
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。この記事では、GT380を取り巻く、国産4社の熾烈な競争について振り返る。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦)
’70年代初頭に起こった国産4社の熾烈な戦い
昨今ではほとんど皆無になってしまったけれど、’70〜’90年代の2輪の世界には、フラッグシップと共通の機構を備える350〜400ccが数多く存在した。その嚆矢となったのは、おそらく、トライアンフが’57年に発売した350ccの3TAだ。
既存の350ccの多くが(’80年代前半で消滅したものの、350ccはレースの伝統的な排気量区分で、2輪先進国だった’60年代以前のイギリスでは、多種多様な350ccが販売されていた)、兄貴分の基本設計をできるだけ転用した排気量縮小版だったのに対して、兄貴分と同様のメカニズムを採用しながらも、小型・軽量化とコスト抑制を重視して、数多くの部品を専用設計した3TAは、当時としては画期的な車両だったのである。
そして’70年前後から大排気量車という分野に進出した日本車勢も、トライアンフの手法を踏襲する形で、フラッグシップに通じる遺伝子を備えた新世代の350〜400ccに着手することとなった。
その第一期生が、’71年に登場した2スト3気筒のカワサキ350SSとスズキGT380、’72年にデビューした4スト4気筒のホンダCB350フォアだ。なお当時のヤマハは、4スト2気筒のXS-1を旗艦に据えていたが、同社はXSの技術を転用したモデルではなく、伝統の2ストパラレルツインの最新作として、’70年から350RXの発売を開始していた。
さて、この4台の素性を現代の視点で見つめた場合、いまひとつインパクトが感じにくいのがGTである。クラス初の4スト並列4気筒車となったCB、圧倒的なパワフルさを誇るSS、市販レーサーTRの兄弟車と言うべき構成のRXに対して、GTのわかりやすいセールスポイントは、ラムエアシステムぐらいしかなかったのだから。
ところが意外なことに、もっとも販売が奮わなかったのはCBだった。そのおもな原因は、動力性能の低さと言われたものの(4スト並列2気筒のCB350のほうが速かった)、最高出力/最大トルク発生回転数を、他3車より格段に高い9500/8000rpmとしたことも、不振の一因だったようだ。
その一方で、GTはSSやRXに勝るとも劣らない人気を獲得することとなった。スペックに特筆すべき要素はなかったけれど、このマシンは堅実かつ実直なキャラクターで、多くのライダーから支持を集めたのである。
ちなみに、GT380の乗り味が、’71年の初代から’79年の最終型まで、ほとんど変わらなかったのに対して、カワサキのSSは排気量を400ccに拡大した’74年型で、キャラクターをマイルドな方向にシフト。’73年型で車名をRDに改めたヤマハ製2ストパラレルツインは、スポーティーさに磨きをかけると同時に、扱いやすさにも注力した大幅刷新を行っていた。そういった他社の動向を考えると、当初から堅実で実直な特性だったGT380は、先見の明があったのだろう。
走り写真は最終型B7のカタログの表紙で、左は初期型。内部/裏面で行われるメカニズム解説の内容は年代によって異なるが、ラムエアシステムの優位性を強調している点は全年に共通。
【クラストップの性能を誇った2ストツインのT】左は1965 SUZUKI T20、右は1968 SUZUKI T500。’60年から世界GP参戦を開始したスズキは、レースで得た技術を転用した本格的なスポーツモデルとして、’60年代中盤から2ストツインを搭載するTシリーズを発売。250ccのT20は25ps、500ccのT500は47psを発揮。
スズキならではの堅実かつ実直な特性
前述したように、GTシリーズは堅実かつ実直なキャラクターだったのだが、改めて振り返ると、それはスズキの特徴なのかもしれない。と言うのも、’60年代中盤〜後半の同社の主力機種だったT20やT500、’70年代中盤〜後半に販売されたGS750/1000やRG250Eは、GTシリーズと同様に、派手さはなくとも堅実かつ実直な特性だったし、近年のハヤブサやGSX-R1000、Vストロームなどを考えてみると、最先端技術はライバル勢より控えめだが、やっぱりキャラクターは堅実かつ実直である。
もっとも’80年代のスズキは、相当に革新的で過激なメーカーだった。’80年に発表したGSX1100Sカタナで、世界中のライダーとメーカーのド肝を抜いた同社は、’83年に量産初のアルミフレーム車となるRG250Γを世に送り出し、’85/’86年には既存の日本製ビッグバイクの常識を覆す、耐久レーサーレプリカのGSX-R750/1100を発売しているのだから。さらに言うなら、リトラクタブルヘッドライトのIII/Ⅳ型カタナや、単気筒アメリカンのLS650/400サベージ、東京タワーをイメージしたGSX400Xインパルスなども、強烈なインパクトを感じるモデルだった。
とはいえ、空前のバイクブームを迎えた’80年代は、世界中のメーカーが独創性を強調したモデルを手がけていたのだから、スズキだけが特別だったわけではない。いずれにしても’80年代を除くスズキ車は、ほとんどが堅実かつ実直な特性で、それがメーカーにとっての褒め言葉になるかどうかは微妙なところだが、敷居の高さを感じることなく、誰もが気軽にマシンとの対話を楽しめるという点で、歴代スズキ車は特筆すべき資質を備えているのだ。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
80年代ターボブームを駆け抜けた近未来フォルムと先進装備 XN85は、空冷4気筒エンジンを搭載する「GS650G」をベースにスズキが作り上げたターボチャージャー搭載モデルである。当時の日本ではターボ車[…]
世界初にして国産唯一の市販ロータリーバイク、スズキ「RE-5」の誕生 ロータリーエンジンは、ドイツの発明家フェリクス・ヴァンケル氏が考案した、おむすび型のローター(ピストン)が回転して動力を生み出す方[…]
112馬力の衝撃! リッターマシンを脅かした「最強・最速」のドッカンターボ 1980年代前半、国内4メーカーがしのぎを削った二輪ターボ開発競争。その最後に満を持して登場したカワサキ「750TURBO([…]
四半世紀愛されたファンバイク! 今もライダーの心を揺さぶる「SV650/X」 スズキのミドルスポーツ「SV650 ABS」および「SV650X ABS」は、かつて発表会で『Vツインファンバイク』と謳わ[…]
70年代末の省エネ潮流から生まれた! リッター車に迫る「激レア」ターボバイクの衝撃 オイルショックを経た1970年代末から1980年代初頭にかけて、「排気量を増やさずに高出力を得る」という省エネ時代の[…]
最新の関連記事(スズキ [SUZUKI])
80年代ターボブームを駆け抜けた近未来フォルムと先進装備 XN85は、空冷4気筒エンジンを搭載する「GS650G」をベースにスズキが作り上げたターボチャージャー搭載モデルである。当時の日本ではターボ車[…]
30馬力オーバーの強心臓が切り拓く高速クルージング ハオジュエ(豪爵)の最新鋭ビッグスクーター「TVL350」最大のウリとなるのが、完全新設計の339cc水冷4ストローク4バルブ単気筒エンジンだ。最高[…]
四半世紀愛されたファンバイク! 今もライダーの心を揺さぶる「SV650/X」 スズキのミドルスポーツ「SV650 ABS」および「SV650X ABS」は、かつて発表会で『Vツインファンバイク』と謳わ[…]
「存在がデカすぎた」から死なせた。天才・聖秀吉が物語から消えた真実 輸出仕様のカスタムを完全再現!フロントフェンダー外しに宿る「走り屋の狂気」 ホビージャパンが新たに展開するダイキャスト製1/24完成[…]
日立のトラコンとボッシュのABSを標準装備!原二クラスの枠を破壊した「ADX125 Plus」 中国で発表された新型スクーター「ADX125 Plus」(現地名:ADX Plus)のスペックシートを眺[…]
人気記事ランキング(全体)
80年代ターボブームを駆け抜けた近未来フォルムと先進装備 XN85は、空冷4気筒エンジンを搭載する「GS650G」をベースにスズキが作り上げたターボチャージャー搭載モデルである。当時の日本ではターボ車[…]
クルマでもバイクでもない!街中をスイスイ駆ける超コンパクトEV スマートに、スタイリッシュに街を駆け抜ける。 そんな都市型モビリティの未来を現実のものとしたひとつの答えが、今回オートバックスで受注が始[…]
スタンダードは青玉虫と108万円台の価格を完全に据え置き継続 昨今の物価高により、新車二輪車の価格上昇が常態化するなか、カワサキが2027年モデルの「Z650RS」スタンダードモデル(メタリックオーシ[…]
スーパーカブC125特別仕様車がタイで登場 タイのホンダ系列プレミアムブランド「CUB House」から、上質なカラーリングとレザーシートをまとった特別仕様車「スーパーカブC125 “ザ・クラフティ・[…]
世界初にして国産唯一の市販ロータリーバイク、スズキ「RE-5」の誕生 ロータリーエンジンは、ドイツの発明家フェリクス・ヴァンケル氏が考案した、おむすび型のローター(ピストン)が回転して動力を生み出す方[…]
最新の投稿記事(全体)
クロームメッキメンテの決定版 クロームメッキ部品のサビは、メッキ皮膜に存在する目に見えないほどの小さなクラックや穴から浸入した水分が原因で成長する。そして地中深くから吹き出すマグマのように、ニッケルメ[…]
ヤマハ初期型「RZ250」の復刻外装セットが登場 ワイズギアから、1980年の伝説の名車「RZ250」の流麗なスタイリングを蘇らせる「復刻サイドカバー&テールカウルセット」が登場した。当時のニューパー[…]
シリーズ累計5700万部突破!猫猫の「毒と薬」の魔力が現代の読者を惹きつける 架空の中華風帝国「茘(リー)」を舞台に、後宮の薬師・猫猫(マオマオ)が、美形の宦官・壬氏(ジンシ)に翻弄されつつ、王宮の事[…]
凄みをまとう4気筒ネイキッド!2027年型「Z900」シリーズ カワサキのスーパーネイキッド「Z900」および「Z900 SE」に、モデルイヤー2027年となる最新仕様が登場した。発売予定日は2026[…]
ミリタリー調グラフィックをまとったハイエンドストリートフルフェイス 『X-SNC PILOT』は、戦闘機パイロットのヘルメットから受けたインスピレーションを具現化したグラフィックが特徴だ。帽体の右側頭[…]
- 1
- 2






































