
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第147回は、MotoGPライダーが本気で参戦したがる鈴鹿8耐と、MotoGP後半戦でマルケスに挑めそうなライダーを考えます。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Apirilia, Honda Mobilityland, Yamaha
MotoGPライダーが参戦したいと願うレースが真夏の日本にある
もうすぐ鈴鹿8耐です。EWCクラスにはホンダ、ヤマハ、そしてBMWの3チームがファクトリー体制で臨みますね。スズキも昨年に引き続き、カーボンニュートラルをキーワードとしてエクスペリメンタルクラスに登場。メーカーが威信を懸けてのファクトリー参戦は、鈴鹿8耐をグッと面白いものにしてくれそうです。
そして今年はMotoGPライダーが2名参戦します。ホンダのヨハン・ザルコ、そしてヤマハはジャック・ミラー。昨年はザルコが優勝していますから、’17年以来2回目の参戦となるミラーも本気で勝ちにくるはず。MotoGPライダーの走りが見られるのも、鈴鹿8耐の楽しみとして定着してほしいですよね!
ヤマハのジャック・ミラー。タイトル写真のヨハン・ザルコとMotoGPライダー同士の争いが見られるか。
彼らはプロのレーシングライダーなので、仕事としてオファーがあって条件が折り合えば、どんなレースにも参戦するでしょう。でも彼らのコメントを聞いていると、本心から「ずっと鈴鹿8耐に参戦したかった」と言っていますよね。MotoGPライダーさえ参戦したいと思えるレースが日本にあることを、誇りに思います。
そういえば、フランチェスコ・バニャイアがドゥカティ・ゼネラルマネージャーのジジ・ダッリーリャに向かって、「僕のアイデアを聞いてよ。僕、ニッコロ・ブレガ、そしてダニロ・ペトルッチで……」と言った瞬間、ジジも「分かってるって」という笑顔を浮かべながら「鈴鹿、だろ?」と応じる、という動画を観ました。
ブレガとペトルッチは、両者ともスーパーバイク世界選手権でランキング上位につけているドゥカティのライダーです。つまりバニャイアはジジに「ドゥカティも勝てる体制で鈴鹿8耐に出ようぜ!」と言っている、というわけ。冗談交じりの会話でしたが、鈴鹿8耐への本気の思いが伝わってくるものでした。
鈴鹿8耐にはまだまだ世界的なバリューがある、ということを感じさせてくれる動画ですよね。恐らくバニャイアは、YouTubeなどさまざまなメディアから鈴鹿8耐の情報を得ているのでしょう。そういえば、オートレース宇部レーシングチームから参戦するロリス・バズは、チームのインスタグラムのDMで「鈴鹿8耐に出たい!」とアプローチしてきたのだとか。そんなこと、僕らが現役の頃には考えられません。いい時代になったと思います。
そんな風に世界的に注目されている鈴鹿8耐ですが、僕たち日本の二輪レースファンからすると、年に1度の「真剣なお祭り」です。そういう意味では、会社創業70周年を記念してスペシャルカラーで臨むヤマハレーシングチームのような取り組みに、僕は賛同します。少しでも盛り上がるための「ネタ」を投下してくれるわけですから、ありがたいことです。
僕はSSTクラス「NCXX RACING with RIDERS CLUB」の監督として鈴鹿8耐に参戦します。監督は監督でなかなか大変ですが、若いライダーと触れ合いながら、彼らの成長を見届けるのは楽しいものです。ウチのチームのライダーは、井手翔太、豊島怜、岡部怜の3人。ちなみに同じ「怜」という漢字ですが、読み方は豊島が「れい」、岡部は「れん」です。ぜひ注目してやってください。
昨年チャンピオンのマルティンが復調か
さて、鈴鹿8耐にザルコやミラーが参戦する、ということは……、そうです、MotoGPは前半戦を終えてサマーブレイクに入っています。ここまでを振り返ると、マルク・マルケスが圧倒していますね。弟のアレックス・マルケスも頑張っていますが、兄マルケスの安定感には届きません。
ここへきて注目は、復活したホルヘ・マルティンでしょう。アプリリアに移籍してからはほとんどまともにレースできていませんが、それでも「やはりマルケスに対抗できるのはマルティンか」と思わせるだけの速さがあります。
アプリリアでのマルティンのライディングはまだしっかり観察できていませんが、昨年までのドゥカティの走り方からすると、マルティンの強みはコーナーからの立ち上がり加速でしょう。マルケスやファビオ・クアルタラロほどブレーキングに強い印象はありませんが、向き変えと立ち上がり加速が上手だと感じています。
復帰を遂げたホルヘ・マルティン。
ペドロ・アコスタと似たスタイルですね。クリッピングポイントまでギューッとフロントブレーキを握り込み続け、十分に減速したところでクルッとコンパクトに向き変え。素早くマシンを起こして効率よく立ち上がり加速につなげています。
この走らせ方は、リヤタイヤへの負担が少ないため、レース後半にも安定したペースを刻めるのが大きなメリットです。その一方で、マシンを寝かせながらのブレーキングは非常に難しくシビアなため、フロントから転倒しやすいのがデメリットと言えます。
昨年はいい勢いがあったアコスタですが、今年に入ってからは苦戦していますよね。第12戦チェコGPではスプリントレース2位、決勝レース3位と久々に表彰台を獲得しましたが、全体を通してみると転倒が目立ちます。
理由はハッキリしています。それは、アコスタのペースが上がっているから。なかなかイメージしにくいと思いますが、0.1秒でもタイムが上がればまったくの別世界になるのがレースというものです。MotoGPともなれば、常にパッケージの、そして自分の限界で走っていますから、ちょっとのタイム向上によって自分のイメージとのズレが生じるんです。
速く走るのが彼らの仕事。ですが、速く走ることでイメージ通りの走りができなくなる、というジレンマ。これはもう、レーシングライダーなら誰もが通る道。タイヤ選びやマシンのセットアップやライディングの変更など、さまざまな試行錯誤をするしかありません。
と言いつつ、テストの機会が大幅に減り、開発にも制約が課せられているのが今のMotoGP。マシンのベースが優れていないと、試行錯誤も効果を発揮しません、そしてドゥカティの強さはここにあります。しっかりとしたベースができているからこそ、ライダーの試行錯誤も生きる。強さが強さを呼ぶ、という状況は、当分の間、続きそうです。
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