
ヴェクターW8はアメリカ製スーパーカーとして有名ですが、その後継モデルとして作られたWX3はさほど知られていません。コンセプトモデルとして、クーペとロードスターが1台ずつ作れられただけなので仕方ないかもしれませんが、埋もれたままにしておくにはもったいないほどのクルマです。創始者にして設計者のジェリー・ウィーガードのド根性がカタチになったような「WX3ロードスター」をご紹介しましょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
航空宇宙技術がてんこ盛りのアメリカンスーパーカー
アメフェスなどのアメ車系イベントで、ヴェクターを目にしたことがある方は少なくないでしょう。ウェッジシェイプの車高短、巨大なリヤウイング、しかもV8ツインターボ搭載とくれば、中二病でなくともゾクゾクしてきます。
このヴェクターW8という50台ほどしか生産されなかったクルマのデビューは1989年のこと。なお、車名のWはウィーガードの頭文字で、数字は8気筒を表したという説が有力です(W8の前には試作車のW2があったものの、その間を埋めるモデルは登場していません)。
ヴェクターW8はアメリカ製スーパーカーというタイトルに加え、航空宇宙産業からのフィードバックが異様に多いクルマと称されています。
たとえば、ポップリベットと航空宇宙エポキシを用いたセミモノコックシャーシや、アルミ複合ハニカム、航空機品質のシートアルミ、鋼管で作られるなど、F1や戦闘機にほど近い構成となっているのです。
それゆえ、当時としても高価格で、45万ドルとも50万ドルともいわれています(当時レートで6000万~6750万円程度)。なので、テニスの世界チャンピオンだったアンドレ・アガシといった有名人がオーナーリストに名を連ねているのも納得かと。
アメリカンスーパーカー、ヴェクターで1台だけ製作されたロードスターモデル。WX3-Rは自走可能なコンセプトモデルとして誕生しました。
原型は大成功したW8に通じるものの、より車高が下げられ、最高速の理論値は385km/hを超える設計とされました。
裁判沙汰から裸一貫で完成させたコンセプトカー
こうしたW8の成功から、ウィーガードは後継モデルのWX3を開発することに。ですが、インドネシアのスハルト大統領の息子が経営していたメガテック社の出資を受けてしまったことから、ウィーガードは裁判闘争に巻き込まれてしまいます。
詳細は割愛しますが、それまでの技術者や研究施設を取り上げられてしまい、残ったのは組み立て途中の試作車のみだったとか。それでも、ウィーガードは独力とささやかな助力でもってWX3を自走可能なコンセプトモデルに作り上げたのでした。
WX3はクーペと、(商標権の関係から)アブテックのペットネームがつけられたロードスターの2台が作られています。クーペは1992年、ロードスターは1993年のジュネーブショーで発表され、いずれも数台の予約を受けたという説もあります。
ちなみに、ロードスターは出品時にオドメーターが8万5000キロの距離を刻んでいたのですが、これはウィーガードの茶目っ気であり、それぐらいの耐久性があるというアピールだったとされています。
なお、クーペはアメリカンモータースポーツの有名チューナー、ローデック製V8ツインターボで1200馬力を搭載し、これまた大きなトピックとなった模様。
W8と同じく、シボレーのビッグブロック、6.0リッターV8ツインターボを搭載。およそ625馬力を発生しています。
航空宇宙素材が多用されているヴェクターだけに、遮熱フィルムもNASA御用達のゴールド仕様。アポロ世代はこういうのにクラクラするはず。
理論値は383km/hオーバーのWX3ロードスター
一方のロードスターはシボレーのビッグブロックにタービン2丁掛けと、W8に等しいスペックとされています。6.0リッター、アルミブロックから、およそ625馬力を出したとのことですが、1620kgの車重には十分以上のパフォーマンスを与えていたのではないでしょうか。
ちなみに、W8の最高速は3ATの理論値が383km/h、実測は350km/hとソルトレイクで記録されています。クーペよりも車高とウィングの高さを下げたロードスターであれば、ほぼ同等か、わずかに上回るスピードが出たかもしれません。
世界で唯一のヴェクター・ロードスターですが、残念ながら製造されたのはこの試作モデル1台のみ。その価値は計り知れないと思っていたところ、130~150万ドルという指値でオークションに出品されていました。
2億円オーバーという値段は、アメリカのエンツォ・フェラーリと呼ばれたウィーガードにとって、どう映ったのでしょう。2021年に惜しくもこの世を去ってしまったウィーガードには尋ねるすべもありません。
ガルウィングドアは面積の半分以上が透明なもの。極端に低い車高で、視野を確保するためのデザインでしょう。
スタンダード仕様のヴェクターW8は20台未満とも、50台ともいわれる少量生産。ロードスター同様、レアなクルマに違いありません。
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