
1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入り、さらにプロトンKRやスズキで、モトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきた「ノブ青木」こと青木宣篤さん。そんな彼がお届けするマニアックなレース記事が、この「上毛グランプリ新聞」だ。第44回となる今回は、フランスGPでアプリリアが史上初の1-2-3を達成した背景と、絶対王者ドゥカティを苦しめる「共通ECUの小窓」の秘密について、開発ライダーの視点から迫っていきます。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Michelin
第5戦フランスGPで勢力図激変。最強ドゥカティを襲う異変とは?
小椋藍くんの3位表彰台によって、アプリリアは第5戦フランスGPで同社最高峰クラス史上初の1-2-3を達成した。第5戦フランスGP終了時点でのポイントランキングは、マルコ・ベゼッキとホルヘ・マルティン、Aprilia Racingのファクトリー勢が1-2だ。
一方、ドゥカティ勢のランキングはというと、ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Pertamina Enduro VR46 Racing Team)が4番手につけているものの、ファクトリーチームのDucati Lenovo Teamはマルク・マルケス7番手、フランチェスコ・バニャイア9番手と、ちょっと冴えない。
まだ残り17ラウンドで、スプリントレースを含めると34レースあるので、いくらでも逆転のチャンスはある。だが、少なくとも今シーズン序盤のドゥカティ勢が苦境に立たされているのは確か。いったいどうしたのだろう?
ポイントはふたつある。ひとつは、アプリリアが「共通ECUの小窓」を発見し、開けてしまったことだ。
隠された「小窓」を開け放て。共通ECUの深掘り大合戦が勃発中
MotoGPは’16年からハードウエア、ソフトウエアともに共通ECUに統一され、それまでの各メーカーのオリジナルECUに対して、格段に制御レベルが低下した。ハッキリ言って、共通ECUの制御は最近の量産車にも劣る。特にトラクションコントロールシステムは大幅にパフォーマンスダウンしていて、対応にはいまだに苦慮している。
そんな中、どういうわけか(笑)ドゥカティだけがいち早く「小窓」を見つけ、うまいこと活用していた。共通ECUのプログラミングの奥底に、「どうにかすれば、うまいことイケる」というポイントがあったのだ。
トラコンの制御そのものをどうこうすることは、さすがにできない。しかし、プログラムのどこかをどうにか掘っていくと、トラコンが高性能化したかのような振る舞いを見せ、より有益かつ実戦的になる、ということのようだ。
ワタシは電気に詳しくないが、MotoGPマシンの走行中のエンジン音を聞いていると、どのような制御が入っているのかは分かる。「小窓」が開いていない共通ECU車は、リヤタイヤが滑り出した時、全気筒すべてが一気にパワーカットされている……ような音になる。一方、「小窓」が開いているドゥカティは、1気筒ずつパワーカットできている……ような音だ。
音のことなので言葉にするのは難しいが、全気筒がパワーカットされるとエンジン音は「ンッ……」と詰まったような感じになる。しかし1気筒ずつのパワーカットだと、「パラパラッ」と、どこかの気筒では爆発している音が聞こえるのだ。
これまでは、ドゥカティだけが気付いていた「共通ECUの小窓」。今は各メーカーが「小窓」のこじ開けに成功している。しかし、ただ開ければいいってものじゃない。
開け方次第は、コースによる合う・合わないがで出てきてしまう。そして最近のアプリリアは、ドゥカティに近いオールマイティさがある「開け方」を発見したのだろう。
ドゥカティ包囲網が狭まり、各メーカーの競争が激化しつつある昨今だが、「共通ECUの小窓」をイメージしてもらうと、より面白くMotoGPを観られるかも。
パラパラ音を奏でながらポイント争いのトップを快走するマルコ・ベゼッキ(Aprilia Racing)。
ドゥカティを襲う「超天才を擁するがゆえの悲劇」
そのドゥカティ、乱調気味だ。上毛GP新聞では再三指摘してきたが、やはりマルク・マルケスという希代の天才を擁したことで、開発の方向性が尖ったものになってしまったのだろう。
第6戦カタルニアGPではフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)が3位になったが、四輪のF1でもマックス・フェルスタッペンのセカンドドライバーは苦労すると聞く。
マシン作りを突出した天才中の天才に合わせてしまうと、どうしてもこういう事態が起こる。ドゥカティも最初は「ウチは大丈夫!」と胸を張っていたが、好タイムを出し優勝するライダーに群がるのは致し方ない。マルケス加入以降、もともとのバランスを崩しているのは間違いなさそうだ。
しかしそのマルケスも、33歳。20歳でMotoGP初優勝をさらった彼も、さすがにお年頃だ。年齢を重ねることによる身体的な衰えは、誰ひとりとして避けることができない。トレーニング理論の進化によって、下り坂を緩やかにし、長く好パフォーマンスを発揮することはできるが、下がることだけはどうにもならない。
特にマルケスのように超優れた反射神経の持ち主は、もともと超絶スゴいレベルにいる分、ちょっとした下り坂がかなり利いてきてしまう。今の彼は、思うようにならない自分の身体と戦っている真っ最中。加齢とのいい兼ね合いを見つけてほしいものだと思う。
しかし、苦しんでいるマルケスを見ていると、バレンティーノ・ロッシという人はスゴかったんだな、と改めて思う。何しろ41歳の’20年までファクトリーライダーであり続け、’21年、42歳で引退。’18年には39歳でランキング3位である。最後の優勝は’17年だったから「下り坂」だったことは否めないが、それにしても長く最前線に立っていたことは確か。改めて、スゴい。
気付けばマルケスも32歳で、35歳のヨハン・ザルコ(CASTROL Honda LCR)に次ぐ「ご高齢ライダー」になった。希代の天才だけに、20代の若手に押されている……とは思わないが、ここからは時間という抗えないものとの闘いになるだろう。
天才・オブ・天才、さすがのマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)も寄る年波には勝てないか……?
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台 ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。 波乱の第6戦カタルニ[…]
リスクを取りつつサーキットでトレーニングする小椋藍 アメリカズGPからスペインGPまでのインターバルで、日本では「オグラアイ前線」がズンズン北上し、レースファンの注目を集めた。筑波サーキット、モビリテ[…]
850cc化、エアロパーツ小型化、車高デバイス禁止、そしてタイヤメーカー変更! 先日、イタリアはミザノサーキットで、来季に向けたドゥカティ・モトGPマシンのテストが行われたようだ。 来シーズンは排気量[…]
速いヤツの方を向くしかない タイGPで気になったのはドゥカティだ。いよいよマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の影響が及んできたのか、内部的に若干意見が分かれ始めているような感じが[…]
アコスタの初勝利、ベゼッキの独走 行ってきました、2026MotoGP開幕戦タイGP! タイは昨年半ばからカンボジアとの間で国境紛争があり、ブリラムサーキットは市民の主要避難所として使用されていた。だ[…]
最新の関連記事(モトGP)
小椋藍が最高峰で魅せた!王者マルケスを脅かす「25歳」の覚醒 MotoGP第9戦は小椋藍選手がポールポジションを獲得し、スプリントレース、決勝レースともに2位という素晴らしい成績を収めたレースです。決[…]
小椋藍、チェコGPで日本人6年ぶりのPPを獲得。フィニッシュでも2位! 見えてきた「夢の頂点」への課題 小椋藍選手(SuperFile Trackhouse MotoGP Team)が大活躍したMot[…]
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台 ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。 波乱の第6戦カタルニ[…]
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
転倒後に本コースを横切る……あれはナシ 物議を醸したスペインGPのスプリントレース。2番手を走っていたマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)が8周目の最終コーナーで転倒したことが発端[…]
人気記事ランキング(全体)
【魅力1】30年ぶりの4気筒フルカウルに最新「Eクラッチ」を融合 「4気筒の高周波サウンドを響かせながら、風を切って走りたい」。そんなフルカウルファンの渇望を満たすCBR400R FOUR E-Clu[…]
繊維強化プラスチック×高密度リブで「軽さと強さ」を両立! まず注目したいのが、そのタフな骨格だ。 トッププレートには高強度の繊維強化プラスチックを採用。裏面には緻密な高密度リブ構造を巡らせることで、積[…]
【魅力1】新設計4気筒エンジンと「Eクラッチ」の融合によるイージースポーツ 「あの甲高いエキゾーストノートをもう一度味わいたい」。そんなライダーたちの熱い想いに応えるように、ホンダは完全新規の直列4気[…]
再現という行為の本質 第18回モンキーミーティングの会場には数多のモンキー系カスタムが集まり、綺羅星のごとく会場を埋め尽くしたカスタムモンキーの中に一際目を惹く1台があった。 それは伝説的名車であるホ[…]
青春のバイブル『バリバリ伝説』と憧れの「しび子ちゃん」 しげの秀一氏が描いた『バリバリ伝説』は、単なるモータースポーツ漫画にとどまらず、一つの時代を象徴するバイブルだった。アマチュアの峠の走り屋から、[…]
最新の投稿記事(全体)
「いつかはハーレー」で終わらせない、現実の選択肢へ! WH:これまでウィズハーレーは、北海道ツーリングに同行させていただきましたし、全国のイベントでも玉木代表がハーレーに乗って走る姿を何度も拝見してい[…]
【主要諸元】 サイズ:全長 2130 全幅 820 全高1120 軸距 1492 シート高 775 [ローシート+ローサスペンション] (各mm) 車重:175kg(燃料ナシ) エンジン[…]
注目は「S.I.R.S.」の進化! 脳波と直結する超インテリジェント電子制御 今回の目玉は、ライダーの走りを全方位でバックアップする最新の電子制御システム「S.I.R.S.(スズキインテリジェントライ[…]
爽やかなブルーが街に映える「Z900RS」の新色 「Z900RSのスタイルと性能には文句のつけようがない。あとは、自分好みのカラーリングに出会うだけだ」。そんな風に購入のタイミングを見計らっていたライ[…]
憧れのGPマシンをガレージに。所有欲を満たす特別なレーシング・カラー 「ハイエンドなスポーツバイクに乗るなら、誰が見ても特別な1台だとわかるオーラが欲しい」。そんなライダーの欲求を完璧に満たしてくれる[…]
- 1
- 2





































