
ことベテランライダーにとって、「2サイクル250cc」という響きは、それだけで胸の奥が熱くなる特別なもの。TZR、NSR、ガンマ…あの弾けるような排気音と、パワーバンドに入った瞬間のインパクトに間違いなくハマっていたかと。もう二度と新車の2ストロークスポーツに出会うことはないだろうと諦めていた令和の今、イタリアからとんでもないマシンが上陸しました。2022年に発表されたVINS Duecinquanta(ヴィンス・ドゥエチンクエンタ)が4年の時を経て遂に日本上陸! 想像通り、単なるノスタルジーに浸るためのバイクではなく、現代の最高峰テクノロジーを注ぎ込み、2ストロークの可能性を未来へと繋ぐ、まったく新しい異次元のスポーツバイクにほかなりませんでした。
●文/写真:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●外部リンク:ヴィンス公式ウェブサイト
フェラーリF1直系の超軽量カーボン構造。先入観は今すぐ捨てるべし
このマシンを開発したのは、元フェラーリF1のエンジニア、ヴィンセンツォ・マッティア。2017年にVINS社を立ち上げつつ、すでに2015年にはオリジナルエンジンをテストしていたといいます。そんなVINSがレーシングカー開発で培われたCFD(数値流体力学)技術や高度なカーボン成型技術を盛り込まないはずがありません。
一般的に「カーボンモノコックフレームなんて、ガチガチに硬くてストリートでは乗りにくいのでは?」と思われるかと。かつて硬いフレームに苦労した経験のあるベテランライダーならなおさらです。
しかし、VINSに関してはその先入観は無用。実際に走り出すと、そのしなやかさに驚かされ、剛性が必要な部分は強固に、しかし路面からのいなしや旋回時に必要な「しなり」は絶妙にコントロールされています。ガソリンを抜いた車両重量わずか112kgという、原付二種並みの驚異的な軽さも手伝って、こちらの意図した通りに、まるで自分の身体が拡張されたかのように曲がってくれるのです。
2022年の誕生発表から、ついに日本に上陸したVINS。じつは開発車そのもので、まだ世界にはこれ1台という超貴重品。
ホサック式フォークとプッシュロッドサスが魅せる、極上の足まわり
ドゥエチンクエンタの個性をさらに際立たせているのが、フロントに採用された「ホサック式モノリシックフォーク(ダブルAアーム式カーボン製フロントフォーク/モノショック)」と、リヤの「プッシュロッド式サスペンション」です。
テレスコピックフォークと違い、ホサック式はブレーキング時にもキャスター角の変化が少なく、フロントが急激にダイブしにくいという特徴があります。コーナーの手前でブレーキを強く残したまま進入しても、フロントが分かりやすくストロークしつつ、最後は奥のほうでじわっと粘ってくれる。この安心感はロードでも絶大でした。
これに連動するリヤのプッシュロッドサスも本当によく動きます。路面を舐めるように追従し、112kgという軽さをさらに助長してくれるようなフットワークを発揮。これなら、ストリートはもちろん、サーキットに持ち込んでも扱いやすく、奥の深い走りを楽しめるはずです。
ちなみに、試乗車の前後ブレーキには「J.Juan(フアン)」製が装着されていました。ご存じの通り、こちらもフィーリングは優秀。ですが、今後の市販モデルではさらなるアップデートとしてブレンボ製に変更されるとのこと。タッチやコントロール性がどこまで研ぎ澄まされるのか、今から楽しみでなりません。
カーボン製モノコックフレームを採用し、ホイールベース1380mmというコンパクトサイズにまとめ、ガソリン抜きの車両重量は112kg!
現代技術で蘇る360度同時爆発の快感と、未来へのポテンシャル
心臓部は、現代の環境基準や技術水準で見直された自社製の249.5cc水冷V型2気筒2ストロークエンジン。特筆すべきは、V型でありながら「360度同時爆発(同爆)」レイアウトを採用していること。交互に爆発する一般的な2気筒とは異なり、2つのシリンダーが同時に爆発することで、路面を強烈に蹴り出すトラクション性能を発揮。火を入れてみれば、排気量のわりに低周波が強調された野太く官能的なエキゾーストノートで、2スト好きでなくとも頬が緩みそう。
今回の試乗車は開発途上の試作車ということもあり、1&2速にはリミッターが設定(8000rpm)されていました。が、そこから上のギヤでパワーバンドに放り込んだ瞬間の盛り上がりとパンチの強さは、まさに私たちが知る「あの2スト」そのもの。いや、現代のインジェクション技術や分離給油システムの最適化によって、当時よりもはるかに洗練され、力強いものに進化しているといっていいでしょう。
このエンジンは発表当時から大幅にアップデートされており、当初の75HPから83HPまで向上しているとのこと。自社設計のインテークポート噴射+リードバルブの構成をはじめ、スロットルボディの開口部を楕円形に変更することで吸入タイミングの最適化など改良の内容は多岐にわたり、それら膨大な情報量はぜひ輸入元の公式ウェブサイトでご確認ください。
3速8000回転を超えてからの痛快さはヘルメットの中で快哉を叫ぶほど。2ストマニアでなくとも、この楽しさは病みつきになるはず。
バイクを愛し、知悉したエンジニアからの熱いメッセージ
このヴィンス・ドゥエチンクエンタをトータルで評価するなら、「軽くて、速くて、意のままに操れる」と、すべてのバイク好き、とりわけ酸いも甘いも噛み分けてきたベテランバイカーにおススメしたくなる1台と言えるでしょう。
何より感動したのは、フレーム、足まわり、エンジン、そのすべてのディテールから「本当にバイクの特性を知り尽くして、バイクが大好きなエンジニアが作ったんだな」とダイレクトに伝わってくること。数値上のスペックを満たすためだけでなく、ライダーが乗ってどれだけエキサイティングになれるか、その一点に全力が注がれています。
2ストの煙とオイルの匂いにまみれて峠を走っていた頃のハングリーな興奮が、最先端の宇宙ロケットのような技術を纏って、今ここに蘇りました。VINSが見せてくれる2ストロークの未来を、期待を込めて追い続けようではありませんか。
イメージギャラリー
| エンジン型式 | VINS製水冷2サイクル90度Vツイン 電子制御燃料噴射 |
| 総排気量 | 249.5cc |
| 最高出力 | 83HP/1万1700rpm |
| シャーシ | カーボンファイバー製モノコック |
| フロントサスペンション | ダブルAアーム式カーボン製フロントフォーク / モノショック |
| リヤサスペンション | プッシュロッド式並行配置モノショック / カーボンファイバー製リアスイングアーム |
| タイヤ(前/後) | 120/70-17 / 150/60-17 |
| 車両重量 | 112kg (ガソリン抜き) |
| 国内希望小売価格(予価) | 860万0000円(消費税/輸送費別) |
| 日本デリバリー時期 | 2027年初頭(量産モデル) |
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