
情熱のブランドなどともてはやされるアルファロメオですが、最近はかけ声ばかり聞こえるものの、レースシーンでの姿はとんと見かけません。その昔はF1で勇名を馳せたばかりか、プロトタイプレースやツーリングカーでは破竹の勢いを見せてくれただけに、寂しい限りではあります。近年のF1もパッとしないまま終わってしまい、ファンの気持ちはいくばくなものでしょう。そこで、今回はアルファロメオが無双の活躍を見せたDTMマシンのご紹介。アルファロメオのファンは懐かしさとともに、きっと溜飲も下がるはず。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
イタリアを制したアルファロメオはドイツを目指した
DTM(ドイツツーリングカー選手権、Deutsche Tourenwagen Meistershaft)は、ドイツ発祥のヨーロッパで最も権威あるスポーツカーレースシリーズ。1993年に大幅なレギュレーションの変更、すなわちシルエットカスタム規定が導入され、外観が市販車両の姿をとどめていれば中身はほとんど何でもありというエキサイティングなルールとなったのでした。アルファロメオは前年にイタリア国内のツーリングカーレースを「155GTA」でこてんぱんに制覇しており、「これDTM仕様にしたら、ドイツ車なんて目じゃねーな」とばかりに参戦決定。フィアットグループのレース部門だったアバルトが「アルファコルセ」に名を変えて、155V6 TIを作り上げたのでした。
アバルトの名からもお分かりの通り、155V6 TIはランチア・デルタ・エヴォルツィオーネから受け継いだDNAが色濃く残るもの。全輪駆動システムをはじめ、前後ブレーキバランス調整システムといったメカニズムは、WRCでの開発が進んだもの。また、搭載された2.5リッターの60度V6エンジンは、アルファロメオ・ファンにはお馴染みのブッソ・ユニット。ただし、ボアが93.0mmまで拡大され、ストロークは61.3mmという極端なショートストローク型に作り変えられ、回転数は11500rpmを許したといいます。最大出力は420psと公表されていましたが、コースごとに吸排気系を細かく調整することでそれ以上のパワーが出ていたとする解説者もいます。
1994年のDTMマシンそのもの。アルファコルセが10台だけ製作したもので、クリスチャン・ダナーが実際に闘った由緒あるレーシングカー。
アルファロメオ155のスタイルこそ残っているものの、中身はまったくの別物で、デルタ・インテグラーレの技術も随所に活かされています。
デルタ・インテグラーレの生みの親がプロデュース
しかも、このエンジンを鋼管フレームが組まれたエンジンルームの最下部にマウント。ヘッドカバーの位置がタイヤの頂点よりも低いという異例の搭載方法です。さらに、フロントスカットルに食い込むほどのフロント・ミッドシップとなり、コンパクトな6MTケースが組み合わされることで、ベアシャシーの前後バランスは51:49という理想値を実現。なお、これらの開発をリードしたのが、アバルトでデルタ・インテグラーレの開発ドライバーまで務めた元レーサーのジョルジョ・ピアンタその人。アルファコルセでも代表を務め、DTMでも感情をあらわに出した采配が記憶に残る人物です。
こんな155V6TIが速くないわけがなく、1993年シーズンに投入されると開幕戦から表彰台を独占。その後も全20戦中12勝してメイクスタイトルを獲得すると、ドライバータイトルも10勝を挙げたニコラ・ラリーニの手にわたるというまさに無双のデビューイヤーを飾ったのでした。アルファコルセは1996年まで参戦を続けましたが、今回ご紹介するのは1994年のワークスマシン、サテライトチームのシューベル・レーシングが走らせたマシンそのもの。ファクトリーによる製作は10台のみとされ、F1ドライバーも務めたクリスチャン・ダナーがドライブし、表彰台には2回、ランキングは9位をゲットしています。
カーボン製インダクションポッドに隠れている2.5リッターV6エンジンは、タイヤの高さより低い位置にマウントされています。
由緒あるファクトリーマシンだが1億円は高かった⁉
昨年、オークションに出品された際の指値は60万ユーロ(約1億1000万円)だったものの、落札ならず。由緒あるワークスマシンなのに何故? と思われるかもしれませんが、やはり現代のレーシングカーらしく、エンジン始動でさえ専用のソフトを使う代物で、そこらのレーシングチームでも稼働させるのはなかなか難しいのかと。とはいえ、飾っておくだけにしてはフルレストアの動態保存車だけにもったいない。そのあたりの思惑から、1億円は高いと判断されたのかもしれません。とはいえ、アルファロメオのファンにとっては「ワークスマシンが売れずに残っている」というのは夢や希望をあたえてくれるもの。最近のアルファロメオにがっかりしている方は、ぜひチェックしてみてはいかがでしょう。
ブレーキの前後バランス調整レバー。なお、4WDの前後配分はWRCデルタと同じく33:67の固定とされていました。
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