「一見地味だが…狂気のファクトリーチューン」ちょっと引くほどの執念を感じるネオクラ ポルシェ。市場が血眼になって探す[911ターボ X50]の存在

「一見地味だが…狂気のファクトリーチューン」ちょっと引くほどの執念を感じるネオクラ ポルシェ。市場が血眼になって探す[911ターボ X50]の存在

ポルシェの歴史において、水冷化という激震をもたらした996世代。空冷原理主義者からは「涙目」だの「コストダウン」だのと言われたりもしましたが、こと「ターボ」に関しては誰も文句のつけようがないほどの超一級グランドツアラーに仕上がっていました。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotherbys

+35馬力のために、ハードウェアを全替えするポルシェの執念

3.6リッターの水平対向6気筒ツインターボ、いわゆるレンシュポルトの血筋「メッツガーユニット」を搭載し、415馬力を発揮。これだけでも当時のスーパーカーを震え上がらせるには十分すぎる性能でした。が、当時のポルシェ・エクスクルーシブ(特注部門)のエンジニアたちは、それだけで満足するようなタマじゃありません。

「これで満足じゃないよね?」とばかりに、新車注文時のみ選択できるファクトリーチューニングパッケージ、コード「X50」と呼ばれる有名なオプションを用意したのです。のちのカタログモデル「ターボS」の礎となり、現代のネオクラシック市場でも血眼になって探されている、極めてレアなパワーアップキット。

2002年モデル、996世代のターボに用意されていた硬派で強烈なオプションがX50と呼ばれるパワーアップキット。

ファクトリーオプションだったX50は、ざっくり200万~250万円と数あるメニューの中でも最高価格帯に挙げられています。

もっとも、現代の感覚だと「どうせECUのデータをチョイチョイと書き換えて、ブースト圧を上げただけでしょ?」なんて思いがち。社外のチューニングショップならいざ知らず、そこは頑固一徹なバイザッハのエンジニアたち。安易なブーストアップでエンジンを使い捨てるような真似は絶対にしません。

ノーマルの415馬力を450馬力へ向上させ、最大トルクも57.1kg·mから63.2kg·mへと引き上げるために、彼らは「ハードウェアの総入れ替え」という荒業に踏み切ったのでした。例えば、タービンを、ベース車のK16型から、「911 GT2」と同じK24タービンへと変更。これに伴い、強烈な過給圧に耐え、吸気温度をきちんと下げるためにインタークーラーも拡大。

996と聞くとインターミディエイトシャフトの破損を想像する方もいますが、ターボはクランクケースが従来品なので問題ありません。

もちろん、排気系も抜かりはなく、排気効率を極限まで高めたエキゾーストシステムに、クアッド(4本出し)ルックの専用テールパイプを装備。無論、この強大なトルクの爆発に耐えるために、トランスミッション(6速MTおよび5速ティプトロニックS)の内部ギアやクラッチも強化仕様に仕立て直し。これをカスタマーカウンター専用のラインで1台ずつ組み上げていたというのだから、恐れ入るというか、ちょっと引くほどの執念ではあります。

カーボンローターこそ装備していませんが、ご覧の赤キャリパーで効きに不満がある方は滅多にいないはず。

当時の価格はクルマ1台分という桁外れ

当時の日本国内でのオプション価格は時期や仕様によっても前後しますが、およそ200万〜250万円とのこと。ベースとなる911ターボ自体の車両本体価格が1700万円前後だった時代ですから、家一軒買えるような総額の上に、さらに「国産ミニバンが1台買えそうなオプション代」をサラッと上乗せできる、一握りの富豪やスピード狂だけが許された特権だったわけです。

それでも、このX50パッケージがあまりにも好評だったため、ポルシェは996型のモデルライフ最終盤(2005年)になって、このX50のメカニズムをあらかじめ標準装備した「911ターボS」をカタログモデルとして投入することになります。つまり、X50はターボSの「遺伝子そのもの」であり、先行開発プロトタイプのようなロマンが詰まっているのです。もしも、フロントフードの裏側(あるいは取扱説明書の巻頭ステッカー)に貼られたコーションシートを覗いた時に『X50』の3文字を見つけたら、それは大当たりに違いありません。

フロントフード裏に貼られたオプションレシートにX50の文字があります。レアなオプションなので、中古車についていたら相当ラッキーです。

実際、オークションに出品されたX50物は、一般的なターボよりも相場は高く、12万5000~17万5000ドル(約2000万~2800万円)の予想落札価格が掲げられています。コンディションを考えれば、さらに高値となること想像に難くありません。ともあれ、日常の快適性を1ミリも損なうことなく、右足ひとつで水冷黎明期の“狂気”を呼び覚ますファクトリーチューン。これだから、一見地味に見えるネオクラシック・ポルシェのオプション深掘りはやめられないのです。

涙目などと言われがちな996世代ですが、ことターボに関してバイザッハはいつも以上にいい仕事をしています。

インテリアはフルレザー、カーボントリムあたりがターボの標準的なパッケージ。

996ターボから採用された電動リヤウイングは上羽と下羽の二重構造。小ぶりながら、空力性能は十分に発揮しています。

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