
「この男の戦う姿を撮ってみたい」。ヤングマシンを含む二輪メディアを中心に活躍中のフォトグラファー真弓悟史。バイクから人物写真まで数々の印象的な作品を撮り下ろしてきた彼が、2024年から全日本ロードレース・JSB1000クラスに挑む長島哲太選手を追いかけている。プロとしてレンズを向けなければと感じさせたその魅力に迫るフォト&コラムをお届けしよう。
●文/写真:真弓悟史
今年に入ってからの成長速度は拍車がかかっている
2026年シーズン、開幕から長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)が好調を維持している。もてぎで2位。SUGOで4位と3位。計3レースを終えて長島は、ランキング2位につける。
フォトグラファーとして、ピットの中では至近距離で表情を狙い、走りを望遠レンズで追い続けていて今年感じるのは、簡単に言ってしまうと“生き生きとした”長島の姿だ。
昨年までより堂々として落ち着いた雰囲気の顔つき。走りの切り返しなどに見るキレ感。ピットアウトの背中から伝わる気合い。レースでライバルのインに飛び込む時の自信にあふれた圧、などなど……。
じゃあ今までが、生き生きとしていなかったのかとか、ネガティブな表情だったかと言うと、そうではない。昨年の写真と比べてみても、ほとんど違いはないのかもしれない。しかし、昨年とは何か、何というか気としてこちらに伝わってくるものが違うように感じてしまうのだ。
その長島に「ライダーとして、今年やっていて楽しい?」と尋ねると、「そうですね。今年は結構楽しいです」と明るい声で答えた。「去年までは毎回終わった後、辛くて『はぁ……』ということも多かったんですけど、今年は確実な進化を感じています」。
ここで言う“確実な進化”とは、もちろんダンロップタイヤの進化の事である。「今年に入ってからの成長速度はすごく拍車がかかっていて、新しいタイヤが来た時に“ちゃんと進んでる”んですよね。
今までは新しいタイヤを何本か持ってきても『いや、これは違う。これも違う。こっちも違う。じゃあ元に戻ろうか』とか、『ここが良くなったけど、ここがダメになった』と行ったり来たりみたいなことが多かったんです。でも、今年は出てくるタイヤが毎回確実に進んでいる。そうすると、やっぱりライダーとして乗っていて楽しいですし、チームに対しても結果で貢献出来ているのかなと思うと、気持ちは楽ですよね」。
ダンロップの進化が、今年、長島の“楽しい”を生み出しているのは間違いない。ちょうど1年前のSUGOの時に長島は、こう言っていた。「レース中盤以降タイヤが垂れてくると、どうしても『抜き返せない』んです。それがアドバンテージじゃなくても『抜き返せる』くらいまで残っていてくれたら、あとは人間が何とかしますよ」。
この「抜き返せる」段階まで今年のダンロップは来た。過去によく聞いた「5周でタイヤが終わった」という言葉も最近はめっきり聞かなくなった。長島がライダーとして仕事を発揮できるタイヤにまで今年は確実に進化した。
「仕掛けて、仕掛けて、仕掛けて」と攻め続けました
そして迎えた全日本ロードレース第3戦・オートポリスが5月30日・31日に行われた。前回SUGOのレース後に長島が言っていた、ホンダ車とダンロップタイヤにとっては最も相性が良くない“鬼門”のサーキットである。
過去の成績を見返してみても、プロジェクト1年目の2024年は、転倒リタイヤと7位。翌2025年は7位・6位に終わっている。昨年もトップグループに顔を出す瞬間はあっても序盤のみ……オートポリスでは全く勝負をする事が出来ないレースが2年間続いていた。
しかし、蓋を開けてみると今年のダンロップと長島の組み合わせにとっては、もうそんな心配は無用だった。前戦SUGOのレース2を彷彿とさせるような、攻めに攻めまくり、隙を見つけては、すぐに抜き返す。もう事前のオートポリスに対するネガティブ意識など全く感じない、気持ちに火の付いたイケイケの長島がそこにはあった。
レース1、予選4番手から今回はホールショットとはならなかったものの、好スタートを決めた長島は3位に浮上する。そしてAstemoコーナー後の100Rでは水野涼(SDG DUCATI Team KAGAYAMA)を抜き2位へ。
その勢いのままジェットコースターストレート手前の第2ヘアピン進入ではトップの野佐根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)に襲い掛かかるもオーバーラン。4位まで後退するも、再び2周目には中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)をかわし3位浮上、3周目の1コーナーでは野佐根と水野を一気に抜いてトップに立つ。
この時の状況を長島は「1周目、涼を抜いたタイミングも(ギアが)2に入らなくて3のままだったり、野佐根のインに入った時はギア抜けしてニュートラルに入ってしまってオーバーランしかけたり、ちょっと序盤は取っ散らかってしまっていた部分がありましたね」と笑って振り返る。
その“取っ散らかって”しまった原因を「いつもより気持ちが高ぶっていたというか、『行ったるぞ!』という気持ちが少し強すぎたかなと思います」と語る。
このオートポリスは去年かなり苦戦した。そして全く見せ場なく終わってしまった感じが強かった。だからこそ今年の、戦えるようになった環境が長島をよりアグレッシブに駆り立てたのかもしれない。
「周りがどれくらいのペースで走るのか読めないウィークだったので、出来れば前を逃がしたくない。逃がして何も出来ないのが1番嫌だった。とにかく『仕掛けて、仕掛けて、仕掛けて』と攻め続けました」と序盤を振り返る。
しかし、このレースも水野は速かった。5周目にドゥカティのトップスピードの速さを生かして首位に浮上するとそのままトップを快走する。そしてレースも後半に差し掛かった9周目に中須賀にかわされると、またしても終盤、SUGOに引き続き野佐根との一騎打ちとなる。
野佐根とのバトルはコーナーごとに順位を入れ替えるほど白熱する。もはや単に順位を争っている感じではない。お互いのプライドを掛けた意地と意地のぶつかり合いだ。両方のライダーから「こいつだけには負けられない」という強烈な気持ちがバシバシと伝わって来る。もう殴り合いに近い、恐怖すら感じる。
「涼と中須賀さんに関しては違うメーカーのマシンだとかファクトリーだとか、タイヤ以外のいろんな差もあって、まだマンパワーだけでは出来ないと感じている部分もあるんですけど、野佐根に関しては、バイクはほぼイコール。
基本的には、違うのはタイヤだけ。だからこそ、そこで負けるわけにいかないという気持ちは大きいですし、ホンダ勢でトップにいるという重要な意味合いもあるので、とにかくそこは絶対負けないように意識しています」。このバトルを制した長島は、戦前に鬼門としていたオートポリスで表彰台・3位を獲得した。
正直、誰も想像していなかった。信じてくれる人も少なかった
翌日のレース2でも水野が逃げ、長島は中須賀、野佐根と最後の最後まで2位争いを展開する形となる。2位で迎えた最終ラップ。最終コーナーの1つ手前で中須賀に差された長島は3位に終わった。
しかし、ほとんどの周回を4位で走行しながら最後にはこのレースで出来うるベストであろう2位に上がってくる中須賀の強さは圧巻であった。さすが全日本JSBクラス13度のチャンピオンの走りである。
イメージするなら、長島の世界グランプリ仕込みの重いパンチで、インをこじ開けるようなパワフルなスタイルとは対照的に、接触ギリギリでありながら、しっかりラインを残して抜き去る切れ味鋭い中須賀の走りは、まるで一太刀で仕留める日本刀のような、なんとも美しい走りだった。
レース後、パルクフェルメでお互いの健闘を称える2人。レース1とはまた違う意地と意地のぶつかり合いを見せてもらった。
このオートポリスを3位・3位の連続表彰台で終えた長島。昨年までは21レースで表彰台1回だったのが、今年は5レースでもう4回の表彰台を獲得した。今年のチーム力を象徴する姿だ。表彰台の常連となった今、初表彰台の時のような成し遂げた感はもうない。目指すは優勝のみ、悔しさの方が上回り、ここに登るだけでは、もう喜べなくなっている感じはないのであろうか。
「いや、それはないです」と長島はすぐさま否定した。そして続けて「1番悔しかったのは、開幕戦のもてぎです。もてぎの2位が一番悔しい。あそこは正直トップに立てる可能性が手応えとしてあったのに、トラブルやコンディションの変化でペースを上げきれなかった。『自分の想定していたタイムを出せていたらチャンスだったのに……』という意味で悔しいレースでした。
逆にSUGOとオートポリスは昨年もすごく苦労していたサーキットだったので『表彰台に乗りたいけど難しいだろうな』というイメージがありました。なので表彰台に登れた段階ですごく嬉しかった。特にSUGOのレース2は前のレース1で逃したものを取り返せたので、すごく嬉しかったです。
そして、ここオートポリスも昨年は、まるでお葬式のようなレースでした。それに比べて今年は、こんなに成長した姿を見せることが出来ました。そしてレース2も中須賀さんを最後あそこまで追い詰めて、確実な進歩を周りに見せることが出来た。だから嬉しいですね」。
長島の気持ちは、私が考えていたような「もう1位しか喜べない」というものではなかった。順位の問題ではない。前回聞いた「“自分の仕事が出来たかどうか?”が喜べるか否かの基準」という言葉を改めて思い出す。あくまで自分達の今、出来る仕事を遂行出来たかどうかが重要だということだ。
このレースを優勝した水野と長島の差は約2秒。2位中須賀とはコンマ1秒差だ。2024年に雑誌に書いた4月もてぎラウンドの記事を思い出す。20周の決勝レースで、トップとの差は29秒と書いてある。この時は、1周につき1秒以上離されていた事になる。だが、今回のレースでは18周を走り差は2秒。ついにここまで来たかという感じだ。
「正直、誰も想像していなかったと思うんですよね。信じてくれる人も少なかった。でもダンロップがホント頑張ってくれたおかげでここまで来れた。自分の仕事を褒めてもらえるのももちろん嬉しいですけど、自分がどんなに頑張っても“応えてくれないタイヤは応えてくれない“ですから。それがブリヂストンとここまで戦えるタイヤにまでなってきた。確実な進化です」。
1年目から何度も聞いてきた「確実な進化」という言葉。しかし当時の苦しい戦いぶりを見ていると、その言葉をどうしても額面通りに受け入れることは出来なかった。でも今は当時のそれとは全く違うと感じることが出来る。
次戦は鈴鹿8耐を挟み、8月末のもてぎラウンドまで間隔が空く。昨年のもてぎは絶望のレース1から魂の走りを魅せ、長島復活の狼煙を上げた思い出深いレースだ。
「得意なコースですし、昨年暑いコンディションの中で良い戦いが出来ていたので、楽しみでしかないですね。インターバルの間もモチベーションは上がりますし、トレーニングにも身が入ります。ワクワクしてレースウィークを迎えられるんじゃないかと思います」。
このポジティブな答えを受けて「自力で勝てそうですか?」と聞いてみた。「もうあと1歩ですけど、その1歩はまだ大きい。正直まだ誰が乗っても勝てるタイヤとは言い切れないですし、藤沢さん(チーフエンジニア)や自分の力がかみ合わないといけないという、“条件付き”みたいなところはまだあります。しかし、あと少しダンロップが頑張ってくれたら、その1歩も手に入ると思います。まぁドラマとしてはイイ感じに盛り上がってきたんじゃないですかね」。
ドラマの舞台は着々と整いつつある。1年目は、開発の方向性が本当に合っているのか迷い、自信を失いかけた事もあった。2年目は、開幕戦でリタイヤし、続くSUGOはトップを走行するもずるずると後退するしかなかった。昨年までは「長島ダム」と言われた通り、序盤の盛り上げ役だったかもしれない。
しかし今年はライバルも、争うべき相手として完全に認めているはずだ。背後に長島の足音がだんだんと大きく近づいてきた。そしてファンも、「長島とダンロップすごいじゃないか!」と肌で感じているに違いない。
インタビューの最後に「何か奇跡を起こしそうな気がするんですよね?」と私は言った。
長島は少し笑った後、「……次のもてぎですよ」という言葉を、私の取材録音に残した。
さぁ、面白くなってきた。
【真弓 悟史 Satoshi Mayumi】1976 年三重県生まれ。鈴鹿サーキットの近くに住んでいたことから中学時代からレースに興味を持ち、自転車で通いながらレース写真を撮り始める。初カメラは『写ルンです・望遠』。フェンスに張り付き F1 を夢中で撮ったが、現像してみると道しか写っていなかった。 名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒業。その後アルバイトでフィルム代などの費用を作り、レースの時はクルマで寝泊まりしながら全日本ロードレース選手権を2年間撮り続ける。撮りためた写真を雑誌社に持ち込み、 1999 年よりフリーのフォトグラファーに。現在はバイクや車の雑誌・WEBメディアを中心に活動。レースなど動きのある写真はもちろん、インタビュー撮影からファッションページまで幅広く撮影する。
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