’80s国産名車・ヤマハRZV500R完調メンテナンス【経年劣化を克服して完調を維持したい】

’80s国産名車|ヤマハRZV500R

今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は2ストローク車の歴史を変えたヤマハRZシリーズの最高峰・RZV500Rについて、メンテナンス上のウィークポイントを明らかにする。


●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●外部リンク:モトプラン

【取材協力:モトプラン】’78年に創業したモトプランは、新旧ヤマハ専門店。’80年代中盤からの十数年間はYSPの看板を掲げ、以後も新車販売を行なっているが、最近は旧車がメインになっているそうだ。今回はRZVの話を聞いたものの、同店の守備範囲はエンジン形式や年式を問わずで、RZ/RZ-R/TZR/FZ/FZR/XS-1などの入庫も多い。●住所:東京都小金井市前原町5-7-30 ●電話:042-385-6511

周辺部品が正常なら焼きつきは起こらない?

’80年代中盤以前の2ストローク車のトラブルと言えば、誰もが最初に思い浮かべるのはピストン&シリンダーの焼きつきだろう。事実、モトプランに入庫するRZVも焼きつきは珍しくないのだが、その原因は周辺部品や乗り方…という事例が少なくないそうだ。

「オイルポンプの作動不良、オイルデリバリーパイプの破損、粗悪なオイルの使用、キャブレターの詰まり、無謀運転(高回転を長時間維持するだけではなく、渋滞路におけるダラダラ走行もNG)によるオーバーヒートなど、焼きつきの原因はいろいろありますからね。原因を特定しないかぎり、焼きつきは解消できないんです」

それ以外では、ガソリンタンク内の錆び/フューエルコックの不良を起因とするキャブレターのオーバーフロー/クランクサイドシールの抜け/ウォーターポンプシールの破損/レギュレターレクチファイヤのパンクなどが、RZVでよく聞くトラブルである。

「そういった問題はRZVに限った話ではないでしょう。レギュレターレクチファイヤに関しては、確かに当時のヤマハ車はトラブルが多かったのですが、他の問題の原因はいずれも経年劣化。逆に言うなら、劣化した部品を新品に交換、あるいは適正な状態に整備してやれば、RZVはメンテナンスフリーに近い感覚で楽しめるんです。もっとも現代のバイクとは違って、2ストオイルの量と小サイズのバッテリー状態はマメにチェックする必要がありますけどね」

ヤマハRZV500R

シリンダー&ピストン:オーバーサイズピストンとボーリングで再生可能

【前後気筒で異なるシリンダー】シリンダーは昔ながらの鋳鉄スリーブ入り。左が前方2気筒用で、右が後方2気筒用。構造的にはTZR250(1KT)/RZ250Rとよく似ているものの、だからと言って互換性を考慮した設計ではない。排気ポートに備わるYPVS周辺にはカーボンが溜まりやすい。

【以前とは異なる焼きつきへの対処】焼きついたピストン。かつての同店では1気筒が焼きついたら、バランスを考えて全気筒ピストン交換/ボーリングが基本だったが、最近はお客さんの要望に応じて、損傷した気筒のみを補修するケースもあるそうだ(そもそも入庫時点でピストンサイズがバラバラの個体も多い)。

【信頼性なら純正ピストンが一番】モトプランがストックしている、オーバーサイズの純正新品ピストン。これも左が前方2気筒用で、右が後方2気筒用。なお近年のアフターマーケット市場では、国内外のさまざまなメーカーがRZV500R用のリプロピストンを販売しているが、同店では純正のみを使用。

クランクシャフト:サイドシールとベアリングは消耗部品

クランクシャフトは組み立て式で、同店ではこれまでに数多くのオーバーホール/芯出しを手がけている。消耗品の筆頭はサイドシールとベアリングだが、最近はクランクピンやコンロッドが損傷している個体が多いとのこと。

リードバルブ:他機種用の加工で純正の代替品を製作

装着位置は異なるものの(前:クランクケース、後ろ:シリンダー)、リードバルブ+ハウジングは前後気筒共通。すでに純正(左)は欠品になっているため、モトプランでは他機種の純正を加工して対応している。

キャブレター:RZ/RZ-Rに通じる丸ピストンのVM

キャブレターは丸ピストンのミクニVM26SS。ガスケットとシール類は純正が入手できるが、スロットルバルブやジェットニードルなどは欠品。なおキャブレターに関しては、モトプランでもリプロ品を使うことがある。

フューエルコック:内部のダイヤフラムが劣化

フューエルコックは負圧式。内部のダイヤフラムの劣化は、キャブレターのオーバーフローの原因になる。なお右側キャブレターがオーバーフローすると、燃料がクランクケース内に侵入し、ウォーターハンマー的な現象が発生することがある。

スパークプラグ:ナットの緩みが不調につながる

純正はターミナルナットが一体型のNGK BR8HS(右)。別体型を使ってもいいが、エンジン不調の原因になるターミナルナットの緩みには要注意。モトプランでは一体型の10本セットを5000円で販売している。

オイルポンプ:本体の作動不良とホースの硬化に注意

オイルポンプはミッション上部に設置。内部のチェックバルブに異物が噛み込むと、各部に適正量が供給できなくなる。細身のデリバリーパイプは、経年劣化でカチカチになっている個体が非常に多いそうだ。

ウォーターポンプ:ミッションオイルがコーヒー牛乳化?

ウォーターポンプで問題になるのはインペラの奥・ケースカバーに備わるシール。この部品が損傷すると、冷却水とミッションオイルが混ざってしまうのだ。同様のトラブルは、RZ/RZ-RやTZRでも起こりやすい。

ラジエーターキャップ:耐圧性の低下がオーバーヒートに発展

世間では軽視されることが多いようだが、ラジエターキャップは密閉弁/加圧弁/負圧弁として機能する重要部品。スプリングやラバーが経年劣化し耐圧性が落ちると、オーバーヒートを起こしやすくなる。

リカバリータンクキャップ:新品キャップで漏れを解消

ラジエタークーラントと2ストオイルのリカバリータンクキャップは、経年変化で割れることが多い。この部品を消耗品と考えるモトプランでは、常に純正の新品をストックしている。価格はいずれも3000円。

フロントフォーク:他機種用への変更も考慮

インナーチューブの太さが部位で異なるフォークは、上端にエアバルブとイコライズドチューブ(写真)、下端にはアンチノーズダイブ機構を設置。オーバーホールは可能だが、同店では後年式のヤマハ車用に変更する人が少なくない。

フロントブレーキ:最善策は乗り手によりけり

前後キャリパーは純正部品を用いてオーバーホールすることが可能。ただし制動力向上を意識して、ブレンボや後年式のヤマハ車用4ピストンに変更する人も多い。写真の車両は、ディスクをRZ-R用とし、アンチノーズダイブをキャンセル。

リヤショック:ナイトロンとオーリンズが定番

リヤショックはエンジン下に水平マウント。当時のヤマハはYZR500でも、さまざまなマウント方式を模索していた。純正にこだわるマニアもいるが、モトプランではナイトロンやオーリンズに変更することが多い。

リヤディスク:ウェーブディスクで補修兼カスタム

’80年代前半~中盤の高性能車の定番だった、ベンチレーテッド式の前後ディスクはすでに欠品。モトプランでは代替品として、補修兼カスタムとなるリヤ用ウェーブディスクを準備。価格は1万3200円。

タイヤ:伝統のK300GPを推奨

純正タイヤはバイアスで、F=120/80-16/R=130/80-18というサイズは、当時の基準で考えても特殊な部類。モトプランの推奨品はダンロップK300GPだが、ブリヂストンBT-46にも適合サイズが存在する。

電装パーツ:点火系の代替部品と発電系の対策品

左はモトプランが開発したCDIユニットで、点火時期のマップとYPVSの開閉タイミングを任意で調整することが可能。右はレギュレターレクチファイヤ。47Xという文字が刻まれた上がノーマルで、下が純正の対策品。

メインハーネス:ハイサイドが手がける復刻版を使用

メインハーネスはすでに欠品だが、電装系に特化した活動を行うハイサイドが復刻版を製作。標準仕様のタイプ00は4万7360円で、ヒューズボックスを現代的な構成に改めたタイプ01/02は5万380円。

バッテリー:容量が少な目なのでマメに液量を点検

後方気筒のチャンバーを避けるようにして配置されたバッテリーは、昔ながらの開放式。容量が十分とは言えないので、液量はマメにチェックしたい。なおモトプランでは、MF式やリチウムへの変更は推奨していない。

パーツ流通:絶望的ではないが楽観視はできない

エンジンの構造はRZ-R/TZRに通じる部分があったものの、RZVはほとんどのパーツが専用設計。しかも生産期間が短く、生産台数が少なかったため、部品の供給状況はかなり厳しい。

「ウチの場合は大量の新品/中古部品をストックしているし、他機種の流用という手法も確立しているので、修理で困ったり迷ったりすることはありません。でも一般的な中古車販売店やプライベーターがこのバイクをいじるとなったら、至るところで頭を抱えると思いますよ」(川原氏)

【ガスケットはエンジンオーバーホールの要だが…】エンジンオーバーホールの必需品となるガスケットは、すでに一部が欠品となっている。アフターマーケット市場ではリプロ品が販売されているが、モトプランはできるだけ信頼性に優れる純正品を使用。

【リヤまわりを引き締めるシングルシートカバー】純正オプションのスタイルを忠実に再現した、同店製のFRPシングルシートカバー。ペイント済みのコンプリートキットは7万400円で、ゲルコート仕上げ/パッドなしは2万7500円。

【アンダーカウルは前後長をわずかに延長】現在、モトプランが開発を進めているアンダーカウル。基本的に純正のスタイルを踏襲しているものの、素材はFRPで、前後長はノーマルより長め。装着はもちろんボルトオン。

【色褪せを考慮したデカール】ノーマルルックを愛するRZV500Rオーナーの希望に応えるため、同店は色褪せが少ないシルク印刷でデカールセットを製作。価格は1万1000円で、バラ売りは行なっていない。


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