
1986年といえばバブル真っ只中だった頃。日本には様々なスーパーカー、スペシャルカーが続々と上陸し、環八や芝浦あたりのショールームはさながらモーターショー並みの華やかさだったこと、よもやお忘れではないでしょう。筆者の場合はアートのショールームを頻繁に訪れていたのですが、その日の本命は近くのヤナセにありました。見慣れたブルーブラックでなく、パールホワイトのAMG500 SEC 6.0の輝く存在感は今でも夢に見るほどです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
排気量拡大路線から4バルブヘッド開発へ
1980年代の後半はAMGにとって重要な分岐点だった気がします。もともと、彼らはメルセデスベンツが作ったエンジンをボアアップ、強固な足回りへと改造することに終始していました。が、技術的レベルどうこうではなく「排気量アップに勝るチューニングはない」とのポリシーを貫き、ベース車の魅力を削がないカスタマイズこそ、彼らなりの技であり、流儀だったに違いありません。
そんな素朴ともいえる彼らのチューニングメソッドは1985年に開発した4バルブヘッドから豹変していきます。それまで、メルセデスベンツの5.0リッターV8〈M117〉のボアアップで馬力/トルクを絞り出していたものの、2バルブSOHCでは限界に達していたのです。ちなみに、メルセデスベンツ本家がV8を4バルブDOHC化したのはAMGの4年後、1989年になってからのこと。
この4バルブヘッドを装備した6.0リッターV8エンジンを最初に搭載したのが500SEC6.0でした。砂型アルミシリンダーヘッドによって、理論効率は2倍に膨れ上がり、370から380馬力を発揮するに至っています。また、足回りのセットアップもより充実し、H&Rスプリングに加えて320mmベンチレーテッドローター、ブレンボ製4ピストンキャリパーもSEC6.0が最初のモデルに選ばれています。
1986年モデル、AMGジャパン(ヤナセ)による正規モデル。ブルーブラックでなく、特注のパールホワイトはAMG史上でも激レアモデル。
さらに、それまでは昔ながらのオーバーフェンダーだったものが、ワイドボディと呼ばれる前後ブリスターフェンダーを加えたスタイルへと進化。これは数あるスペシャルカーファクトリーに大きな影響を与え、ひところはあらゆるスペシャルカーがワイドボディ、ブリスターフェンダーを採用したものでした。なお、オーバーフェンダーモデルのことをAMGはジェネレーション1、ワイドボディをジェネレーション2と呼ぶこともあるそうです。
前後のブリスターフェンダー、リップスポイラーはジェネレーション2と呼ばれる後期タイプ。ホワイト一色のグリルもバブリーなことこの上なし。
特注のパールホワイトは日本からの発注
そして、ご承知のようにAMGといえばボディはブルーブラック一択。OZ製3ピースホイールだってブルブラオンリーだったはず。ですが、ここで冒頭のヤナセ、正確に言えばエーエムジージャパンがパールホワイトをオーダー。なにからなにまでパールホワイトは、日本人の顧客による特注だったと伝えられています。バブリーといえばそれまでですが、当時ブルブラでなく、あえてパールホワイトを選んだセンスと気概には脱帽せざるを得ませんね。
通常はブラック一色のインテリアもボディカラーにあわせてコンビネーションへと変更。ベースはご存じレカロのフル電動バケットシート。
以前、オークションに出品された際の資料によれば、製作当初からパールホワイトが選ばれており、別のボディをリペイントしたものではないことがシャシープレートからも証明されています。また、インテリアもボディに合わせてブラックとホワイトのコンビレザー(通常はブラックのみ)が選ばれたほか、フロアマットにはYANASEのマークもしっかり残っています。また、走行距離は7万キロを越えているものの、記録簿は完璧なまでに揃っているとのこと。
控えめなマフラーはAMGがセブリングにオーダーした専用品。エキゾーストノートもさほど凶暴な音ではありませんでした。
ところで、後期モデルとなるAMG560SEC6.0はそれなりに中古市場で流通しており、海外での相場は6000~7000万円ほど。ですが、こちらの500SEC6.0は台数が少ない上に前述のAMG製4バルブヘッドのプレミアもあってか8000万円は下らない模様。まして、特注のパールホワイトとなれば億の大台に乗ることは確か。このように、独立時代のAMGの魅力は輝きを失うことなく、決して価値が下がることはないでしょう。
AMGオリジナルの4本スポークではなく、ナルディ製ステアリングを装着。おそらくは経年劣化から交換したのではないでしょうか。
ホワイトメーターは当時のAMGではオプションとして用意されており、パールホワイトむけの特注品ではありません。
M117の2バルブヘッドに替えて、AMGオリジナルの4バルブヘッドを採用。6リッターの排気量、最大出力は370とも380馬力とも称されます。
OZレーシングのホイールも今では懐かしいAMGらしさを醸しています。デザインをコピーしたホイールが日本でも流行りましたね。
正規モデルを証明するエーエムジージャパンのプラック。国内の整備記録は7万キロ分が完璧に揃っているとのこと。
珍しいAMGのショップステッカー。独立したファクトリー時代のものらしく、住所や電話番号まで記されています。イラストはSLC5.0でしょうか。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。
最新の関連記事(自動車/クルマ)
ワゴンRはイギリスでもバカ売れだった その名もずばりアルケミスト(Alchemist=錬金術師)」と名付けられたカスタムカーは、1998年式のスズキ・ワゴンR。ご存じの通り、スズキが誇る歴史的ヒットモ[…]
レースはやらない社長の信念に反して作成 前述の通り、ボブ・ウォレスがFIAの競技規定付則J項に沿ってミウラを改造したことから始まったイオタ伝説。Jというのはイタリア語に存在しないため、イオタは「存在し[…]
先代のヨーロッパとは似て非なる生い立ち ロータス・エスプリは言うまでもなく名作「ヨーロッパ」の後継モデルとして、1976年に発売されました。ロータス創設者のコーリン・チャップマンは、新時代のスーパーカ[…]
365GTB/4 デイトナ:275GTB/4を引き継ぎつつ大幅にアップデート 1968年のパリ・モーターショーでデビューした365GTB/4は、それまでのフラッグシップモデル、275GTB/4を引き継[…]
シトロエンが欲しがったミウラの対抗馬 1966年のジュネーブ・モーターショーで発表されたランボルギーニ・ミウラは世界中に衝撃を与えたこと間違いありません。当時、マセラティを所有していたシトロエンも同様[…]
人気記事ランキング(全体)
世代を超えて愛されるスーパーカブの魅力とイベント開催概要 スーパーカブの大きな魅力は、親しみやすい造形と実用性の高さが両立している点だ。初代モデルの開発者である本田宗一郎氏がこだわった丸みを帯びたフォ[…]
原付二種の身軽さに、高速道路という自由をプラス 毎日の通勤や街乗りで大活躍する125ccクラス。しかし、休日のツーリングで「自動車専用道路」の看板に道を阻まれ、遠回りを強いられた経験を持つ人は多いはず[…]
まもなく帰ってくるぞ“パパサン”が! 空冷スポーツスター復活。そんな胸躍るニュースが飛び込んできた。米国ハーレーダビッドソンは5月5日(現地時間)、2026年第1四半期決算の発表にて、新たな成長戦略「[…]
「あいつは終盤に追い上げてくる」がライバルにプレッシャー フランスGPウィークですが、日本のMotoGPファンの皆さんが大注目している小椋藍くん(Trackhouse MotoGP Team)について[…]
いつもの退屈な道を、心躍る特別なステージに変える魔法 毎日の通勤や買い物。決まった道をただ往復するだけの時間。実用性だけを求めて選んだスクーターでは、移動はただの「作業」になってしまいがちだ。 そんな[…]
最新の投稿記事(全体)
5/15:ヤマハ「YZF-R9」 1月に登場した70周年記念カラーに続いて、クロスプレーン3気筒エンジンを搭載した新型YZF-R7の通常カラーが登場。価格は149万6000円。2026年モデルは歴代最[…]
排気量拡大路線から4バルブヘッド開発へ 1980年代の後半はAMGにとって重要な分岐点だった気がします。もともと、彼らはメルセデスベンツが作ったエンジンをボアアップ、強固な足回りへと改造することに終始[…]
長時間の高速移動で悩まされる風圧 休日のツーリング。目的地に着く頃には、高速道路での強烈な風圧で首や肩が悲鳴を上げている。そんな経験を持つライダーも多いはず。かといって、風を防ぐために過激な前傾姿勢を[…]
夏の厳しい日差しや暑さに悩むライダーへ。 強い日差しやヘルメット内にこもる熱気は、長時間のライディングにおいて体力を奪う大きな要因となる。そうした不満を解消すべく、快適性を徹底的に追求して生まれたのが[…]
走れば走るほど増える維持費、なるべく抑えたい バイク乗りを常に悩ませるのが、じわじわと財布を削り取るガソリン代と維持費の壁だ。日々の通勤やちょっとした買い物で距離が伸びれば伸びるほど、その出費は馬鹿に[…]
- 1
- 2










































