
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第162回は、チェコGPでポールポジションを獲得した小椋藍について、「もう1歩」進むために必要なことをいいたいと思います。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
小椋藍、チェコGPで日本人6年ぶりのPPを獲得。フィニッシュでも2位! 見えてきた「夢の頂点」への課題
小椋藍選手(SuperFile Trackhouse MotoGP Team)が大活躍したMotoGP第9戦チェコGP。まずは予選で素晴らしい走りを見せ、ポールポジションを獲得しましたね! MotoGPで日本人ライダーがポールポジションにつくのは、’20年の中上貴晶選手以来6年ぶり。まさに快挙となりました。
小椋選手にとって予選は大きな課題でしたが、見事にこれをクリアしました。今のMotoGPはどんどん差がなくなっている中、2番手ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)に対して0.2秒という大きな差を付けてのポールポジション。具体的なところは分かりませんが、マシンセッティングとライディングの両方で進化があったことは間違いありません。
これは僕の想像に過ぎませんが、ライディングを見ている限りでは下りブレーキングをかなり重視していたようです。その反面、上りのS字は曲がりにくそうにしていたので、恐らくはリヤが低めのセットアップにしていたのでしょう。それが上りコーナーでのフロント荷重不足を招いていたのではないでしょうか。
ここがバイクレースの難しいところです。たいていの場合は「あちらを立てればこちらが立たず」で、すべてがうまく行くことは残念ながらほとんどありません。今回のチェコGPでの小椋選手も、序盤から飛ばした影響からか、レース終盤にはいつものようなペースがありませんでした。
15周目を過ぎたあたりから、「いよいよ小椋選手がペースを上げるぞ!」とワクワクしていたのですが、実際には先行していたマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の方にペースがあった。余力を残していたのはマルケスだったんです。
下りコーナーを取るか、上りコーナーを取るか。序盤を取るか、終盤を取るか。レースは常に選択の連続です。土曜日のスプリントレース、そして日曜日の決勝レースともに2位という結果は本当に見事ですが、恐らく小椋選手自身は「もうひとつ何かが必要なんだ」ということを痛感したでしょう。
世界の壁は本当に高くて厚いんです。小椋選手の実力からすればいつ勝ってもおかしくないのに、そう簡単には勝たせてもらえない。ここからはおじさんの戯れ言ですが、「もう1歩」進むために必要なのは、ヨーロッパを拠点にすることではないかと思います。
小椋藍は第9戦チェコGPで2位でフィニッシュ。第5戦フランスGP(3位)以来となる表彰台を獲得した。
予選1位の小椋は抜群のスタートを決めるものの、序盤はペースが上がらずバニャイアとM.マルケスに抜かれ3番手に後退。その後、後半に強みを発揮し、13周目にファステストラップを記録して猛追。17周目にはバニャイアを捉えて2番手に浮上した。その後も1位のマルケスとの差を縮め、ファイナルラップには約0.5秒差まで肉薄。惜しくも優勝は逃したものの、王者達と渡り合い自己最高位の2位でフィニッシュとなった。
「もう一歩」進むために。日本を飛び出しヨーロッパを拠点にせよ!
小椋選手は今、レースとレースの合間にしばしば日本に戻り、あちこちのサーキットに顔を出してはとんでもない走りを披露しています。時にはお忍び(?)でミニバイクコースでのレースに出ることも。一緒に走った人たちにとってはめちゃくちゃ印象に残る出来事でしょうし、得るものも多いでしょう。タイムも順位も、ぶっちぎりですからね。
ですが、小椋選手自身はどうでしょうか?
もちろん彼は、日本のサーキットを走って1番速いからと、満足するようなライダーではありません。しかし、ヨーロッパのサーキットでトレーニングすれば、もっと速いライダーたちに揉まれることになります。その方が、彼自身は得るものが多いと思うんです。
人は、よりレベルの高い所で走ることで、自らもレベルアップするものです。ヨーロピアンライダーたちは、MotoGPライダーを筆頭に、メーカーの垣根を越えて一緒に練習する機会が多いようです。バレンティーノ・ロッシのVR46アカデミーが代表的ですよね。
昔はモナコに住んでいるライダーが多かったんですが、最近はスペインとフランスの間、ピネレー山脈に囲まれたアンドラ公国が人気です。タックスヘブンということもありますが、それ以上に、カートコースやモトクロスコースがあることが大きいそう。すぐバイクでトレーニングできる環境を選んでいるんです。
小椋選手には日本人として、日本を拠点に頑張り切ってほしい気持ちもあります。でも、MotoGPでも上位に行けるだけの才能と実力を備えたライダーだからこそ、さらに上──夢の頂点をつかみ取ってほしい。そのために、どんな努力も惜しまないでもらいたい。おじさんは強くそう願っています。
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