バリエーション豊かなクルーザー・モデルを展開するインディアンモーターサイクル(以下、インディアン)の新型車「スポーツチーフ」は、空冷OHVツインエンジン/サンダーストローク116を搭載したパフォーマンス・クルーザーだ。クルーザーにパフォーマンスを与え、スポーツすることが人気のアメリカ。その最新のアメリカン・スポーツを体感する。
●文:河野正士 ●写真:Garth Milan ●外部リンク:インディアン・モーターサイクル
アメリカン・スポーツを理解する
インディアンの新型車「スポーツチーフ」の何がスポーツであるかを理解するには、アメリカという国のモータリゼーションを理解しなければならない。
わかりやすい例をあげるなら、“On Ramp/オン・ランプ”でのパフォーマンスだ。オン・ランプとは、高速道路への合流のこと。一見、大きな意味を持っていないように見える高速道路への合流のための加速。
しかしそこでのパフォーマンスは、アメリカではとても重要視されている。アメリカの高速道路は合流時の助走区間が短く、ときには合流手前に一時停止のサインもある。その短い助走で、高速で走る他車の前に合流するためには、強力なトルクで、一気に車体を加速させなければならない。そのパフォーマンスは「On Ramp Acceleration/オン・ランプ・アクセレーション」と呼ばれている。かつて米国サイクルワールド誌の技術系の編集者であるKevin Cameron/ケビン・キャメロンが “On Ramp”でのパフォーマンスについて特集記事を書くほど、それはアメリカのライダーやドライバーに重視されている。
またアメリカのクルーザーのオーナーたちは、非常に長い距離を走る。スタージスやラコニア、そしてデイトナで開催されるバイクウィークに、全米からバイクでやって来る。大陸を横断したり縦断したりする長距離ライディングには、力強いトルクがライダーの負担を軽くすることも彼らはよく理解しているのだ。
バガーと呼ばれるクルーザーの新しいトレンドは、クルーザーにさらなるパフォーマンスを与え、高速道路の巡航速度を高め、バイカーたちにワインディングを走る楽しさを気づかせた。そして300kgをゆうに超える車重と長いホイールベースを持つクルーザーの車体を意のままに操るには、エンジンの強力なトルクが必要なのだ。
アメリカで人気のバーガーによるレース/King of the Baggersは、そんなスポーツするクルーザーの人気がユーザーの中で高まったことから、その新しいカテゴリーでの優位性やアフターパーツのセール拡大を狙ったハーレーダビッドソンとインディアン、そして巨大なアフターパーツメーカーが仕掛けたレースなのである
スポーツチーフも、そのアメリカン・フィーリング/アメリカ的価値観の中から生まれたプロダクトだ。ベースとなるのは、2021年にインディアンのブランド誕生100周年を記念してフルモデルチェンジを受けた新生チーフシリーズがベース。エンジンやフレームは、そのシリーズと共有しながら、前後サスペンションやディメンション、ブレーキまわりを強化し、走りのパフォーマンス向上が図られている。その効果はてきめんで、それこそがスポーツチーフのパーソナリティの中核だ。
300kg超えの車体でスポーツする。それを実現した新しいサスペンション
300kgを超える車重をヒラヒラと切り返しながらワインディングを走るのは、なかなかに痛快だ。1626mmというロングホイールべースながら、コーナーのアプローチでリヤタイヤの傾きに対して、フロントタイヤが遅れて反応することはない。専用設計されたガンファイターシートに体重を預けながら左右に体重移動を行えば、フロントタイヤの蛇角の付き方も自然で、狙った走行ラインをしっかりとトレースすることができた。
このハンドリングは、前後サスペンションの変更にともなう車体姿勢の変更と、それに合わせたフロント周りのディメンションの変更、そしてサスペンションセッティングによって造り上げられている。
リザーバータンク付きのFOX製リアサスペンションは、減衰力を高めるとともにストローク量を約25mm伸ばし、それによって他のチーフシリーズに比べリヤの車高も高くなっている。たった25mmだがその影響は大きく、突き上げ感は大幅に減り、加速時のリヤタイヤへの荷重の掛かり具合も分かりやすい。チーフシリーズが採用する排気量1890cc空冷OHV挟角49度V型2気筒エンジン/サンダーストローク116エンジンの強力なトルクを活かして加速しているときの安定感と安心感は抜群だ。
またリヤの車高が高くなったことにあわせて、フロントフォークのオフセット量を減らし、それにともなってトレール量も変化。このフロントまわりのディメンション変更が、軽快なハンドリングをつくり上げているのだ。合わせてインディアンのスポーツバガーモデル「チャレンジャー」に搭載されているKYB製倒立フォークは、スポーツチーフの車格やキャラクターに合わせて長さや減衰力特性を変更。
ロードモデルほどないものの、加減速時のピッチングによる前後重心移動が分かりやすく、アクセルやブレーキ操作でコントロールしやすいことも軽快なハンドリングを生み出す理由となっている。スポーツチーフのスタイリング的特徴でもある6インチライザーも、想像していたよりもダイレクトな操作感を得られたのは意外だった。
パワフルなエンジンがアメリカン・スポーツの醍醐味
試乗会が行われた米国テキサス州オースティン郊外は、テキサス・ヒル・カントリーと呼ばれる丘陵地帯。道幅が広く、曲率の緩やかなアメリカ的な高速コーナーが続く道や、日本的なタイトなワインディングが、丘陵地帯特有の激しい高低差のなかに混在する試乗コースが設定されていた。
そこでは、サンダーストローク116エンジンにプログラムされている3つのライディングモードのなかの、出力特性が穏やかなスタンダード・モードやツーリング・モードでは物足りなくなってしまった。それよりも、わずかなアクセル開度でもズバッと加速するスポーツ・モードが楽しい。
縦ブラインドのコーナーへの進入では、さすがにしっかり減速せざるを得ないが、それをクリアすれば強烈に加速するスポーツ・モードの出力特性を活かして前車に追い着く。そして、その先の下りで車体を切り返して、また車体を寝かしたまま登りのコーナーに入っていく。もちろんすぐにステップが路面にヒットしてしまうが、それでも300kg超えの巨体をこんな風に走らせられるのは、強化したサスペンションとブレーキがあってこそだ。なにより2000cc近い排気量の空冷Vツインのワープするような、その胸の空くような加速感は、洗練された4気筒や2気筒エンジンを抱くスポーツモデルのそれとはまったく違う。
暴力的とも言えるそのエンジンのパワーこそがアメリカ的スポーツであり、そのパワーを味わい尽くすために足まわりを強化したのが「スポーツチーフ」というわけだ。その走りは痛快で明快。あらゆるキャリアや嗜好のライダーに驚きを与える。「スポーツチーフ」のその単純明快さも、アメリカン・スポーツの真髄といえるだろう。
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