
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第40回は前回に続き、2026年のMotoGP・開幕戦タイGPを現地取材。そこで見たマルク・マルケスを取り巻く雰囲気について語る!
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:DUCATI, 青木宣篤
速いヤツの方を向くしかない
タイGPで気になったのはドゥカティだ。いよいよマルク・マルケス(Ducati Lenovo Team)の影響が及んできたのか、内部的に若干意見が分かれ始めているような感じがする。もちろんこれは外から見ている印象に過ぎないが、ややギクシャク感があるのだ。
そりゃそうだ。例えば、マシンに何か新しいアイテムが投入されたとしよう。マルケスは驚異的な身体能力でスパッと好タイムを出す。ところが同じアイテムを投入したチームメイトのフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)は「え〜っ、ナニコレ!?」とタイムが出せない、とする。
開幕戦タイGPではスプリントレース、決勝レースともに9位となったバニャイア。
あくまでも仮定の話だが、こうなった場合、ドゥカティとしてはタイムを出しているマルケスの方を向かざるを得ないのだ。ホンダ時代に起きていたのと同じような「マルケス・スペシャル」の開発姿勢が、少しずつ増え、その結果として、ドゥカティは88戦ぶりに決勝レースの表彰台を逃してしまった。
マルケスの走りの特殊性は、これまでにもさんざん指摘してきた。いろんな人がいろんなことを言っているが、マルケスの走りを間近で見ていた中上貴晶くんの証言によると、「マルケスは進入でフロントタイヤを滑らせる」とのこと。ちょっと何言ってるのか分からなかった。
しかし最近、ワタシ自身のダートトラックトレーニング経験から具体的に分かってきたのは、コーナー進入時にフロントタイヤをハーフロックさせ滑らせると、旋回力がクククッと増す、ということだ。
ご存じの通り、フロントタイヤを完全にロックさせると、いわゆるアンダーステア状態に陥ってしまう。すなわち、曲がらない。しかしハーフロックで微妙にスライドさせ、リヤタイヤのスリップアングルとバチッとハマると、不思議なぐらい曲がってくれるのだ。
小排気量・低速度・低μ路面のダートトラックならいろんなトライができるけど、大排気量・超高速度・高μ路面のMotoGPマシン&サーキットでやっちゃうMotoGPライダーって……。(Photo: ミナミ)
「なるほど! マルケスはこうやって走らせているのか!(たぶん)」と思いつつ、空恐ろしくなる。ワタシが何となく体得できたのは、小排気量・低速度・低μ路面のダートトラックでのこと。これを大排気量・超高速度・高μ路面のMotoGPマシン&サーキットでやってのけるのだから、尋常ではない。
そして、尋常ではないライダーのリクエストが尋常であるはずがない。しかしリッパにタイムを出し、リッパな成績を残すのだから、開発の方向性も尋常ではなくなっていく……。
ほんのちょっとした差なのだろうと思う。しかしその「ちょっとした差」が大きな成績の差につながってしまうのが、今のMotoGPだ。ホンダの二の舞にならないよう、ドゥカティは慎重な舵取りが必要になるだろう。
マルケスが与える影響は、レギュレーションが大きく変わる2027年にも火種を生む……?
Thai GP Photo Journal
フレーム
ピボットまわりに注目。触ったら切れそうなぐらい極薄なヤマハ。かなり薄くしてきたホンダは、裏側をさらに肉抜きしている可能性も。いずれも攻めた設計で、剛性を適正化している。
マフラー
KTMとアプリリアは後端が絞られたノズル形状。排気の速度を高めつつ適度な排圧を得る狙いか。ショート管のドゥカティはトルク(ドライバビリティ)重視、ホンダは管長が長めでパワーを重視していそう。ヤマハは中間型で、パワーもトルクも欲しがっていることが分かる。
ヤマハ
ライドハイトデバイス
ドゥカティのファクトリーとサテライトは、フロントカウル内に収めたライドハイトデバイスのシステムに違いが。ファクトリーは下げた車高を戻す際のスピードをコントロールしている。
トップブリッジ
「これで大丈夫なの!?」というぐらい肉抜きしまくっているヤマハ。ほどよいたわみが接地感を生んでいるはず。アプリリアもなかなかの攻め具合だが、ヤマハほどではない。KTMとホンダはコンベンショナルに見えるが、裏側で肉抜きしているかも。
リヤウイング
アプリリアはリヤウイングにご執心の様子。ファクトリーマシンには四輪F1のようなゲート型が、サテライトにはステゴザウルスの進化版・パノラミクス型が装備されていた。小椋藍くんに聞くと「あ、ホントだ」と、気付いていませんでしたが……。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事([連載] 青木宣篤の上毛GP新聞)
第5戦フランスGPで勢力図激変。最強ドゥカティを襲う異変とは? 小椋藍くんの3位表彰台によって、アプリリアは第5戦フランスGPで同社最高峰クラス史上初の1-2-3を達成した。第5戦フランスGP終了時点[…]
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台 ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。 波乱の第6戦カタルニ[…]
リスクを取りつつサーキットでトレーニングする小椋藍 アメリカズGPからスペインGPまでのインターバルで、日本では「オグラアイ前線」がズンズン北上し、レースファンの注目を集めた。筑波サーキット、モビリテ[…]
850cc化、エアロパーツ小型化、車高デバイス禁止、そしてタイヤメーカー変更! 先日、イタリアはミザノサーキットで、来季に向けたドゥカティ・モトGPマシンのテストが行われたようだ。 来シーズンは排気量[…]
アコスタの初勝利、ベゼッキの独走 行ってきました、2026MotoGP開幕戦タイGP! タイは昨年半ばからカンボジアとの間で国境紛争があり、ブリラムサーキットは市民の主要避難所として使用されていた。だ[…]
最新の関連記事(モトGP)
小椋藍が最高峰で魅せた!王者マルケスを脅かす「25歳」の覚醒 MotoGP第9戦は小椋藍選手がポールポジションを獲得し、スプリントレース、決勝レースともに2位という素晴らしい成績を収めたレースです。決[…]
小椋藍、チェコGPで日本人6年ぶりのPPを獲得。フィニッシュでも2位! 見えてきた「夢の頂点」への課題 小椋藍選手(SuperFile Trackhouse MotoGP Team)が大活躍したMot[…]
第5戦フランスGPで勢力図激変。最強ドゥカティを襲う異変とは? 小椋藍くんの3位表彰台によって、アプリリアは第5戦フランスGPで同社最高峰クラス史上初の1-2-3を達成した。第5戦フランスGP終了時点[…]
取るべくして取った、最高峰クラスの初表彰台 ヨーロッパラウンドに入り、MotoGPのシーズンが加速している。ほぼ毎週のようにレースが開催されるので、キャッチアップも大変だ(笑)。 波乱の第6戦カタルニ[…]
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
人気記事ランキング(全体)
伝説のV3ワークス直系、プライベーターを支えた名車「ホンダ RS500R」の軌跡 1983年に発売されたRS500Rは、ホンダが世界タイトルを獲得したワークスマシン「NS500」の技術を継承して作られ[…]
220馬力へと引き上げられた、驚異のV4エンジン 「厳しい排ガス規制の中で、これ以上のパワーアップは難しいのではないか」。そんなライダーの懸念を、アプリリアの技術陣はいとも簡単に打ち砕いてみせた。 心[…]
熊の出没が急増する季節、ライダーに求められる「万が一」への備え 熊の被害や出没件数は、これからの夏から秋にかけてまさに「本番」のピークを迎える。特に秋は冬眠に向けた過食期に入り、熊の行動が活発化するた[…]
前モデルからの進化:丸形LEDヘッドランプとABSユニットの刷新 「アドベンチャーモデルらしいタフな顔つきは好きだが、灯火類は最新のLEDが欲しい」。そんなライダーの要望を、2026年モデルは鮮やかに[…]
“魅せる”だけじゃない! 走りの相棒を優しく労わる機能美 このアイテム、とにかくシンプル極まりない。スチール製の骨組みで構成された無駄のないデザインで、「ただ置くだけ」でヘルメットを宙に浮かせたように[…]
最新の投稿記事(全体)
50ccで7.2馬力! 6速ミッションを操る快感 「50ccだからといって、走りに妥協はしたくない」。そんな熱い思いを持つライダーたちを、NSR50はたちまち虜にした。 心臓部には、最高出力7.2PS[…]
105馬力に進化! EURO 5+をクリアした並列ツイン 「ミドルクラスは乗りやすいが、サーキットのストレートでは少しパワーが物足りない」。そんな悩みを抱えるライダーに、アプリリアは力強い回答を用意し[…]
着るだけで血行を促進。一般医療機器に認定された確かな疲労回復機能 メディヒール最大の強みは、繊維に練り込まれた独自の高純度セラミックスにある。身体から放出される遠赤外線を生地が輻射(ふくしゃ)すること[…]
2種類の重さの異なるバーエンドとスリーブ部を7色から選べ流。 20年の時を経て「ダイナミックダンパー」が超進化! ツーリングから帰ってきたら手がシビれて疲れる……そんなライダーの悩みを解消すべく200[…]
A-FORCE RRはなぜチタン製Dリングを採用したのか [Q] 今回、A-FORCE RRにはDリングを採用していますが、その理由を教えてもらえますか? 今までウインズではラチェットベルトを採用して[…]
- 1
- 2





















































