
スーパーカーブームの頃、マセラティ・ボーラとメラクの違いを理解していたチビッ子はさほど多くなかったのではないでしょうか。ですが、今なら「断トツでV8積んだボーラでしょう」と言い切るかもしれません。なにしろ、最高速はボーラが260km/h、メラクはSSになっても245km/hと、子供だってボーラに軍配を上げるはず。そこで、マセラティが初めて市販したミッドシップスポーツカー「ボーラ」を振り返ってみましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
シトロエンが欲しがったミウラの対抗馬
1966年のジュネーブ・モーターショーで発表されたランボルギーニ・ミウラは世界中に衝撃を与えたこと間違いありません。当時、マセラティを所有していたシトロエンも同様で、名目上の社長だったアドルフォ・オルシに「マセラティでもミッドシップのすごいクルマを作ってみろや」とオーダー。それまで、レーシングカーでこそミッドシップマシンの経験はあったものの、市販車のミッドシップ化はマセラティにとって初体験。オルシが発奮したのか、ビビったのかはどこの歴史家も伝えていません。
それでも、ミウラに遅れること5年、1971年にはボーラの発表・発売にこぎつけています。マセラティ恒例の風にちなんだネーミングで、ボーラはアルプス山脈からの吹きおろしとされています。スタイリングは、マセラティ・ギブリをデザインした若きジョルジェット・ジウジアーロに託されています。ゆえに、ウェッジシェイプはどこか似通っているものの、ミッドシップらしさ、すなわちショートノーズやボリュームあふれるリヤエンド、そしてエンジンルームを見透かせるかのようなグラスエリアは文句なしのカッコよさ。
ランボルギーニ・ミウラの影響からマセラティが挑戦した市販初のミッドシップ「ボーラ」総生産台数は535台とされています。
ジウジアーロによるウェッジシェイプデザインは、ミッドシップを強調するかのようなリヤのグラスエリアが特徴ながら、熱害の原因ともなりました。
ミッドシップ自慢のグラスエリアが仇になる
一方で搭載されるエンジンはギブリの4.7リッターV8を流用しています。最高出力310ps/6000rpm、最大トルク46.9kgm/4200rpmを発生し、最高速度は280km/hを公表。もっとも、さほど新鮮味のあるエンジンではなく、シトロエンが指示した「エレガントな2シーター・ミッドシップ」となるべく、ギブリに比べていくらか中速向けのチューンがなされています。これは、シトロエンが提供したスチールモノコックと、マセラティが製作した鋼管サブフレームのコンバインシャシーによるところもあるかと。端的に言えば、乗り心地を重視した設計であり、ミッドシップ特有のシャープなハンドリングは後回しにされたといっていいでしょう。
ミウラと違い、GTスポーツ的なキャラとして、ボーラはなかなかの好評を得たようです。アメリカでもよく売れたそうですが、V8の発熱量とグラスエリアの相性が悪く、オーバーヒートの多発が報告されています。また、アメリカの排ガス規制に対応したエンジンのデチューン版を経て、1975年には4.9リッターにスケールアップしたことで320ps/5500rpm、49.9kgm/4000rpmへと向上。熱害はそれでも改善しなかったようで、後のメラクではV6にサイズダウンしただけでなく、グラスエリアを廃してエンジンフードの通気を改善しています。
意外なほどレストアしやすいボーラ
さて、中古車市場を覗いてみると生産台数、わずかに530台だったにも関わらず動態保存されているボーラは少なくありません。キチンとレストアされた個体も多く、2000万円も出せばビカビカな1台が手に入りそう。一方で、鉄くずに近いようなタマなら300~400万円でいくつも見つかります。マセラティのV8はそこそこ数多く生産されたこと、シャシーは比較的シンプルなことなどから、ランボやフェラーリよりはレストア作業も楽かもしれません。一方で、シトロエンの介入でハイドロニューマチックによるリトラクタブルライトが導入されたメラクは、聞くところによれば「悪夢の沼」だそう(笑)ここでもまた、ボーラの優勢は変わらないようです。
アメリカで販売されたレストア前のボーラ。マセラティは意外なほどレストア前のサンプルが数多く売り物になっています。
埃だらけですが、丈夫なV8とウェーバーの組み合わせ、そして手を入れやすいフレームワークですから、レストアもさほど困難なものではないでしょう。
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