
1993年、デビューイヤーにいきなり世界GP250チャンピオンを獲得した原田哲也さん。虎視眈々とチャンスを狙い、ここぞという時に勝負を仕掛ける鋭い走りから「クールデビル」と呼ばれ、たびたび上位争いを繰り広げた。’02年に現役を引退し、今はツーリングやオフロードラン、ホビーレースなど幅広くバイクを楽しんでいる。そんな原田さんのWEBヤングマシン連載は、バイクやレースに関するあれこれを大いに語るWEBコラム。第152回は、兄マルケスの凄さとバニャイアの来シーズンについて。
Text: Go TAKAHASHI Photo: Michelin, Honda Mobility Land
1度しか獲れなかったチャンピオン、でも得たものは大きかった
前回の続きです。これは僕の失敗談ですが、’95年、オランダGPの予選でのこと。すでにいいタイムを出していた僕に対して、監督のウェイン・レイニーさんが「今回のパッケージでは、これが限界だ。もう無理しなくてもいいぞ」と言ってくれていたんです。でも、どうしてもマックス・ビアッジより前になりたかった僕は、レイニーさんの言いつけに背きました。ラスト10分で新品タイヤを履いてタイムアタック! 限界以上の走りで転倒し、背骨を折りました。
後悔しましたね……。痛さと悔しさで夜は眠れませんでした。まだ血気盛んな20代でしたし、「負けたくない」という意欲が強すぎて、冷静さを忘れてしまったんです。そういう熱意こそをマネージメントしなくてはいけなかったのですが、これがなかなか難しい。痛い思いをしないと成長できないのは、レーシングライダーという生き物の性なのかもしれません(笑)。
グランプリ生活を送る中では、自分ではどうにもできない不運にも見舞われました。エンジントラブルによるリタイヤや、皆さんご存じの、他のライダーに突っ込まれてのリタイヤ……。何だかんだいろいろあって、結局僕は10年間で1回しか世界タイトルを取ることはできませんでした。
だからマルケスのように何度もチャンピオンを取り続ける人は、本当にすごいと思います。僕もせめてマシンがあれほど壊れたりしなければ、あと2、3回は……なんて振り返ることもありますが、それ以上にグランプリ生活で得たものは大きかったように思います。
2025年シーズン、文句なしのチャンピオンを獲得したM.マルケス。
世界に出てもっともよかったことは、僕という人間を大きくしてくれた、ということ。日本にいただけでは想像もつかないような人脈もできて、その人たちと触れ合うことで、いろんなものの見方や、いろんな角度からのものの考え方を身に付けることができました。すごく濃いライダー人生だったな、と思うし、はっきり言ってこれ以上の財産はないとも思います。
チャンピオンを複数回取っても、引退後に孤独な人生を歩んでいる人もいます。でも僕は今、すごく人に恵まれていることを実感しています。ライダーとしてはやり切れなかったのかもしれませんが、人生全体を考えれば、チャンピオンが1回だけでもまったく後悔していません。
自分で言うのもナンですが、たぶん僕なりに全力を尽くしていたから、それを周りで見てくれている人たちがいて、いいつながりが作れたのでしょう。「若いうちに一生懸命やっておいてよかったな」とつくづく思いますし、ジジも、僕の頑張りを分かっていたからこそ、見捨てなかったのでしょう。だからきっと、バニャイアのこともジジから見捨てることはないはずです。
だから僕は今から、来年のドゥカティが楽しみで仕方ありません。ジジはどんなマシンを用意するのか……。ジジの性格を考える途、何でも乗れるマルケスに寄せるのではなく、むしろ今年苦労したバニャイア寄りのマシンになるような気がしているのですが、果たして……!?
M.マルケスは怪我の影響で欠場、バニャイアが次期マシンを走らせたバレンシア公式テスト。ジジ・ダッリーニャ(左)は何を想う?
タイトルカットが来季のマシン。こちらは今季のマシンだ。
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