今も絶大な人気を誇る‘80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末永く楽しんでいくには何に注意し、どんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は’80〜’90年代の2スト全盛時代を象徴する名車・ホンダNSR250R[MC18]を紹介する。
●文:中村友彦 ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●外部サイト:モトールエンジニア
型式は同じMC18でも、’88と’89年型は別物
今になって考えると、’80〜’90年代中盤は2ストロードスポーツが最後の炎を燃やした時代だった。そしてその時代を象徴するモデルと言えば、多くの人が最初に思い出すのは、ホンダが’86年10月に発売したレーサーレプリカ「NSR250R」だろう。
もちろん中には、ヤマハRZやTZR、スズキΓシリーズなどを筆頭に挙げる人がいるに違いない。とはいえ、’80年代中盤から2スト250ccロードスポーツの性能が飛躍的に向上していく中で、販売台数とレース戦績でライバル勢を次々と打ち負かしたNSRに、”絶対的王者”というイメージを抱いている人は少なくないはずだ。
そんなNSRは、MC16(’86〜’87年型)/MC18(’88〜’89年型)/MC21(’90〜’93年型)/MC28(’94〜’00年型)の4種に大別でき、当記事の主役はMC18である。ただし今回の取材に協力してくれたモトールエンジニアの藤田浩一氏によると、型式が同じでも’88年型と’89年型はほとんど別物とのこと。
「見た目は似ていますが、実際は何もかもが異なりますからね。どうして型式を変えなかったのか、個人的には不思議なぐらいです。なお耐久性で2種のMC18を比較するなら、’88年型の方がやや有利でしょう。その原因はクランクシャフトのセンターシールと電装系で、’88年型の場合、センターシールとベアリングが別体式。PGM‐CDIとRCバルブコントローラーも別部品ですが、’89年型以降はいずれも一体型。その背景には小型化や構造の簡素化という意識があったと思いますが、役割が分かれた’88年型のほうがトラブルが起こりにくいんですよ」
現役時代のNSRの耐久性に対する評価は非常に高く、’89年型で落ちたという声はなかったようだし、昨今では高年式車の部品を流用できることが、NSRの美点のひとつと言われている。
「おっしゃる通りです。現役時代のNSRは、速いだけではなく壊れないことでも有名でしたからね。耐久性の問題は経年変化=新車時から30年以上が経過したから出てきた話です。また、高年式車の部品の流用は確かにそうですが、逆に言うならMC18型も、オリジナルのままで良好なコンディションを維持するのはかなり難しくなってきました。だからこれからMC18に乗るには、ある種の覚悟が必要だし、自分がどんな方向でNSRを楽しみたいのかを、購入前にじっくり考える必要があると思います」
競合車を引き離すため、矢継ぎ早に仕様変更を実施
初代NSR250RのMC16は、’85年の世界GP250を制したRS250RWのレプリカとして誕生。もっとも、高めのハンドルや跳ね上がり角度が控え目なサイレンサー、細身のバイアスタイヤ(100/80-17・130/70-18)などを考えると、以降のモデルよりは牧歌的なキャラクター? という気がしないでもない。
’88年型MC18はレーサーとしての資質を高めるべく、車体を中心とした全面刷新を敢行。エンジンの基本構成に変更はないものの、電装系にはキャブレター/RCバルブ/オイルポンプをコンピュータ制御するPGMを採用している。
型式はMC18のままだが、’89年型はフルモデルチェンジと言って差し支えない仕様変更を実施。なお上級仕様となるSPの特徴が、’88年型ではマグテックホイールのみだったのに対して、’89年型では乾式クラッチとダンパー調整式前後ショックが標準となった。
’21中古車相場は60〜150万円:MC21/28よりは安いものの…
ひと昔前は50万円以下で豊富な選択肢が存在したNSR250Rの中古車だが、ここ最近のMC18の主力価格帯は100万円前後。上級仕様のSPの場合は、150万円近辺のプライスタグが珍しくなくなっている。ちなみにMC21/28はさらに高価で、ワークスカラーをまとったSPの極上車を200万円以上で販売するショップも存在。
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