
丸山浩が、思い出の出来事や大好きなホンダCBについて語る新連載。第1回はフレディ・スペンサーへの思いと、彼の天才の秘訣は何なのか。そして、「君もフレディを目指せる」ということを伝えよう。
●まとめ:宮田健一 ●写真:minami/編集部/YM archives
どう計算したって同じようにはなれない
2025年のホンダ熊本イベントでフレディ・スペンサーと話せる機会を得て、あらためて彼は「天才」だと感じたね。僕が高校時代にバイクの免許を取った頃には、もうスペンサーの活躍が世界中に流れていたんだ。帝王ケニー・ロバーツとバチバチにやりあい、これを下すなんて、とにかく凄いライダーだと思った。
自分でもレースをやるようになって、その凄さがさらにわかるようになり、同時に自分はフレディにはなれないと悟るようにもなった。だって子供のころからダートトラックを毎日7時間とか走ってて、18歳の時にはもう世界チャンピオンでしょ。僕は20歳くらいからレースを始めたので、スペンサーになろうとしてもその時点で既に15年分足らないわけ。ただ、そこで僕は近づく努力をすることにした。
フレディのように僕も毎晩ダートラの練習をしたよ。その頃はまだ自宅前の荒川土手にバイクを持ち込んで練習しても怒られることはなかったんだ。ダートラの何が練習になるかと言うと、滑りに対して身体が反応するようになるってだけ。あれはもう理論じゃないんだ。もちろん理論的に滑ったらどうするかってことは考えなきゃいけないんだけど、実際には脊髄反射じゃないと間に合わない。
フレディは、その身につけている感覚の世界で走っているからマシンを手足のように自由に操れるんだと感じた僕は、そこに一歩でも近づこうと思ったってわけ。だから現在に至るまで他にも様々な練習を続けてきたよ。
フレディとデイトナCBに近づこうと長年努力。2025年9月の鉄馬レースでも彼の走りに負けないよう頑張った結果、優勝できた!
天才は超越した感覚世界で走っている
彼へのインタビューで、デイトナCBレーサーのフロント16インチの話が出たときも彼の天才肌の片鱗が伺えた。16インチはエンジニアたちの意向だったんだね。タイヤが発展途上だった当時に旋回力を出すための答えのひとつが小径タイヤだったんだけど、さすがにクイックすぎてリスキーだった。
今回尋ねてみてフレディも乗るのに苦労したんだっていうのは伝わってきたけれど、結局乗りこなしちゃってたところはやっぱり天才ゆえの感覚が冴えてたのだろう。フレディはマシンの操り方が他とは全然違うっていう風。滑っても怖くないと言うか、フロントまで滑ってる走りをよくしてたけど、それで転ばないのはやっぱりそこはもう理論を超えたところにある感覚の世界なんだ。
それしかなくて、その時もそう言われてたと思う。もちろんフレディも凄い量の練習を重ねたと思うんだけど、僕の思う「天才」というのは日々の努力で身についたものを全て発揮した結果なので、その瞬間にはおそらくフレディも考えて乗ってはいなかったはず。タイミングとかも理論じゃなくて感覚で全てをこなしているから他のライダーよりも速くできてしまうんだ。
感覚で走るタイプのライダーはよくクラッシュするんだけど、全盛期のフレディのようにその感覚が並みはずれて突出しているとクラッシュせずにダブルタイトルとか取れちゃうし、どんなバイクに乗ってもいきなり速く走れてしまうんだと思う。
今回のホームカミングイベントでもフレディにその感覚の世界が未だに生きていることを感じたよ。ポンと初めて乗ったCB1000Fなのに、レッドゾーンぎりぎりだけどレブリミットに当たる音をまったくさせない。すごく正確な全開走行を行うもんだから驚かされてしまう。普通だったら初めて乗るバイクだと慣れるまでどこかでミスしそうなものなんだけどね。そんなところも玄人的な視点からオオッて感動させられてしまったよ。
感覚を研ぎ澄ますためにオフトレは今も継続。あらゆるライテク理論は身体に染み込ませることが、何よりも大事だ。
諦めなかったら思わぬ未来が待っていた
あらためて僕はフレディに憧れて良かったと思う。結局フレディにはなれなかったけれど少しでも近づこうと彼がやっていることを真似していたら、やがて鈴鹿8耐で一旦抜くことができたり、まさか40年経ってこうして一緒に席を並べてトークショーができるまでになるなんてね。そんなことが起こりうるとは微塵も想像していなかった昔の自分に今の僕の姿を本当に見せてやりたいよ。
だから若いライダーたちには、ぜひ伝えたい。天才にはなれないかもしれけれど、それに一歩でも近づくことはできる。人生長いこと諦めずに頑張って続けていけば、思わぬ未来が待っていることもあるのだ!
ヤングマシン2010年4月号臨時増刊付録の「ハイパー・ライディング・テクニック」(左)。今回フレディからサインを頂戴した。右は「丸山浩の天才!ライディングテクニック エキスパート編」。“天才”の文字に込めた思いはここで語ったとおりだ。
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