大衆車をV6ミッドシップ化?! 日本では同じ名前で売れなかった「クリオ」に見るルノーの魂

大衆車をV6ミッドシップ化?! 日本では同じ名前で売れなかった「クリオ」に見るルノーの魂

よくよく考えてみると、ルノーはとにかくミッドシップ化するのが大好きなメーカーに違いありません。最初は大衆車のルノー5(サンク)をミッドシップにして、ターボまで追加した5ターボ。次いで、スポール・スピダーという生粋のスポーツカーを作ったかと思うと、またまたクリオという大衆車をミッドシップ化。ほかにも、ミニバンのエスパスにF1用V10エンジンをミッドシップしたコンセプトカーを作るなど、どんだけ好きなんだという気がします。そこで、5ターボよりも生産台数の少ないクリオV6スポールをもとに紐解いてみましょう。


●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s

V6エンジンは優勝請負人の手にゆだねられた

ホンダの販売店にクリオというのがあったために、日本では本名が使えず「ルーテシア(古都)」を名乗らされたルノー・クリオ。初代は1990年デビューで、「クリオ・ウィリアムズ」という痛快な限定モデルも生まれました。ミッドシップが登場したのは、クリオがフルモデルチェンジ(1998年)して二代目になった後、2000年のことでした。オールドファンは5ターボの再来と大喜びし、いにしえのマシンを知らないヤング層も「3リッターのV6をこんなちっちゃなクルマにミッドシップかよ⁉」と驚きと期待がないまぜだったかと。

実はルノースポールの要請で3リッターV6エンジンはトム・ウォーキンショーによるチューンナップがされていました。

このV6エンジンはルノー・ラグナ用でしたが、元はPSAグループで共同開発した汎用品。87mm×82.6mmのボアストローク、2946ccから190psというパフォーマンスでは歯ごたえに欠けるというわけで、チューニングが施されます。白羽の矢が立ったのがジャガーをルマンで勝たせた「優勝請負人」トム・ウォーキンショー。アルミブロックをいじくりまわして、吸排気のフルチューンで一気に280psまで高めたものの、ルノーはピーキーすぎる、耐久性が心配とかなんとかで、結局230psに落ち着いたのでした。

コンパクトなボディに大きくフレアしたフェンダーは文句なしのカッコよさ。乗り味はじゃじゃ馬そのもので、歯ごたえありそうですよ。

プロドライバーもてこずるクセ強な挙動

これをラグナの駆動系ごとクリオのリヤシート部分に搭載したのですが、やっぱり無理があった様子。一般的なFF車のパッケージを転用しているわけで、エンジンは横置き、ミッションも縦長レイアウトが避けられません。となると、搭載位置の自由度は狭くなり、重心位置が高くなってしまったのです。これは、クリオV6スポールを試乗したドライバーが口をそろえて証言しており、「タイヤのグリップ頼り」でひとたびグリップを失うと、挙動がトリッキーとなり、プロドライバーでも制御が困難になるのだとか。実際、筆者も筑波サーキットの第1コーナーを激しくコースアウトしていくシーンを目撃しています。

そこでルノーは二代目クリオのマイナーチェンジを機に、少量生産モデルとしては異例のアップデートを敢行。まずは足回りの設計変更が行われ、ダンパーやスプリングはもちろん、ジオメトリーまで再設計がなされています。また、タイヤも17インチから18インチの専用タイヤを設定(F205/40 R18 86Y,R245/40 R18 93Y)さらに、ルノースポール自らがエンジンチューンに乗り出し、最高出力255ps/7150rpm、最大トルク30.6kg-m/4650rpmとパワーアップまで行ったのでした。

しかしながら、トリッキーな挙動はいくらか是正されたものの、根本的なキャラに変化はなかったとのこと。やはり、ホイールベースが短いところに、重心位置が高いというパッケージは一筋縄ではいかないようです。5ターボでも似たようなこと言われていたのに、ルノーの面々はまったく懲りていないというか、ミッドシップさえ実現できれば他はどうでもいいと開き直っている気もします。が、フランスではこれはこれで「潔い」との評価なのかもしれません(笑)

TWRは280psまでチューンナップしたようですが、実際は耐久性などを考慮して230psに落ち着いたV6ユニット。搭載位置の高さがネックとなりました。

サイドサポートがいくらか増えて座り心地のよさそうなシート。フルバケットでないところが、フランス車らしいポイント。

ハンドルこそレザーが使われているものの、インテリア全体がクリオのまま。例によって、プラスチッキーでチープなところもフランス車の伝統かと。

2本出しマフラーの音はさほどの爆音ではありませんが、車内へ入る排気音のボリュームは大きめ。

ルノーの心意気を買うなら前期モデル一択

今回オークションで約1200万円の落札価格となったのは、マイナーチェンジ前の2001年モデル。2000~2002年まで、トム・ウォーキンショー・レーシングが1631台を生産し、前述の通りじゃじゃ馬という評価が定着しているもの。ちなみに、ルノースポールの手で作られた後期モデルの生産台数は1500台程度とされ、オークションでは前期よりいくらか高い相場を見せています。といっても、じゃじゃ馬だろうが未完成だろうが、ルノーの「ミッドシップ大好き」という心意気を手に入れると思えば、間違いなく前期モデル一択な気がします。

ミッドシップながら、わずかに荷室スペースを確保しているところが合理的なフランス人らしい設計。

アルカンタラを用いたシートは、あきらかにノーマル・クリオよりも上質。といっても、オシャレ度は5ターボにはかなわないかもしれません。

メーターの数字は260km/hまで刻まれています。

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