![「コレはマジでスゴいわ…」とんでもない性能を持つ100年前のバイク。「命知らずのモンスター」マシン。[インディアン 8バルブ ツイン ボードトラックレーサー]](https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2026/08/1915-Indian-8-Valve-Twin-Board-Track-Racer_A.jpg)
最高出力や電子制御の進化には驚かされるばかりの最新バイクですが、時計の針を100年ほど巻き戻した1910年代のアメリカには、現代のSSすら生ぬるいと感じさせる、文字通りの「命知らずなモンスター」が存在していました。1915年製のインディアン 8バルブ ツイン ボードトラックレーサー(Indian 8-Valve Twin Board Track Racer)は、当時の技術者が勝利のためにすべてを削ぎ落とし、狂気とも言えるメカニズムを凝縮した、スピードジャンキーたちへの贈り物だったのです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys
1気筒4バルブ、100年前にOHVメカニズムを確立
まずはその心臓部が驚きの塊です。排気量1000ccの空冷V型2気筒エンジンなんですが、なんと1気筒あたり4バルブ、前後合わせて計8つのバルブを持つOHV(オーバーヘッドバルブ)をすでに採用しているのです。現代の価値からみれば、4バルブ化など高効率エンジンの基本中の基本。しかし、当時はまだサイドバルブや、吸気側のみをF型配置にしたエンジンが主流だった時代です。そこにインディアンは、燃焼効率と高回転化を極限まで攻めて、複雑な1気筒4バルブメカニズムをぶち込んだのです。
およそ100年前に作られたインディアン・モーターサイクルの8バルブ・ボードトラックレーサー。
むき出しのプッシュロッドとロッカーアームが、凄まじいメカニカルノイズを響かせながら激しく上下する様は、想像するだけで鳥肌もの。技術の粋を集めたこのパワーユニットは、当時としては規格外の馬力を叩き出し、インディアンを世界最強のレーシングブランドへと押し上げる原動力となったのでした。
「ブレーキなし、サスなし、ギヤなし」削ぎ落とされた狂気のシャシー
しかし、このマシンの本当の恐怖はエンジンではなく、そのシャシー構造。ご覧の通り極限まで軽量化され、前へ突き進むことだけを目的に作られた車体には、現代のバイクにあって当然の装備が「何ひとつ」存在しません。まず、ブレーキが一切なし。減速したいときは、燃料の供給を絞るか、点火スイッチをカットしてエンジンブレーキ(というか、エンジン停止)に頼るしかありません。さらに、サスペンションもなし。リジッドフレームと呼ばれる、鉄パイプを溶接しただけのフレームに、前後ホイールを直結。当然、路面からの衝撃はダイレクトにライダーの肉体を貫くというわけ。
レーサーゆえにコンディションのいいものは滅多になく、フルレストアされたものは1億円の値がついたことも。
極めつけは、クラッチもトランスミッションもないダイレクトドライブ(直結駆動)でしょう。押しがけでエンジンが始動した瞬間から、マシンは猛然と加速を開始し、ライダーはただハンドルにしがみつくことしか許されません。深く垂れ下がったドロップハンドルは、空気抵抗を極限まで減らし、なおかつ超高速域でマシンをねじ伏せるための形状。快適性や安全性という概念は、このバイクの設計図には一切見当たらないのです。
ステップではなく、ギヤ直結のペダルを装備。押しがけ、そして停止時に役立つものと思われます。
時速193kmで板の隙間を駆け抜ける「死のサーキット」
この狂気のレーサーが活躍した舞台が、当時全米で熱狂的な人気を誇った「ボードトラックレース」木板(ウッドプランク)を敷き詰めた、すり鉢状のオーバルコース(最大バンク角は45度以上!)を周回するレースで、土のダートコースよりもグリップが高く、驚異的なハイスピードバトルが可能だったとされています。そこで、このインディアンが記録した最高速は時速193キロ! サスペンションのないバイクで、ささくれ立った木板の上を、ノーヘル(当時は革のキャップのみ)にゴーグル姿の男たちが時速190kmオーバーで密集して走り抜けるというのはスリルを超越して、もはやデスレースに等しいのかと。
タイヤのバーストやマシントラブルは日常茶飯事。転倒すれば、時速190kmで木板の上を滑ることになり、無数の巨大なトゲが衣服を突き破って肉体に突き刺さる。それどころか、コントロールを失ったマシンが観客席に飛び込み、ライダーのみならず多くの観客が巻き添えになる大惨事まで。あまりの危険性から、メディアからは「マーダードローム(殺人競技場)」と揶揄され、1920年代後半には全米でボードトラックレースそのものが禁止されるに至っています。
100年経っても色褪せない「剥き出しの闘争本能」
100年前のレーサーですから、高コンディションで現存するものはごくわずか。市場に出回っているのはほとんどが切った張ったのフルレストアモデルだそう。ですが、今回オークションで見つけたのはオリジナリティが非常に高く、鑑定書もついた貴重品。
自転車みたいなタイヤで190km/hオーバーとは、想像するだけで寒気がしてくるのではないでしょうか。
指値も強気で、4万~6万ドル(約650万~1000万円)とされ、早くも多数のコレクターが熱視線を送っている模様。ともあれ、このインディアンが放つ、生きるか死ぬかの瀬戸際で研ぎ澄まされた凄みは、規制と安全対策に縛られた現代マシンの対極にあるもの。100年以上の時を経てもなお、我々の心を惹きつけてやまない理由が、この削ぎ落とされた鉄の塊には確かに存在しているのではないでしょうか。
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