
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第164回は、雨中での決戦となった今年の鈴鹿8耐レースの話をしたいと思います。
Text: Go TAKAHASHI Photo: 佐藤寿宏/PRタイムス
勝ち狙い体制とプレッシャーの中、寄せ集めチームで掴んだ勝利
NCXX RACING with RIDERS CLUBの監督として鈴鹿8耐に参戦し、SSTクラスで優勝を果たしました。監督をさせていただくのは、今年で5回目。クラス優勝は2回目ですから、勝率は4割。悪くない数字ですが、いや〜、今年はとにかくホッとしました。
昨年までのNCXX RACINGは「若手ライダーを育成しつつ、クラス優勝する」という方針でしたが、今年はライダーに長島哲太選手、亀井雄大選手、伊達悠太選手をラインナップし、マシンもこれまでのヤマハYZF-R1からホンダCBR1000RR-Rにスイッチ。完全に勝ち狙いの体制で、否応なしにも勝たなければならないレースでした。
特に長島選手は、鈴鹿8耐にはホンダHRCから参戦し、EWCクラスで2連覇という素晴らしい成績を収めています。SSTクラスでも当然勝ちを狙える実力者だけに、僕も含めたチームスタッフ全員が「長島選手に恥をかかせるわけにはいかない」と、例年以上の緊張感を感じていました。
そうは言っても、NCXX RACINGは全日本ロードレースにシリーズ参戦しているわけではなく、鈴鹿8耐のためだけにライダー/スタッフが集められる「1レースオンリーのチーム」です。チームワークや物資を始めとして内部的な課題は山積みだし、BMW勢を中心に強力なライバルがいることもあって、「クラス優勝は目標だけど、かなり難しいだろうなぁ」と思っていました。
チームにとって最大のラッキーは、今年の鈴鹿8耐が雨に見舞われたことです。我がチームには雨のスペシャリスト・亀井選手がいて、マシンの性能差が縮まることもあって、雨を切望していました。鈴鹿サーキットまで足を運んでくださった観客の皆さんには本当に申し訳ないのですが、決勝が雨で勝てる可能性がグッと高まったのは事実です。
今回の僕は、いつも以上に裏方に徹しました。何しろ鈴鹿8耐で2勝している長島選手が参画してくれているのですから、鈴鹿8耐経験のない僕がレースそのものについて口を出せるはずがありません。亀井、伊達の両選手も実力のあるライダーですし、長島選手の速さをリスペクトしており、レースやライディングに関しては長島選手任せにした方がいいに決まっています。
僕の役割は、チームをまとめること。何しろ鈴鹿8耐オンリーの寄せ集め混成チームですし、それぞれに経験や熱い思いを持っている分、ぶつかることもあります。そういういろいろな問題を調整しながら、チームをひとつにしていくことが僕の仕事でした。
それがうまく行ったかは、正直分かりません。でも、自分がGPライダーだった時から、チームが一丸となることの大切さを痛感していたので、できるだけのことはやったつもりです。事前テスト、そしてレースウィークが進み、いろいろな課題をひとつずつクリアしていくうちに、徐々にチームがまとまってきました。
NCXX Racing with RIDERSCLUBは長島哲太選手をエースライダーに迎えるなど、2026年のFIM世界耐久選手権「コカ・コーラ」鈴鹿8時間耐久ロードレースへの参戦体制についてを2月に発表した。
互いを信頼し我慢に耐えたライダー陣の絆が生んだノーミス劇
今回、特にガマンを強いられたのは伊達選手です。昨年、全日本ロードST600クラスでチャンピオンを獲得し、勢いに乗っている彼ですが、鈴鹿8耐では経験の少ない1000ccマシンのライディングになります。全日本ロードでJSB1000に参戦している長島選手、そしてST1000に参戦している亀井選手はCBR1000RR-Rに乗り慣れているので、ふたりに任せる部分が多かったのは確かです。
ライダーは、誰よりも速く走りたい生き物です。しかし今回、伊達選手にはグリップのいい新品タイヤや予選用タイヤが割り当てられることがほとんどなく、レース中もセミウエットのような難しいコンディションを担当してもらうなど、文字通りガマンのレースになりました。
もちろん亀井選手も、いかに雨が得意とはいえ大きなプレッシャーがかかっていたはず。ホンダ・ファクトリーで戦った経験がある長島選手も、プライベーターチームの体制ではガマンしなければならないことが多かったでしょう。3人とも本当に辛抱強く頑張ってくれたと思います。
そういえば先輩ライダーたちにさんざん「絶対転ぶなよ」とクギを刺されていた伊達選手でしたが、予選ではそのふたり──長島選手と亀井選手が揃って転倒を喫し、「おやおや〜?」と伊達選手がツッコミを入れる、なんてシーンもありました(笑)。
ですが、ライダーさえ無事なら予選までは何があってもいい、というのが僕の考え方です。肝心なのは予選までに問題点を洗い出しておき、決勝でミスをしないことです。今年のNCXX RACINGは時間が経つにつれてどんどん結束が強まり、決勝は着実な走りとチームワークでほぼノーミス。クラス優勝を勝ち取ることができました。
今年の8耐は、終盤に雨に見舞われる波乱の展開となった。ウェット路面に光るヘッドライトが、サバイバルレースの過酷さを物語る。視界不良と滑りやすい路面という極限状態の中、ライダーたちは己の技術と精神力を振り絞り、チェッカーフラッグを目指したのだ。
着実な走りを見せるNCXX RACING。
着実な走りとチームワークでノーミス走行を続ける。
感動の涙とセーフティカー判断、そして絶対王者HRCの凄み
自分のレースで泣いたのは、若井伸之くんが亡くなった時の弔いレースに勝った時だけですが、今回の鈴鹿8耐は涙を堪えきれませんでした。ライダーたちとは「おじさんは涙もろいんだから、泣かせないでくれよ〜」なんて冗談めかしていましたが、レースはやはり感動的です。特に耐久レースはピットワークを始めとして大人数が関わるだけに、感動もひとしおでした。
EWCクラスは、Honda HRCが5連覇を遂げました。終盤にはYAMAHA FACTORY RACING TEAMが追い上げましたが、セーフティカーの導入で万事休す。ホンダに届かないまま終わってしまいました。最後のセーフティカーには賛否あったようですが、現場にいた僕の感覚では、適切な判断だったと思います。
かなり雨が強まっており、仮に最後の最後でセーフティカーを解除したとしても、クラッシュ続出でまたセーフティカー……なんてことになりかねない状況でした。安全を考えると、セーフティカーのままでのレース終了もやむを得なかった、というのが僕の見解です。
それにしても、Honda HRCは強かった。ホンダの勝利は誰もが予想していたことですが、本当に成し遂げるのは並大抵のことではありません。あまりにパーフェクトすぎてドラマチックさに欠けたように感じる方もいたかもしれませんが、全日本ロードにフル参戦しているわけでもないのにキッチリと仕上げてくるのはさすがです。
まだ来年の鈴鹿8耐のことは分かりませんが、もしまたNCXX RACINGの監督として参戦させていただけるなら、ホンダのように連覇してみたいと思っています。
EWCクラスで他を圧倒する速さと強さを見せつけたHonda HRC。マシンのポテンシャルを極限まで引き出し、隙のない走りでレースを支配した。ライバルの追撃を寄せ付けず、完璧なレース展開で頂点へと駆け抜けた姿は、まさに絶対王者の風格だった。
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