
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第163回は、多くのイベントが発生したチェコGPで、少し気になったことをお伝えしたいと思います。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
小椋藍が最高峰で魅せた!王者マルケスを脅かす「25歳」の覚醒
MotoGP第9戦は小椋藍選手がポールポジションを獲得し、スプリントレース、決勝レースともに2位という素晴らしい成績を収めたレースです。決勝で勝ったのは、マルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)でした。
手術を受けたばかりのマルケスは、決して本調子ではなかったはず。レース後は珍しく相当に疲れた表情でしたね。フランチェスコ・バニャイアと一緒に小椋選手に絡んで「君は何歳なんだい?」「25歳か……」「25歳ね……」とやっていましたが、マルケスも33歳。実際のところ、かなりハードだと思います。
今でもよく覚えているんですが、僕が26歳になった時、アライヘルメットのサービススタッフに「めっちゃ汗をかくようになったね!」と言われたんです。自分ではまったく意識していなかったし、「苦労しているシーズンだからだろう」ぐらいにしか思っていませんでしたが、まさに年を取った、ということだったんです。
僕は32歳で現役を引退しましたが、決して早い方ではなかったと思います。当時は、だいたい30歳が節目。30歳になると「そろそろ……」と考えるのが普通でした。引退年齢を大きく引き上げたのは、何と言ってもバレンティーノ・ロッシでしょう。42歳まで現役を続けた彼は、フィジカルはもちろん、とにかくメンタルが強かった。楽しんでいたことが、長く続けられた秘訣だったのだと思います。
スプリントレース、決勝レースは、いずれもマルケス、フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)、そして小椋選手が表彰台に立ちました。ドゥカティのファクトリーチームがいよいよ復調したのか、まだ予断を許しませんが、「合わなければ絶対に結果を残せない」バニャイアが表彰台に立ったということは、かなりのレベルまで仕上がっている証拠です。
マルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)
アプリリアの乱れとヤマハの苦悩。元ライダーの目から見た「ファクトリーチームの統率力」
一方、ちょっとバタバタし始めたのがアプリリアのファクトリーチームですね。いただけないのは、スプリントレースで転倒したマルコ・ベゼッキ(Aprilia Racing)がオフィシャルに手を上げてしまったこと。
エンジンがかかっていたのにオフィシャルがスロットルを回してしまい、危なかったから注意した、ということのようですが、いくらなんでも手を上げてはいけません。ベゼッキには決勝レースの出場停止という重い処分が下されましたが、これは仕方ないかな、と思います。
かなり危ない状況だったので、ベゼッキの気持ちも分かります。ですがライダーたるもの、常に冷静でいなければ。オフィシャルにもより分かりやすい位置にキルスイッチを配するなど、レギュレーションの見直しも必要かもしれませんが、まずはライダーが落ち着いて対処してほしいものです。
ちょっと思うのは、アプリリアはライダーをうまくコントロールできていないのではないか、ということです。ホルヘ・マルティン(Aprilia Racing)もやらかしていますし……。ライダーたるもの、多少はアニマルな面があることは否めませんが、チャンピオンになるにはやはり感情のコントロールが絶対に必要です。
そしてついに(?)、ホンダが復活してきましたね。決勝ではHonda HRC Castrolのジョアン・ミルが5位、ルカ・マリーニが8位につけています。そして予選ではディオゴ・モレイラ(Pro Honda LCR)が5番手グリッドを獲得しました。
モレイラは22歳のブラジル人で、’25年のモト2チャンピオンです。実力があるのは確かですが、デビューイヤーで予選5番手に入れたということは、ホンダのマシンがかなり仕上がってきている証拠でしょう。予選は小椋選手をうまくフォローしてタイムを出し、決勝は11番手に沈みましたが、この後のレースでも注目したいライダーです。
そしてこうなると、いよいよ辛くなってくるのがヤマハです。ファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP Team)というチャンピオンライダーを擁するファクトリーチームなのに、まったく存在感がありません。
エンジンの気筒配列を直列4気筒からV型4気筒にスイッチしたことで、本来の強みだったハンドリングという武器を失ったヤマハ。来シーズンのMotoGPマシン850cc化を睨んでのスイッチとされているので、ヤマハとしては「今に見ていろよ」という気持ちかもしれませんが、ライダーのメンタルコンディションを思うと、かなり厳しいものがあります。
マルコ・ベゼッキ(Aprilia Racing)
ホンダも復活の兆し。
もっと純粋に、ライダーの腕の競い合いが見たい
話はまったく変わりますが、昔レースをやっていたおじさんとしては、MotoGPマシンからあらゆる電子制御や空力デバイスを取り払って、もっとシンプルにできないものかな、と思います。もっと純粋に、ライダーの腕の競い合いが見たいからです。
そして、完全におじさんであることを自覚しながらあえて言いますが、やっぱりバイクのエンジンは2ストがいい! 軽くてクイックな2ストマシンなら、もっとパッシングシーンも増えるはず。今の技術なら、エミッションの問題もクリアする2ストが作れるのではないか……と、思いたいんですよね。
電子制御も空力デバイスもない2ストマシンで競われたら……、やっぱりマルケスは速いでしょうね。そしてクアルタラロも間違いなく上位に戻ってくるはずです。逆に言えば、今、クアルタラロが下位に沈んでいる理由は明らかに……という話になりますよね。
モータースポーツである限り、バイクの進化を止めることはできません。ですが、「人と人の競い合い」というスポーツ性の根本を、改めて見直せないものかなあ、と思います。……完全におじさんの戯れ言ですが(笑)。
軽くてクイックな2ストマシンなら……。
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