
ニッポンがもっとも熱かった“昭和”という時代。奇跡の復興を遂げつつある国で陣頭指揮を取っていたのは「命がけ」という言葉の意味をリアルに知る男たちだった。彼らの新たな戦いはやがて、日本を世界一の産業国へと導いていく。その熱き魂が生み出した名機たちに、いま一度触れてみよう。この記事ではホンダCB1100Rを取り巻く市販レーサーの歴史について解説する。
●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:山内潤也/YM ARCHIVES ●取材協力:ZEPPAN UEMATSU
3台のレーサーレプリカがブームの基盤を構築
当時は誰もそんなことは言わなかったけれど、’80年前後の大排気量車の世界では、ちょっとしたレーサーレプリカブームが起こっていた。具体的には、’79年にドゥカティ900MHR、’80年にホンダCB1100R、’82年にカワサキZ1000Rが登場したことで、レーサー然としたスタイルに対する注目度がイッキに向上。
もっとも昨今の2輪の世界では、大排気量レーサーレプリカブームの先駆者は、’85年にスズキが発売したGSX-R750、というのが定説なのだが、それ以前に3台の大排気量車がブームの基盤を作っていたのである。
ただし、前述した3台を同列で語ることに違和感を覚える人は少なくないだろう。と言うのも、’78年のマン島TTでホンダワークスのRS1000勢を破って、劇的な勝利を飾ったマイク・ヘイルウッドの愛機を彷彿とさせる900MHRと、エディ・ローソンによる’81年AMAスーパーバイクチャンピオンを記念して生まれたZ1000Rは、あくまでもレーサーの雰囲気を再現した車両で、性能は開発ベースの900SS/Z1000Jと同等だったのである。
その一方で、’76〜’80年のTT-F1と耐久レースで圧倒的な強さを誇った、RCB・RS1000の技術を転用して生まれたCB1100Rは、開発ベースのCB900Fとは一線を画する、市販レーサーと言うべき動力性能を備えていたのだ。
まあでも、これはどちらがいい悪いという話ではない。少量生産ではあったものの、当時のドゥカティ/カワサキは、保安部品を装備しない市販レーサーの900TT1/Z1000Sを生産していたのだから、ドゥカティ/カワサキが2台に分けた資質を、ホンダは1台に盛り込んだと考えるべきだろう。
そしてそういった手法を選択した結果として、900TT1/Z1000Sと比較すると、CB1100Rは中途半端なところがあったのだが、’80年代初頭のホンダはCB-F・RS用として、数多くのエンジンチューニングキットパーツを販売しており、それらを組み込めば、スタンダードモデルを凌駕するパワーを獲得することが可能だった。
なお’84年のホンダは、CB1100Rの後継としてVF1000Rを発売。このモデルも前任車と同様に、市販レーサー的な資質を備える高額車だった。
ただし、’83/’84年から世界各国のプロダクションレースの排気量上限が1000→750ccに変更されており、しかも登場時にはVFよりも速くて安価なカワサキGPZ900Rが販売されていたため、残念ながら革新的な水冷V型4気筒を搭載する新時代の旗艦は、CB1100Rほどの高評価を得ることはできなかった。
多くのライダーが憧れた限定生産の高額車
近年の2輪の歴史を振り返って、オンロード用市販レーサーにもっとも熱心だったメーカーと言ったら、多くの人が思い浮かべるのは、’62年から空冷2ストツインを搭載するTDシリーズの発売を開始し、’73年以降は長きにわたって2スト1/2/4気筒のTZシリーズを販売してきた、ヤマハではないだろうか。
とはいえ、保安部品付きの市販レーサー、プロダクションレース用ホモロゲーションモデルという見方なら、ホンダも相当に熱心だったのである。
と言っても、TD・TZシリーズのようなロングセラーは存在しないのだが、’59年に250ccのCR71(カム駆動はギヤトレイン式!)、’62年に50/125ccのCR110/93(RCレーサー譲りのDOHC4バルブヘッドを採用)を世に送り出したホンダは、’81〜’83年にCB1100Rを販売し、’87/’94年には、同時代のライバル勢より過激で格段に戦闘力が高いモデルとして、ワークスレーサーRVFの技術をダイレクトにフィードバックしたRC30/45を発売しているのだ。
ただし、ここで述べたホンダ車はいずれも少量生産の限定車にして高額車で、普通のライダーが気軽に購入できるモデルではなかった。 もっとも、そういう高嶺の花的な存在だったからこそ、ホンダが総力を結集して生み出した’50〜’90年代の保安部品付き市販レーサーは、現在でも根強い人気を維持しているのかもしれない。
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