
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第167回は復活の勝利を挙げたマルケス選手の話題を皮切りに、2027年から大きく様変わりするMotoGPのレギュレーションと急激に進む世代交代の波を徹底考察。さらにライバルたちも警戒する小椋藍選手の手強さについて深く掘り下げます。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin
来季は「マシン」も「タイヤ」も「ライダー」も大シャッフル
来シーズンのMotoGPは大きく様変わりします。エンジンの排気量が1000ccから850ccになり、タイヤはミシュランからピレリへ。空力パーツは制限されるなど、かなりのビッグチェンジです。そしてライダーラインナップも大幅にシャッフル! こちらもかなり興味深いですね。
現時点で公式に2名のライダーがアナウンスされているファクトリーチームは、ドゥカティ(マルク・マルケス選手/ペドロ・アコスタ選手)、アプリリア(マルコ・ベゼッキ選手/ペドロ・アコスタ選手)、ヤマハ(ホルヘ・マルティン選手/小椋藍選手)、KTM(アレックス・マルケス選手/ファビオ・ディジャントニオ選手)。こうして見ると、ファクトリーチーム勢は経験と実績のあるライダーをしっかりと押さえていることが分かります。
日本人モータースポーツファンとして注目するのは、やはりヤマハ・ファクトリーのマルティン選手と小椋選手。ライダーとしての実力は十分なだけに、新しいレギュレーションで作られたマシンがどれだけ仕上げられるかが気になります。ふたりともアグレッシブなライダーなので、「予想以上の好成績を挙げてくれないか」と期待してしまいます。
小椋選手を「アグレッシブ」と言うと、ちょっと意外かもしれません。でも、彼の走りは結構熱いですよ。冷静にレースを組み立てているように見えるかもしれませんが、世界のとんでもないライダーたちを相手取っているのですから、たぶんそんな余裕はないと思います。
クールデビルは誤解?走っている最中は「無」だった
ちなみに僕も現役時代は「クールデビル」と呼ばれていましたが、自分としては「熱く走ってるんだけどなぁ……」と、心外でした(笑)。メディア対応など、多少尖っていた部分はあったかもしれませんが、チームスタッフとはたびたび一緒に食事をしていたし、日本では上下関係もキッチリ守っていたし(笑)、全然クールなタイプではなかったと思います。
実際のところ、レース中はいっぱいいっぱいです。僕の場合、いろいろ考えるのはレースが始まる前。履くタイヤ、マシンやコースのコンディション、気候……、いろいろシミレーションしますが、いざスタートしてしまえばライバルの動き次第というところもあって、そうそう考えてはいられません。少なくとも、ライディングの操作という点では、「無」。考えて操作していては、とてもじゃないけど間に合いません。
バトルになった時は、「どこで抜こうかな」ぐらいの大ざっぱなことは考えます。でも、「どこのコーナーのブレーキングを何m遅らせよう」とか、「あのコーナーの立ち上がりでスロットルを開けるタイミングを何秒早めよう」といった具合に、正確な操作をイメージしているわけではありません。相手がどう動くのかも分からない中、何も考えなくてもとっさに体が動く感じです。
ただ、たくさんのことを感じてはいました。主にはタイヤのグリップの変化ですが、エンジンがタレてきたか、路面グリップはどうかなど、いろいろ感じて、そのつど体が反応して対応するんです。実際の状況、自分のセンサーが感じたもの、そして反応が正しければいい結果が残せるし、どこかにズレがあればうまく行きません。難しいんです。
10歳若返るMotoGP!小椋藍が担う巨大な意味
さて、話はだいぶそれてしまいましたが(笑)、来年のMotoGPライダーラインナップに話題を戻しましょう。マシンが大きくチェンジするのと同時に、ライダーも入れ替わりが激しそうです。
来年は、5人がMotoGPを去り、少なくとも3人がMoto2からMotoGPにステップアップすることが決まっています。MotoGPを去るのは、ブラッド・ビンダー選手(31歳)、ジャック・ミラー選手(31歳)、フランク・モルビデリ選手(31歳)、マーベリック・ビニャーレス選手(31歳)、そしてアレックス・リンス選手(30歳)。見事に全員30代ですね……。
このうち、ビニャーレス選手を除く4選手がスーパーバイク世界選手権(SBK)にスイッチするようで、SBKもずいぶん華やかになりそうです。
一方、現時点でMoto2からMotoGPへのステップアップが決まっているのは、ダニエル・オルガド選手(21歳)、ダビド・アロンソ選手(20歳)、イサン・ゲバラ選手(22歳)。MotoGPアウト、MotoGPインの各選手を比べると、10歳近くの若返りです。KTM Tech3入りがウワサされているセナ・アギウスも21歳ですからね。
エネルギッシュなパフォーマンスで表彰台を沸かせるダニエル・オルガド選手。20代前半の若い勢力が押し寄せる近年のMotoGPにおいて、次世代を担う存在として世界中から熱い視線と期待を集めている。
Moto2からMotoGP最高峰クラスへのステップアップが決まっている20歳のダビド・アロンソ選手。表彰台でトロフィーを手に笑顔を見せる若き才能は、2027年からの新時代を象徴する注目株のひとりだ。
マシンが変わる、タイヤが変わる、ライダーが変わる。来シーズンがどうなるか、僕にはまったく分かりません。しかしひとつ分かるのは、「ものすごく楽しみ」ということ、ぐらいでしょうか(笑)。
それにしても、こういう若返りひとつとっても、MotoGPのプロモーションのうまさを感じます。もちろんライダーのラインナップは勝つための最重要課題なので、プロモーションのためばかりではないでしょう。ですが、MotoGPを買収したリバティメディアはスペイン人、イタリア人の増えすぎを憂慮し、ライダーの多国籍化を図っているようですから、「ずっと同じライダーでは飽きられる。どんどんアップデートしていく」という考え方もあるはずです。
そういう意味でも、小椋選手のMotoGPチャンピオン獲得には大きな期待がかかっています。我々にとっては「日本の小椋」ですが、MotoGPにとっては大きなマーケットになりつつある「アジアのオグラ」ですからね。世界各地でMotoGPを盛り上げるというショービジネス的な観点からも、小椋選手の戴冠には大きな意味があります。
チームスタッフと共に表彰台を祝福する22歳のイサン・ゲバラ選手。Moto2での活躍を経て、MotoGPへのステップアップが決定。チームとの絆を胸に、最高峰クラスという新たな挑戦の舞台へ挑む。
あのマルケスが、小椋藍を本気で警戒している
前回のコラムでも書きましたが、アラゴンGPの欠場はさほど大きな問題ではないと考えています。まだシーズンは折り返したばかりですから、しっかりとケガを治療して復帰し、今まで通りの落ち着いたレースをすれば、チャンスはあります。
ただ、ちょっと気になるのはマルク・マルケス選手(Ducati Lenovo Team)がスプリントレースと決勝で優勝したことです。僕としては、マルケス選手が得意としているアラゴンGPで勝てるかどうかが、復調の目安になると思っていました。
実はマルケス選手、自分自身のコンディションがなかなか戻らないことから、小椋選手をチャンピオン候補のひとりとしてかなりライバル視していたようです。「あの」マルケスが本気でそう言っていたようなので、それだけリアルに小椋選手の手強さを感じているということ。アラゴンGP終了時点で小椋選手のポイントランキングは5位になりましたが、まだまだこれからです!
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