
勝ちたくて、勝ちたくて仕方ないとなると、凄まじいまでの底力を発揮するのがルノーの伝統かと。70年代のル・マンとF1の双方でターボ車として初優勝をかっさらったとか、FFコンパクトカーでポルシェ911に冷や汗をかかせたとか、ほかのメーカーでは感じられない「気概」に満ちているのがルノーという会社でしょう。そんな彼らが放った驚きのアイデアが、FF車の駆動系を使ってミッドシップに仕立て直したラリーカー、5ターボにほかなりません。勝ちたい欲求そのものがカタチになったようなクルマながら、そのスタイルは今でも語り継がれるカッコよさなのです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
FFの限界点をミッドシップマシンで超越
ベース車両のルノー5はご存じの通り、FF2ボックスの庶民的なコンパクトカー。1972年のデビューで、先代モデルとなる4に比べて先進的なスタイルや優れた実用性から1985年に生産が終了するまで売れに売れまくったヒット作でした。
もちろん、レース好きメーカーのルノーですから、5ターボ以前にもアルピーヌによるチューニングモデルでラリーに出場、ポルシェ911に肉薄する成績も残したりしています。
もっとも、当時のラリーは初めてのミッドシップマシンとして席巻したランチア・ストラトスや、さらに上を行く運動性能を掲げたアウディの4WDがデビューするなど戦国時代さながらの様配。いかに、ファクトリードライバーの名手ジャン・ラニョッティといえども「FFコンパクトってだけじゃ辛い」と弱音を吐いたといいます。
そこで、ルノー・スポールはグループ4のホモロゲーションマシンとすべく、5のミッドシップ化を企てたのでした。
1980年に登場した5ターボはグループ4のホモロゲーションモデルながら、400台の予定をはるかに超えた1820台が販売されました。
FF2ボックスの駆動系をミッドシップに換え、足まわりを刷新。1.4リッターのOHVエンジンはF1ゆずりのターボ装備で、160psをたたき出しています。
F1チームが手助けしていたミッドシップ開発
とはいえ、これはまったくのゼロから生まれたアイデアではありませんでした。もともと、5は直4エンジンを縦置きするという珍しいパッケージでしたが、エンジン前部にデフ、その先にミッションを配置して、いわばフロントミッドシップを構成していました。
これは先々代にあたる2CVのRRコンポーネントをフロントに置き換えたもので、「ならばエンジンコンポーネントをミッドに移動させるのも難しくはあるまい」と発展したとされています。
実際、排熱・冷却問題こそシビアだったようですが、リヤの居住スペースをなくした余裕によってトレーリングアームだったリヤサスがフロントと同じくダブルウィッシュボーンに変更できたり、フロントにガソリンタンクを配置したことで前後重量バランスが最適化されたり、開発はかなりスムーズだった模様。
ただし、当時のルノー・スポールはほとんどのリソースをF1に充てていたため、ラリー向け車両は専属スタッフが極めて少人数だったことも伝えられています。実際のところ、ギャレット製タービン(T3)のチョイスや、インジェクションにKジェトロを装備したあたりはF1チームの助言も大きかったのではないでしょうか。
リヤのスペースをフルに使って、縦置きミッドシップを構成。増えたスペースはリヤサスのグレードアップにも役立っています。
エンジンが独り占めしているわけではなく、わずかながらもカーゴスペースを残しているところが合理主義のフランスらしいポイント。
400台の予定がバカ売れで1820台を生産
ミッドシップされた1.4リッターの直4ターボは、OHVながら160psを絞り出し、5アルピーヌの93psからは倍増といえるパワーアップを実現しています。また、ルーフ、ドア、リヤハッチを鋼板からアルミ素材に変更することで、乾燥重量は970kgを達成。ターボが炸裂した際の瞬発力はそれこそ目が覚めるほどのパンチだったようです。
無論、これは市販モデルの数値で、ラリーマシンは当初180psほどだったものが、すぐさま210~285psまでチューンされ、最終モデルとなったマキシターボは1527ccまで拡大されて360psに達したとのこと。まさに、旧弊なOHVエンジンだと見くびってかかるとじつに危険なマシンだったのです。
そして、5ターボの市販モデルにおけるもうひとつのトピックはベルトーネがデザインしたスペシャルなインテリア。ビビッドな色使いや、ベースとはまったく異なる意匠、そしてレザーや上質なモケットをふんだんに使った室内はまさにゴージャスで個性的。
イタリアやドイツのホモロゲーションモデルも質感こそ低くはないものの、ここまでベースモデルと差をつけたものは滅多に見られません。このインテリアの出来栄えも手伝って、400台の規定台数はいともたやすくクリアしたばかりか、最終的には1820台を売り上げています。
ご紹介している5ターボのフランスにおける新車価格は約11万5000フラン(当時レートで約660万円)だったのに対し、1983年に発売された5ターボ2は9万2000フラン(同じく340万円)とかなり値下がりしています。
これは、ベルトーネの内装を省き、アルミだったドアなどをスチールに戻すなどかなりのコストダウンをした結果。そのおかげか、5ターボ2は約3200台が販売されるというホモロゲーションモデル系統としては望外のヒットとなったのでした。
上から見ると前後ともフェンダーが拡幅されているのがわかります。ボンネット上のインテークはオイル用ともブレーキ用ともいわれています。
ラリー仕様車がGottiやクロモドラのホイールを採用しているため、純正もGotti製と勘違いされることが多いのですが、このホイールはルノー内製品。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
始まりは車検の不合格 ごめんなさい。25万キロもの間、放置してしまい申し訳ありませんでした・・・! でもね。車ってエンジンが丈夫すぎるから、知らず知らずのうちに「放置」しちゃったりしていませんか? 我[…]
開店休業状態のランボとBMWがタッグを組むのだが… M1をざっくり説明すると、1976年にBMWがグループ4/5に参戦可能なマシンの開発に乗り出し、当時の趨勢(すうせい)だったミッドシップを画策。とは[…]
プライベーターに近いチームが、コルベットとともに次々と実績を積み上げた RED=レース・エンジニアリング&デベロップメントというと本格的なファクトリーを想像しがち。ですが、当初ダナ・イングリッ[…]
始まりはアイドリング不調 今、これ見てる人で、ハイエース100系に乗っていて「最近アイドリングが低いな」って思ってる人いませんか。はい、私です。ついでに「排気ガス検査に引っかかって車検に落ちた!」人は[…]
混迷するカウンタック界隈に登場した短命モデル 大多数のクルマ好きがスーパーカーの原点としているランボルギーニ・カウンタック。中にはフェラーリ512BBやミウラの名を上げる方もいることでしょうが、やはり[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
“過剰性能”というコンセプト 第18回モンキーミーティングの会場を沸かせたリトルカブベースのカスタムマシンがある。その核となるのは「過剰性能」という明確なコンセプトだ。通常の車両開発では、性能は用途に[…]
様々な可能性が試された個性の時代 現代から過去を振り返って見ると、今に連なるメインストリームのマシン達が当然のように歴史を作ってきたように錯覚してしまう。しかし時代の王道を行くマシンの影には、無数の異[…]
浪漫の塊だったレプリカ 年末、あるいは正月にフランスのパリをスタートし、アフリカ大陸を走破してセネガルのダカールを目指す「パリ・ダカールラリー」(2009年からはコースを南米に移して開催)。1978年[…]
再現という行為の本質 第18回モンキーミーティングの会場には数多のモンキー系カスタムが集まり、綺羅星のごとく会場を埋め尽くしたカスタムモンキーの中に一際目を惹く1台があった。 それは伝説的名車であるホ[…]
特殊シリコーン被膜で穴を埋めてサビを防ぐメッキングの可能性を追求 平滑で均一に見えるクロームメッキ被膜には無数の穴があり、そこから浸入した水分によりサビが生じるメカニズムに注目し、特殊シリコーン被膜で[…]
人気記事ランキング(全体)
スロットル操作でシフトダウン!? 電子制御CVT「YECVT」の衝撃 「スクーターはアクセルをひねるだけで楽だが、スポーツ走行ではどうしても物足りない」。そんなライダーの不満を過去のものにするのが、ア[…]
ワークマンプラス上板橋店で実地調査! これからの「猛暑」あるいはそれを飛び越えた「酷暑」と呼ばれる夏の時期、上着なしの薄着でいたくなるのも確か。しかしバイクに乗る以上、「転倒」というリスクには常に備え[…]
走行風を最大の冷却力に変える、新発想の次世代アンダーウエア 真夏のバイク走行において、メッシュジャケットを着ていても「涼しさを感じない」という経験を持つライダーは多い。それは汗が乾ききってしまい、気化[…]
気温45℃再現ブースで驚異の-30℃冷却能力を体感してみた ウインドコア ICE&HEATERペルチェベスト こちらはICE&HEATERペルチェベスト。身体を直接冷やす、-30℃の冷[…]
「リアル峰不二子」が魅せる、相棒との優雅な休日 トライアンフのブランドアンバサダーを務めるダレノガレ明美さん。2026年1月の就任以来、彼女のバイク愛は深まるばかりだ。今回、InstagramとXに投[…]
最新の投稿記事(全体)
ティラノサウルスの凶暴さをシャープに表現 TX-ストラーダに新登場するグラフィックモデルの名称は、もっとも有名な恐竜ティラノサウルスに由来する。ティラノとはギリシャ語で「暴君」や「凶暴」を意味する言葉[…]
WSSPで活躍する岡本祐生選手のレプリカ発売! RX-7Xにこのたび追加されるレプリカモデルは、WSSP(スーパースポーツ世界選手権)で活躍中の岡本祐生選手が愛用しているグラフィックだ。全日本ロードレ[…]
安宿での睡眠不足はツーリングの大敵。音の悩みを和らげる専用設計 宿泊費を極力抑え、その分をガソリン代や現地の美味しい食事に回したい。そう考えるライダーにとって、カプセルホテルやネットカフェは非常にあり[…]
58馬力の直4エンジンが放つ、突き抜けるような高揚感 「ヨンヒャクでも胸のすくような直列4気筒エンジンの吹け上がりを、フルカウルモデルでとことん味わい尽くしたい」。そんなスポーツ志向のライダーの渇望を[…]
歴代モデルが浜松に集結する「KATANAミーティング」の魅力 「KATANAミーティング」の最大の魅力は、新旧様々な排気量のKATANAが一堂に会する圧倒的な光景にある。昨年開催された「KATANA […]
- 1
- 2















































