
F1はいつの時代も胸アツなレースですが、とりわけ自由奔放だった80年代は強烈な印象を残してくれました。なにしろ、出力無制限のターボエンジンは予選時に1300馬力を発生し、アクティブサスやトラクションコントロールといったデバイスも一切なし。文字通り、毎レースが死と隣り合わせだったかと。そんなシーンにすい星のごとく現れたアイルトン・セナの激走によって、F1はよりスペクタクルなものへと昇華しました。そんなセナが初めてエースドライバーとして駆ったマシン、ロータス98Tのレースカーをご紹介しましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
1300馬力は予選ごとにタービン交換がマスト
チーム・ロータスが1986年のF1に投入した98Tは、前年度にNo.2ドライバーだったセナを初めて優勝に導いた97Tを改良して作られたマシン。サスペンションやタイヤに変更はなかったものの、カーボンモノコックのボディは燃料タンクの小型化に伴っていくらかダウンサイジングされています。
また、カーボン素材でサンドイッチされるアルミのハニカム構造も進化して、より剛性の高いモノコックを実現。ハンドリング、ダウンフォースともにトップレベルの戦闘力だったと評されています。
エンジンはルノー製1.5リッターV6をキャリーオーバーしていますが、前年のEF15から派生したEF15B、EF15Cが搭載された記録もあります。前述の通り、予選時には1300馬力を発揮したとされていますが、これは4.0バールもの高圧をかけ、予選しかもたないタービンとエンジンによってなされたもの。
メカニックによれば、予選ごとに交換が必要で、アスベストを含んだ分厚い手袋をしても熱くて大変な作業だったとか。
なお、レース本番においては900馬力ほどに抑えて耐久性を確保していたとのこと。ただし、98Tでは瞬間的なブーストアップが可能だったようで、コクピットに調整ダイヤルが残されています。
F1黄金期ともいわれる1986年にセナが乗ったロータス98T。指値15~19億の値段が付いた売り物です。
ルノー製1.5リッターV6ターボを搭載し、予選時は4.0バールまで過給されて1300馬力を発揮したという伝説的なF1カー。
セナが初めてナンバーワンドライバーとして操縦
EF15BはルノーF1エンジンのチーフエンジニア、ベルナール・デュドの傑作といわれ、従来のバルブスプリングを圧縮空気式バルブトレインに替え、軽量化とサージ防止を実現。
また、現在では常識的なスパークプラグごとに点火コイルを装着するなどして、前年の11000rpmから12500rpmまでマージンを確保しています。
なお、デュドが作ったV6ターボエンジンは1978年のル・マンでルノー・アルピーヌ・A442Bに優勝をもたらしたことでも有名です。
この年からNo.1ドライバーだったエリオ・デ・アンジェリスがチームを抜け、晴れてNo.1の座についたセナ。へレスとデトロイトで優勝したほか、8回のポールポジションと表彰台に6回上った結果、ドライバーズランキング4位に食い込むことに。
なお、チーム・ロータスのコンストラクターズランキングは3位に収まり、これはチームメイトだったジョニー・ダンフリースの貢献も無視できないでしょう。ちなみに、セナは16戦中リタイアが6度あり、そのうち2戦はポールポジションを獲ったレースであり、場合によってはチャンピオンの可能性も十分にあったのです。
今のマシンとは違った見え方のコクピット。荒っぽいカーボンモノコックや、シンプルなメーター、シフトレバーなど当時のF1ならでは。
ベルギー、スパ・フランコルシャンを激走するセナとロータス98T。レースでは2位をゲットしています。
86シーズン、最初の優勝はスペイン・へレスでのこと。ちなみに、シーズン中6度のリタイアはすべてメカトラブルで、セナ自身のミスは皆無だったと言われます。
本戦でセナが闘ったマシンそのもの
さて、オークションに出品されている98Tは4台作られたマシンのうちの1台で、シャーシナンバー03が刻まれたセナの本戦用マシン。
長くチームが所有していたとのことですが、コレクターの元に譲られた後、あらためて世界的に有名なレストアラー、ポール・ランザンテによってフルレストアが施されています。
見た目を美しくしなおすだけでなく、クラシックF1レースで存分に戦える状態というのも胸が高まるポイントです。
当然、指値も950万~1200万ドル(約15億~19億円)と国宝並みのお値段。もっとも、この先二度と巡り合えないようなマシンですから、瞬殺で売れたとしてもさして驚きはありません。
設計は83年からチームに加わったジェラール・デュカルージュ。前年の97TでセナはF1初優勝を遂げていますが、そちらもデュカルージュの設計でした。
左は回転計で、右は過給圧のメーターで、5.0バールまでスケールがあるのが驚きです。また、右下にはブースト調整用ダイヤルも見えます。
マクラーレンのアラン・プロストを従えたシーンは、セナが2勝目を挙げたデトロイトの市街地コース。
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