
ライディングスクール講師、モータージャーナリストとして業界に貢献してきた柏秀樹さん、実は無数の蔵書を持つカタログマニアというもう一つの顔を持っています。昭和~平成と熱き時代のカタログを眺ていると、ついつい時間が過ぎ去っていき……。そんな“あの時代”を共有する連載です。第28回は、マッハⅢから展開された750SS、350SS、250SSのデザインのお話。
●文/カタログ画像提供:柏秀樹 ●外部リンク:柏秀樹ライディングスクール(KRS)
“速さこそ正義!”の先駆けだったマッハ
カワサキといえば風を切り裂く「ザッパー」。シグナルGPで「速ければ正義!」という実にシンプルなイメージがあります。60代以上のライダーは特にその印象が強いと思います。
具体的には1969年登場のカワサキ500SS MACHⅢ(以下、マッハ)がその先鋒であることはちょっと歴史を知るバイクファンなら周知の事実と思います。
500ccの排気量で60psという数値はあまりにも非常識でした。リッター換算で120ps相当は、まさに当時のレーシングマシンの領域。
完全なコンディションのマッハなら1速はおろか、2速、否、3速まで前輪が高々と浮き上がる強烈加速を楽しませてくれました。中央シリンダーをちゃんと冷やすことが目的で前輪が前方配置されました。これによって前輪荷重が減少し、前輪が浮き上がりやすくなったことも理由のひとつですが、0~400mデータでもほぼ同時期に登場したCB750フォアと同等でしたから世界最速の500ccバイクであったことは間違いないのです。
強烈な馬力による速さだけでなく、デザインについてもこの時のカワサキは大胆な行動に出ました。
左右非対称の3本マフラー。独自のプレスラインを入れた細長い燃料タンク。この2つについてカワサキは従来の常識を打ち捨てました。
従来の常識とは1960年代半ばに登場した2ストローク2気筒250のA1と350のA7そして4ストローク2気筒のW1のスタイルでした。A1、A7の動力性能は他の国産車と同等かそれ以上の存在ではあったものの、外観デザインとしてはその中に埋没しそうでした。
それはまさに典型的なティアドロップ型燃料タンクは英国車流れをくむ模倣でしかなくて、言うなればW1を含めて英国車コンプレックスによるものだったと思います。
ゼロヨン加速が大好きな北米ライダーにとって、速いだけじゃなくて独自のスタイルも欲しい。
カワサキはそのニーズに応えるために第一弾として英国車のどれにも被らない独自のスタイルをマッハに託したのです。
相似形で250~750ccに縦展開、テールアップカウルを初導入した
カワサキがデザインの独自性を打ち出した記念すべきバイクがマッハだったのですが、カワサキはそこですぐに次の手を打ち出しました。750SS、350SS、250SSのラインアップでした。
250SSが初登場したときの「カワサキ3気筒シリーズ」カタログ。
この3機種は明らかに相似形としながら挑戦的な出立ちを見せました。ポイントは2つ。まずはリヤビュー。テールアップカウルの装備です。従来のバイクには存在しなかったリヤカウル装着は実に大胆でした。
欧州車ではノートン・コマンド「ファストバック」やハーレーダビッドソンFX系に採用の「ボートテール」など欧米のリヤカウル装備の流れにシンクロしたとはいえ、テールアップという名の通り、カウルの「高さ」による存在感では他を圧倒していました。
初期の350SS。
オートバイにもう一つの顔が生まれた。テールアップGT。──と銘打って新世代をアピールした。
いろいろな物が収納できるのでは、と思わせる大きな作り。まさにデザイン性だけでなく収納機能としても、のちに生まれてくる多くのバイクに影響を与えました。しかもリヤフェンダーを排除することで、それまでの雰囲気がガラリと変わりました。輸出先でリヤフェンダー付きモデルもありますが、デザイナーとしては「せっかくリヤフェンダーを排除したのに」という忸怩(じくじ)たるものがあったと思います。
しかし、前後ホイールと3本のマフラーのクロームメッキの輝きに、バフ掛けされたフロントフォークアウターチューブ、クランクケースカバーなど車体半分下部が、フロントフェンダー、燃料タンク、サイドカバー、リヤカウルの艶やかさを強く後押しするような光沢を放っています。
ともあれ、他とは明確に異なる「走り」と「メカ」と「外観」で「カワサキの存在感」を強くアピールしたのです。
当時最新のポップさを表現した
ポイント2つめはカラーリングです。1970年代初頭はサファリブラウンなど茶系のカラーが流行していました。カワサキもいち早くデザインに取り入れています。加えてタンクとリヤカウルのサイドに動きを感じさせる鮮やかで力強いストライプを入れたのです。
さらにマッハのプレスラインをやめてタンクサイドを平面的にしつつ立体的な金属エンブレムも省略してKAWASAKIのプリントロゴを大きく配置しています。
英国車の伝統的な権威やハーレーダビッドソンの風格よりも、明らかにポップな形状と色彩によって軽快な「シグナルGPの覇者」をアピールしたのです。
のちの3気筒SSシリーズは小さなリヤカウルデザインへと変遷。3気筒SSシリーズはその名称をKHシリーズの250、400、500として再構成しました。
SSシリーズのデザインパワーはZ1へと結実
CB750フォアの1969年鮮烈デビューから3年後の1972年にカワサキからZ1が生まれました。もともと750でスタートしたプロジェクトを白紙に戻して900ccで再スタート。動力性能だけでなく操縦性も外観もすべてリ・デザインした渾身の作と言えるものでした。
僅かな時間差で「4気筒ナナハン」としてホンダに先を越されたことが、結果としてカワサキのチャンス:大きな原動力あるいはDNAになったということです。
その中でカワサキがSSシリーズで磨いたデザインパワーが賢くZ1へ反映されたと私は解釈しています。
具体的には大きなリヤカウルはZ1では程よくリサイズ。
ティアドロップ型燃料タンクとしたのは圧倒的に多数と思われるデザインの保守層確保こそがベストという判断。
マイナーチェンジ版の350SS。
ウインカーステーのバルブステム形状化、メーターボディの砲弾スタイル化、レンズと別体にした左右のミラー、ステーのないクロムメッキフロントフェンダーの採用のほか、タンク後方下部とサイドカバー前部の連結デザイン化、そして北米市場が欲するワインレッド系ボディカラーに巧みな配置のグラフィックとストライプなど各パーツを徹底的に有機デザイン化する気配りを見せています。
しかもライダー視線の上部からの各部の抑揚をつけたセクシーで立体的なスリム化と各パーツにまでスリーク(艶やか)さも加えています。
750SSでもお洒落さを打ち出した。
SSシリーズで磨いた美的センスは多くの反省と修正を加えつつ、SSシリーズでは達成できなかったデザインを含めてZ1へ継承されていたのです。
500SSマッハⅢを起点にカワサキは単純に高性能だけでなく、デザインにも妥協しない姿勢を育み、カワサキのDNAとして最初に花開いたバイクがZ1だと解釈できます。
2ストローク3気筒SS系が、まさかまさかのZ1へ繋ったのです。
美に対する解釈は自由と思いますが、皆さんはどう思われますか?
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
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