
アメリカのヒーローで最も愛されたのはスーパーマンでもアイアンマンでもなく、バットマンにとどめを刺すようです。なにしろ、ドラマからアニメ、さらには映画も加えればとてつもない作品数に上り、関連アイテムの数は天文学的数字だとか。また、たくさんの乗り物が登場するのもバットマンの特徴で、とりわけバイクを颯爽と走らせているシーンを覚えている方も大勢いらっしゃることでしょう。
●文:石橋 寛(ヤングマシン編集部) ●写真:RM Sotheby’s
初代バットサイクルはヤマハの250バイクがベース
今回ご紹介するのは1966年に全米で放送されたバットマンのテレビドラマシリーズに登場したバイク。その名も「バットサイクル」と呼ばれる側車付きバイク、いわゆるサイドカーです。DCコミックでは、バットマンのバットサイクルは、786ccの液冷V4エンジンを搭載した改造されたストリートバイクで、コンピューター制御キャブレター(!)と防弾フェアリングを装備するという設定でした。が、もちろん架空の乗り物ですから、製作スタッフは市販バイクをカスタムして、どうにかバットサイクルに近づけようとしたのでした。
当初、シーズン1で撮影されたバットサイクルは1965年モデルのハーレーダビッドソンが使用されました。ロビンが乗る側車を追加して、それらしいカウルを装着したらしいのですが、詳しい資料が残っていません。しかも、このハーレーはシーズン中、ひとつかふたつのエピソードに登場したのみ。シーズン1終了時点で、借り出していたハーレーのディーラーに返却されたそうです。が、大人気を博したためにシーズン2の製作がすぐさま開始され、ようやくオリジナルバイクが生まれることになったのです。
1966年モデルのバットサイクル。ベースはヤマハ・カタリナ250、おそらくYDS3、通称エスサンとして知られる2ストバイク。
劇中でロビンの指定席となる側車は分離独立走行が可能となっている模様。初代バットマンのシンボルがブラックでなく、レッドというのも意外なポイント。
20世紀フォックスが支払ったレンタル料金は350ドル
なんと、ハーレーに代わってバットマンとロビンが乗ったのはヤマハ製バイクがベース! カタリナ250という輸出名が記録されており、おそらく国内のYDS3(通称エスサン)に等しいものかと。246ccの空冷2ストローク、24ps/7500rpmという国内のカタログスペックで前期モデルが1964年、後期モデルが1966年デビューとタイミングも一致しています。ちなみに、カタリナのネーミングは往年のカタリナ島グランプリという公道レースに由来するもので、ヤマハは1958年に初の海外遠征としての参戦、6位入賞という快挙を遂げています。
このバイクをカストモティブというカスタムファクトリーが魔改造。同ファクトリーのダン・デンプスキーが構想、トム・ダニエルがデザイン、ダンとコーキー・コークス兄弟が作り上げたとされています。ドラマの製作元となった20世紀フォックスは、カスタムとレンタル費用の前金として350ドル(当時レートなら12万6000円)、そして週に50ドルのレンタル料金を支払ったとのこと。なお、カストモティブはテレビ用のほかにショーに展示するためのレプリカを4台製作していますが、行方が分かっているのはこちらと合わせて2台のみ(レプリカのレプリカというのも存在しています)というお宝です。
大型カウルは防弾仕様(という設定)
バットサイクルのディテールを見ると、防弾仕様の大型カウルの存在感に目を奪われます。日本古来の月光カウルというのも目立つものですが、バットマンカウルだって負けてはいません。フロントフェンダーやリヤカウルにしても、こうもりモチーフがてんこ盛りで、こりゃチビッ子も大騒ぎするはずです。また、切り離して自走可能な(設定となっている)側車の作りも凝ったもの。アクセルとブレーキレバーが装備され、前傾で走る姿はまさにサイドカーレースを彷彿とさせるもの。これまた大型のサイドカウルの後部にはダミーなのか、マフラーエンドまで覗いています。
20世紀フォックスはテレビドラマの大人気から、シーズン終了後すぐさま映画を製作。この際にもバットサイクルが使用された模様ですが、カストモティブには2500ドル(当時レートなら90万円)が買い取り料金として支払われています。この大ヒットを皮切りに、バットマンはいくつものリブート作品が生まれています。それぞれ、バットサイクルが疾走するシーンは描かれているものの、リアルにバイクを感じさせてくれるのは、この1966年モデルに違いありません。ヤマハがベースという贔屓目を差し引いても、バットマンシリーズ中のベストマシンと称されるのも大いに納得です。
ヤマハYDS3(1964)国内モデルがこちら。バットサイクルではハンドルやタンクにその原型が見て取れます。
テレビ放送当時のバットサイクル。バットマンはともかく、ロビンのポジションは微妙なニュアンスです(笑)
※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
最新の関連記事(ヤマハ [YAMAHA] | 名車/旧車/絶版車)
様々な可能性が試された個性の時代 現代から過去を振り返って見ると、今に連なるメインストリームのマシン達が当然のように歴史を作ってきたように錯覚してしまう。しかし時代の王道を行くマシンの影には、無数の異[…]
浪漫の塊だったレプリカ 年末、あるいは正月にフランスのパリをスタートし、アフリカ大陸を走破してセネガルのダカールを目指す「パリ・ダカールラリー」(2009年からはコースを南米に移して開催)。1978年[…]
ヤマハポッケをレストア中 ヤマハの小さなレジャーバイク「ポッケ」のレストアが進行中です。 元の状態は、まぁ控えめに言って半分“鉄くず状態”。詳しい様子はYouTubeで見ていただくとして、とにかく最初[…]
国産スクーターの復権 スーパーカブのようなビジネスバイクが主流であった50ccクラスに、ホンダが送り出したロードパルは「女性でも手軽に乗れるお買い物バイク」として新たな市場を開拓。これに対抗し、ヤマハ[…]
ホンダNSR50が、12インチの景色を変えた 前後輪12インチの50ccロードスポーツバイクといえば、ホンダ「NSR50」「NSR80」を思い浮かべるバイクファンは多いことでしょう。それというのも、こ[…]
最新の関連記事(名車/旧車/絶版車)
様々な可能性が試された個性の時代 現代から過去を振り返って見ると、今に連なるメインストリームのマシン達が当然のように歴史を作ってきたように錯覚してしまう。しかし時代の王道を行くマシンの影には、無数の異[…]
浪漫の塊だったレプリカ 年末、あるいは正月にフランスのパリをスタートし、アフリカ大陸を走破してセネガルのダカールを目指す「パリ・ダカールラリー」(2009年からはコースを南米に移して開催)。1978年[…]
再現という行為の本質 第18回モンキーミーティングの会場には数多のモンキー系カスタムが集まり、綺羅星のごとく会場を埋め尽くしたカスタムモンキーの中に一際目を惹く1台があった。 それは伝説的名車であるホ[…]
特殊シリコーン被膜で穴を埋めてサビを防ぐメッキングの可能性を追求 平滑で均一に見えるクロームメッキ被膜には無数の穴があり、そこから浸入した水分によりサビが生じるメカニズムに注目し、特殊シリコーン被膜で[…]
400cc4気筒ブームの立役者、第3世代の直4を実現したカワサキの戦略 Z1/Z2系からZ650のザッパー系に続くカワサキ直4の第3弾がZ400FX。1980年代初頭に日本で巻き起こった空前のバイクブ[…]
人気記事ランキング(全体)
【魅力1】30年ぶりの4気筒フルカウルに最新「Eクラッチ」を融合 「4気筒の高周波サウンドを響かせながら、風を切って走りたい」。そんなフルカウルファンの渇望を満たすCBR400R FOUR E-Clu[…]
開店休業状態のランボとBMWがタッグを組むのだが… M1をざっくり説明すると、1976年にBMWがグループ4/5に参戦可能なマシンの開発に乗り出し、当時の趨勢(すうせい)だったミッドシップを画策。とは[…]
未踏の地へ。30Lタンクを備えた「V4 ラリー」の絶対的安心感 長距離ツーリングの最中、「ガソリンスタンドが見つからない」「足つきに不安がある」とストレスを感じた経験はないだろうか。 V4 ラリーは、[…]
SEに新色シルバーが登場。スペックと価格は据え置き 「毎年モデルチェンジをされると、いつ買えばいいのか迷ってしまう」。そんなライダーにとって、2027年モデルは非常に安心できる内容となっている。 結論[…]
気温45℃再現ブースで驚異の-30℃冷却能力を体感してみた ウインドコア ICE&HEATERペルチェベスト こちらはICE&HEATERペルチェベスト。身体を直接冷やす、-30℃の冷[…]
最新の投稿記事(全体)
様々な可能性が試された個性の時代 現代から過去を振り返って見ると、今に連なるメインストリームのマシン達が当然のように歴史を作ってきたように錯覚してしまう。しかし時代の王道を行くマシンの影には、無数の異[…]
人生を変える大きな第一歩になるかも!? 初めてのハーレー体験ができる公式イベント 「次のハーレーはどれにしようか」と、悩んでいる既存ユーザーたちはもちろん、まだハーレーに乗っていない人も大歓迎なのが、[…]
ショートパンツ×素足にGSブーツ?!みんなが気になるF450GSカラーラインナップ! 皆様こんにちは~指出瑞貴です! 絶賛梅雨シーズンの中ではありましたが、6/26に開催された「BMW NIGHT […]
レースを戦うために研ぎ澄まされた、妥協なきスペック 「最新の電子制御と、エンジンを限界まで回し切る快感を両立した生粋のサーキット用レーシングマシンが欲しい」。そんなハードコアなスポーツ走行愛好家にとっ[…]
2027年モデルSEに精悍なブラックが登場。価格とスペックは据え置き 「毎年仕様が変わると買い時がわからない」「また値上げしてしまうのでは」。そんな不安を抱えて購入を迷っていたライダーにとって、今回の[…]
- 1
- 2










































