「見た目はエレガントなデザインだが…」一皮めくるととんでもない性能! 63年前に作られた究極のストリート・レーサー[メルセデス・ベンツ 300SL]を紐解く

「見た目はエレガントなデザインだが…」一皮めくるととんでもない性能! 63年前に作られた究極のストリート・レーサー[メルセデス・ベンツ 300SL]を紐解く

スポーツカーの歴史に燦然と輝くメルセデス・ベンツ300SLですが、たいていの方が思い浮かべるのは空に向かって跳ね上がるガルウィングドアかと。ル・マンを制したレーシングカーの血統を色濃く継いだクーペは、間違いなく伝説的な名車に違いありません。しかし、クーペの誕生から3年後に登場した300SLロードスターもまたメルセデス・ベンツが生み出した究極の完成度を誇るマシン。彼らの底力、そして熟成への執念がパンパンに詰まった1台をご紹介しましょう。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys

アイコンの影にあった、レーシングカーゆえの苦悩

そもそも、なぜクーペ版はあの特徴的なガルウィングドアを採用しなければならなかったのか。それは、軽量かつ強固な「スペースフレーム構造」という、当時の最先端レーシングテクノロジーを採用した結果でした。車体を囲うように張り巡らされたサイドシル(乗り降りする足元)が極端に高くなってしまい、通常のドアを横に開くスペースが物理的に存在しなかったのです。

ところが、実際にデリバリーが始まると、オーナーたちからは容赦のない不満の声が上がりました。「窓が開かないから風が入らない」「そもそも、乗り降りが大変すぎてエレガントじゃない」当時の米国における有力インポーターであり、300 SLを市販化へと導いたフィクサー、マックス・ホフマンもまた、メルセデス本社へ「最高の性能はそのままに、誰もが優雅に風を楽しめるオープンモデルを作ってくれ」と強くリクエスト。それが、1957年に発表された「300 SL ロードスター」の誕生へと繋がっていくのです。

1957年に登場して1963年まで生産された300SLロードスター。屋根が省かれ、普通のドアになった以上の進化を遂げています。

クーペは窓ガラスが開かず「サウナ」状態だったとされていますが、ロードスターはご覧の通りの解放感あふれるもの。

骨格の再設計と、足まわりの革新がもたらした「洗練」

オープンカーを作るために、ただクーペの屋根を切り落とすだけ——そんな安易な妥協を、当時のメルセデスの技術陣が許すはずもありません。彼らが最初に行ったのは、300 SLの命でもあるスペースフレームの完全な再設計でした。剛性を一切落とすことなく、サイドシルの位置を大幅に引き下げる。これは、実質的に新しいマシンを一から開発することに等しいものでした。また、エンジニアたちはクーペ時代の最大の弱点にもメスを入れ、オーバーステア傾向にあったリヤサスを全面改良しています。

ガルウィングのクーペが有名ですが、フレームや足回りの完成度はロードスターが上回るとされています。

その結果、ロードスターではサスペンションのピボット位置を低く下げた「ローピボット・スイングアクスル」となり、誰もが安心してアクセルを踏み込める、盤石の直進安定性とマイルドなハンドリングを手に入れたのでした。

クーペのタイヤは6.50-15だったのに対し、足回りが改善されたロードスターは6.70-15へとサイズアップされています。

時代を先取りした、世界初の「直噴」エンジン

長いボンネットを開けると、そこには3リッター直列6気筒SOHCエンジン(M198)が左に45度傾けて搭載されています。言うまでもなく、ボンネットを低く抑えて空気抵抗を減らすための工夫です。そして、M198のハイライトはなんといっても筒内燃料直接噴射(ボッシュ製メカニカルインジェクション)。サーキット直系の技術によって、最高出力は当時としては驚異的な215馬力を発揮し、最高速度は250km/hをマークするに至っています。なお、今回ご紹介している1963年モデルでは鋳鉄ブロックからアルミブロックへと変更され、前輪荷重が減ったことでより鋭い回頭性を得たとされています。

3リッター直6エンジンは世界初の直噴システムを備えつつ、左に45度傾けて搭載し、ボンネット高を下げる工夫がなされています。

ちなみに、ル・マンのマシンを監督したルドルフ・ウーレンハウトはレーサーを凌ぐ腕前で有名ですが、ロードスターの運動性能には自信をもっていたようで「SLR(ル・マンレーサー)より簡単に速く走れる」と公言してはばからなかったといいます。

最終型1963年モデルという「別格」の価値

このように、ガルウィングよりも「分かっている人むけ」なロードスターですから、希少性もあいまってオークションでは鉄板の人気を誇ります。まして、最終型となる1963年モデルは前述のアルミブロックや、4輪ディスクブレーキの装備など完成度が増しているため、瞬殺即売となること間違いありません。指し値は130万~150万ドル(約2億1000万~2億4000万円)と発表され、落札価格は大いに上回ることも予想されています。

今回の出品車両には新車当時のオプションだった専用ケースが付属。これもまたプレミア性を高める要因です。

ル・マンを制したスペースフレーム、世界初の直噴システム、そしてアルミブロックとディスクブレーキで武装した足まわり。その美しいボディの皮を一枚めくれば、そこに現れるのは、1960年代における「最速にして究極のストリート・レーサー」そのもの。たとえ、指し値の倍額となっても驚くものではないでしょう。

丸いメーターに挟まれた縦型メーターというレイアウトは50~60年代にメルセデス・ベンツが好んで用いたもの。

前後のスライドのみ調節可能なバケットシート。実は運転席のほうが助手席よりいくらか細身に設計されています。

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