています。
いずれにしても、19日から補助金支給が開始されますから、その情勢を見つつ不要不急の給油は避けるのが得策のようです。
イデミツは182円でした。一夜にして30円上がったところもあるとか。
ガソリンだけじゃなく生活全般への影響が必至! 中東開催のF1、MotoGPも中止や延期に
政府による補助金で、もしガソリン価格が160円/L程度に落ち着いたとしてもアメリカ・イスラエルとイランの戦争状態が長期的に続けば原油価格の安定ははなはだ不透明で、まったく予断を許さない状況であることは明らかです。
それに加えて、樹脂製品の原料であり、原油から精製されるナフサ価格の上昇も我々の生活に大きな影響を及ぼしそうです。
ナフサからは、ラップやビニール袋、プラスチック製の容器や家電製品、さらにタイヤも製造されるためその影響は多岐にわたります。製品価格に現在のナフサ高が転嫁されるのは4月~6月以降と言われていますが、ホルムズ海峡の安全な通過が実現しないことには見通しが立たないでしょう。
また、先日開幕したF1も中東情勢の混乱により4月に予定されていたバーレーンGPとサウジアラビアGPの中止が決定され、同じく4月に予定されていたMotoGPのカタールGPも11月に延期されることが決まっています。
世界中を混乱に陥れている中東情勢ですが、現状では戦闘終結の出口が見えていないことが最大の不安要因です。
結託してイラン攻撃を始めたアメリカとイスラエルですが、徹底的にイランを叩き潰して政権転覆まで狙っているイスラエルに対し、トランプ大統領率いるアメリカの態度は二転三転。ガソリン価格の高騰が起こると「戦争はまもなく終了する」などと甘い見通しを語ってマーケットに安心材料を提供したと思ったら、「始めた仕事はやり遂げなければいけない」と徹底抗戦の姿勢を見せたりと、まさに朝令暮改、行き当たりばったりの言動を繰り返しています。
現在の混乱の元凶はトランプ大統領であることは誰の目にも明らかで、ここ数日はホルムズ海峡の通行を再開するために中国やフランス、韓国、イギリス、そして日本にも原油タンカーなどを保護するための艦船の派遣を求め始めました。
日本の艦船を中東に派遣するというと、1990年代の湾岸戦争後に機雷除去のために自衛隊が掃海艇を派遣したことを思い出しますが、あのときは交戦状態が終了したあとのことで、今回のように交戦状態が継続している状況で自衛隊を派遣することなど普通に考えて不可能でしょう。
高市総理は「何ができるか検討中」、小泉防衛大臣は「現時点で派遣は考えていない」と国会で述べています。19日に高市総理とトランプ大統領による日米首脳会談がワシントンで行われますが、その席上、トランプ大統領が高市総理に何を求めてくるかに注目が集まっています。
日本側の回答次第によっては、日本も意にそぐわない戦争に巻き込まれる事態にもなりかねず、そんなことになったらガソリン代の高騰などというレベルの話ではなくなってしまいます。
我々の生活を直撃する原油価格の高騰がいつ収まるのか、ホルムズ海峡の安全な航行がいつ再開するのか、イラン及び中東諸国で行われている戦闘がいつ終焉するのか、日本から遠く離れた中東地域ですが、その状況から目が離せない日がしばらく続きそうです。
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