
ポルシェのファンならずとも、日本人にとってクレーマーレーシングは懐かしいメイクスのひとつでしょう。高橋国光/岡田秀樹組でのルマン参戦(962CK6)をはじめ、同じくルマンでホンダNSXを走らせたことを記憶してらっしゃる方は少なくないはず。もともとは創始者でレーサーだった、アルヴィン・クレーマー自身を支えるレーシングチームとしてスタートしたファクトリーですが、1979年にはルマンの総合優勝(935K3)を飾るまでに成長しています。また、レースだけでなくポルシェのチューニングカーでも高い実績を誇っているのです。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
本家ポルシェが935を走らせたと同時に公道仕様を完成
レースヒストリーは本が何冊も書けるほどの実績を誇るクレーマーレーシングですが、その実力にほれ込んだ顧客向けに、数々のチューンドポルシェも作り上げています。911を筆頭に、914/6(フラットシックス搭載の914)、あるいはグループ4ホモロゲーションモデルの934など、ポルシェのカタログモデルは片っ端からカスタム。とはいえ、記憶に残る最高峰は、やはりルマン優勝モデルをロードバージョンに置き換えた935ターボにとどめを刺すのかと。初めてリリースされたのは1976年といいますから、本家ポルシェ935のサーキットデビューとほぼ同じタイミング!
フェンダー上のヘッドランプをフロントのエプロンに移設して、空力性能を上げる手法はポルシェの伝説的エンジニア、ノルベルト・ジンガーのアイデアとされています。935は1976年のルマンに初めて投入されたにも関わらず、総合4位に食い込んでいます(ちなみに、同じポルシェのグループ6マシンだった936が優勝しています)セミワークスだったクレーマーも935を走らせたものの、この時は残念ながらリタイヤに終わりました。
ルマンでのリタイヤをチューンナップに役立てた
これがクレーマーのチューニング魂に火をつけたのでしょう。バルブ折損というリタイヤの原因を突き止めると、市販911ターボのバルブガイドを砲金に変更。さらにデトネーション対策を施すことで、KKK K27タービンで1.5barまで問題なくブーストがかけられるようになったといいます。ただし、当時の技術ではターボラグの解消までは及ばず、初めてクレーマー製911ターボに乗った方は大いに困惑したというエピソードも残っているほど。
こうして、レーシング935からのフィードバックを盛り込んだ公道モデルが「クレーマー935ターボ」でした。3.0リッターの911ターボをベースに、前述の改善をはじめ、インタークーラー、およびウェイストゲートバルブの大型化、オリジナル吸排気キット、強化点火キットなどを組み込み、300~350psを絞り出すに至りました。今でこそ瞠目するほどの数値ではないものの、当時のノーマル911ターボが0.8barの加圧で260psと聞けば、飛躍的なパワーアップと呼んで間違いありません。
本家ポルシェがルマンに初めて935を投入した年に、早くもクレーマーが築き上げた公道仕様の935ターボ。
911ターボよりも格段に拡げられたリヤフェンダー。バンパーのメッシュやリヤフォグランプが当時のスペシャルカー的な雰囲気です。
ルックスは公道を走る935そのものの仕上がり
さらに、935独特のフラットノーズをはじめ、リヤフェンダーの通気口、後にホエールテールと呼ばれることになるビッグウィングを装備することで、911ターボはあたかもルマンを走る935と見まごうまでの変身を遂げています。オークションに出品されていたサンプルは、アイスグリーンメタリックというアルヴィンが好んだグリーンにペイントされ、いかにもスペシャルカーといった佇まい。インテリアもゴージャスなGTマシンとして、モスグリーンのレザーがインパネまで覆い、レカロの電動シートはモケットとのコンビといったオシャレっぷり。ポルシェのスペシャルチューンならクレーマーという定評を思い知らせてくれるのが、落札価格17万3600ドル(約2700万円)。4万キロの走行距離を刻んだ911ターボとしては信じがたい高値でしょう。
クレーマーレーシングはアルヴィンが逝去した2006年以降、弟のマンフレードがけん引していましたが、2010年にはドイツの実業家が買収。歴代のレーシングカーとチューニングカーのレストアを担うほか、935やK3といったレジェンドマシンの新造も手がけている模様。クレーマーの伝説は、途絶えることなくこれからも続いていきそうです。
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