
ピニンファリーナやベルトーネといったカロッツェリアは、スーパーカー世代にはお馴染みでしょうが、ザガートは日産オーテックやトヨタとのコラボによって意外なほど日本での認知が高く、先の2社に劣らぬ人気があるようです。無論、アストンマーチンDB4GTザガートや、アルファロメオSZといったモデルの人気も鉄板ですが、ランチアとのマリアージュという希少性から、ハイエナ・ザガートこそ日本での一番人気といったら大げさでしょうか。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
ランチアとザガートの仲は1950年代から
ランチアとザガートのコラボレーションは1950年代には確立していました。アッピアGTザガートが嚆矢となり、フラミニア(1964)、フルヴィア(1967)などが後を追っています。が、70年代からザガートは次第にランチアから離れ、アルファロメオやアストンマーチンといったメーカーとの仕事がメインストリームに。これらは、とりもなおさずチーフデザイナーだったエルコレ・スパーダ氏の腕前によるところであり、彼なしではザガートの名声は今の半分にも及ばなかったはず。
そして、1990年代を迎えたころ、ランチアはデルタの大成功によって最後の黄金期(ざっくり2013~2022年は事実上のブランド休止状態)が盛り上がっていました。すると、デルタのエンジン&シャシーを使ったザガート作品ができないものか、と各方面から打診があったのだとか。中でも、当時ザガート・ジャパンの代表だったF氏からのラブコールは熱烈で、スパーダ氏を伴って何度となくランチア社を訪れたとのこと。ちなみに、F氏はアルファロメオSZ(ES30)の誕生にも深く関わっており、ベースとなった75ツインスパークのシャシー一式をアルファロメオから買い取ったとも噂される人物です。
1992年にザガート創立75周年記念モデルとして発表されたランチア・ハイエナ・ザガート。ルーフ形状にザガートのアイコン、ダブルバブルが見て取れます。
デザインはやっぱりエルコレ・スパーダだった
ちょうどそのころ、オランダの豪商ポール・コートも似たようなことを考えていて、お抱えアーティストのナーニ・テデスキにラフスケッチまで描かせていました。で、これを見たランチア首脳陣が、ちょくちょく訪れていた「エルコレに仕上げさせればもっとカッコよくなるだろ」とザガートに進言。実際の製作はオランダのコートが大半を担い、半完成品をザガートが仕上げるという方法が採られています。
しかし、ハイエナの製作はランチアやコートが考えるほど簡単なものではありませんでした。デルタのシャシーを流用することや、アルミによるメインボディまではよかったものの、意外なことに内装でもって躓いたのだそうです。ハイエナはスカットルからAピラーを含めたダッシュ全体をカーボンとしたのですが、大きく、しかも複雑な形状で、とてもザガートには作れませんでした。そこで、パリに本拠を置く航空宇宙素材のエキスパート「MOC社」に外注。その甲斐あって、ダッシュボードはなんと2.5kgという軽さ(デルタのノーマルは17kg)に仕上がっています。なお、ハイエナの車重は1200kgと、デルタ・インテグラーレから150㎏の軽量化を実現しています。
ダッシュボードからAピラーに至るまでパリのMOC製カーボンパーツがおごられています。パネル上部もダブルバブルになっていることもご注目。
ベースのデルタから40psのパワーアップ⁉
搭載されるエンジンもデルタからの流用ですが、制御系マップをはじめ、フェーエル・プレッシャー、ブースト圧を変更し、デルタの210psから250psまでチューンナップしたとされますが、テストデータが存在しないので鵜呑みにはできないかと。なにしろ、イタリアのカタログデータほどあてにならないものはありませんからね(笑)それでも、WRCのデルタやデルタS4が使っていたラガッツォーニのエキゾストシステム(インコネル製という噂)を採用するなど、一応やることはやっているといった感じでしょうか。
エボⅡのエンジンをあれこれチューニングして、40psのエキストラパワーをゲット。最高速は230km/h程度というのが定説です。
そんなハイエナですが、わずか24台しか生産されていません(25台という説もあり)当初、ランチア(とコート)からは500台、発売時に75周年を迎えたザガートは75台などと大風呂敷を広げていたのですが、まったくもってラテン気質の楽観としか言いようがありません。もっとも、パリのカーボンが納期や価格で足を引っ張ったとの説というか言い訳もあります。いずれにしろ、ランチアとザガート双方のプロジェクトだったわりには寂しい台数に違いありません。
そんな希少性がプレミアを呼んだのか、アメリカでオークションに出品された24台中18台目のハイエナは25万ドル(約4000万円)近くの値段で落札されています。出荷時はモンツァレッドだったものをベネツィアブルーメタリックに替えられたほか、デルタ・エヴォルツィオーネⅡのホイールを装着。どうやら、レストアの際にショック一式も変更したようです。ザガート創立75周年の記念モデルとしては、比較的安価な気がしますが、ザガートファンの皆さんはどうお考えでしょうか。
ドアパネルのインナーもカーボン製で、重さ1.5kgしかないとのこと。こちらもパリのMOC製パーツです。
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