
世界を転戦するF1、MotoGPを追い続け、現在は全日本ロードレースや各メディアを中心に活動するフォトグラファー・折原弘之さんによる写真コラム。モータースポーツ好きに沁みる写真と文章をお届けしていく。
●文/写真:折原弘之
30年ぶりの全日本ロードレース転戦
2025年から全日本ロードレースを撮影する機会に恵まれた。年間に渡って全日本ロードレースを撮影するのは30年ぶりだろうか。’80年にロードレースとモトクロスの撮影を始め、’85年からはWGP(現在のMotoGP)へ。そして’92年からはF1に活動の場をシフトした。それ以来4輪レースのスケジュールに忙殺され、2輪レースは数えるほどしか撮影していない。
それでも「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、ロードレースは僕のカメラマン人生のど真ん中に根を下ろしている。そういう意味で、昨シーズンのロードレース撮影は20代の頃を思い出し楽しみだった。ただ不安がないわけでもない。それは、僕の表現したい世界がそこにあるのかという点だ。
ヨーロッパのライダーやドライバーは常に成績を求められ、シーズン中でも「シートを失ってしまうかもしれない」と言う現実が常に付きまとう。それはワークスの選手も例外ではない。そんな環境もあってかセッション中の彼らからは、近づきがたい雰囲気を纏っているのを感じる。彼らが放つ緊張感や迫力を表現したくて、サーキットに通っていたのだ。
その張り詰めた空気感が、果たして今の全日本ロードレースにもあるのか。もしかしたら、最近の風潮通り緩い感じになってしまっているのではないだろうか。一抹の不安を抱えたまま、4月20日にもてぎで行われる開幕戦を迎えた。
パドックに入ると、ライダー達は金曜日ということもあってか、ピット内でも笑顔を見せリラックスした感じだ。もしかしたら、このままの空気感でレースを迎えてしまうのかもしれない。やはり世界選手権で味わった緊張感は、全日本では得られないのか。
そんな不安の中で迎えた土曜日の公式予選、空気が一変した。ライダー達の行動が、昨日までとは明らかに違う。精神統一のため、目線を落とし集中する者。両手を組み、祈るように出走の時を待つ者。強い目線で一点を見つめる者。それぞれの方法で、コンセントレートしていく。その姿は、世界選手権も全日本も変わらなかった。
土曜のフリー走行までは短いレンズで近づいても撮影できたのに、予選では近づくことさえ憚られる。と言うより、彼らの闘争心に押し返される。たった1ラップに、それまで積み上げてきた全てをつぎ込む準備をしている。彼らにとっては、神聖な時間が流れているのを感じる。それは僕の待ち望んだ瞬間だった。出来るだけ彼らの邪魔をしないように。かといって気後れしないように。ギリギリの線を見極めて、レンズを向ける。彼らの放つ闘気に真っ向から立ち向かい、気持ちだけは負けないようにシャッターを切り続けた。
ライダーの放つ剥き出しの感情を受け止めながら撮影するのは、本当に重労働だ。たった15分の予選を撮影するだけで、心身ともにクタクタになってしまう。やっぱりロードレース、いやライダーはカッコいい。転倒すれば即リタイア、それどころかシーズンを棒に振る可能性さえある。大袈裟ではなく命懸けで挑んでいるアスリートは、腹の括り方が違う。
僕はその覚悟を撮影するために、サーキットに来ているのだ。18歳で初めて見たレースの興奮を、はっきりと思い出させてくれた。ここ数年、仕事に追われ撮影を楽しむことを忘れていた。レースに対する熱い思いが戻ってきた。ロードレースの撮影の場に戻ったことが、僕にとってまさに「原点回帰」となった。
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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